「離婚してくれるのか?って嬉しそうだけど、あなた私を誰だと思っているの?」
無償の愛
私には両親の他に無償の愛情を与えてくれる人がいる。
それが母の妹で、メリアーヌ叔母様だ。
小さな時、私がきちんと名前が呼べず、叔母様のことをアーヌおばちゃまと呼んでいたのだけど、きちんと名前を呼べるようになった初めての日を私は覚えている。
家に遊びに来てくださったメリアーヌ叔母様に、私は習ったばかりの淑女の礼をしてご挨拶した。
「ようこそいらっしゃいました。メリアーヌ叔母様」
ワンピースのスカートの端を少しつまみ、膝を軽く曲げて微笑んで見せると、叔母様は少し口を開け涙をポロポロ流したまま動かず。
それを見た母が困ったように笑うと、私が淑女の礼を習って出来るようになったと説明してくれた。
母も私もちゃんと淑女の礼が出来るようになったのを感動しているのだと思ったのだ。
そう、感動しているのだと……。
しばらくして叔母さまはその場に崩れ落ちた。
「私の天使が! 天使がぁああああああ! いつもかわいく舌足らずでアーヌおばちゃまって呼んでくれたのにぃ! もう聞けないんだぁあああああ!」
いつもは侯爵夫人として上品な叔母さまが、涙を流して拳で地面を叩く様に、私と母はドン引きした。
うん、わかってました。
私に対して並々ならぬ愛情を与えてくれているのは感じてましたし、結婚しているのに私に「私の侯爵家はメディティーナにあげちゃうよ? それまでおばちゃまがたくさん稼いでおいてあげるからねぇ」なんてちょっと冗談とは思えないようなことを言う人ではあった。
けれど、母に「メリアーヌやめなさい! メディティーナが怯えているでしょうが!」と怒られても、叔母さまは私が「アーヌおばちゃま」と呼ぶまで泣き叫んでいたことは忘れようもない出来事だった。
それ以降、家族以外の前ではメリアーヌ叔母様と呼んでも返事をしてくれるけど、家族の前ではアーヌおばちゃまと呼ばないと返事をしてくれなくなってしまったし。
学院で私に意地悪していたクラスメートの女の子が叔母さまの旦那さんと不倫したとかで離婚したのだけど、叔母様は「これで障害は消えたわ。侯爵家をメディティーナにあげられるまでもう少しよ」と、嬉しそうに言われ、本当に侯爵家を私に与えようとしているのではないかと、不安になってあれこれ悩んでいた私の頭に円形脱毛症が出来てしまった。
今、叔母様の無償の愛情が重いと思ってしまっている私はいけない子なのでしょうか?
【完】
2025/08/08 リクエストのメリアーヌとメディティーナの小話です。