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冒険者ギルド

シルフィの案内とパワードスーツ代わりにしているエーテルのおかげで、俺達はすぐに森を抜ける事が出来た。日がのぼった時間が多分5時かそこらなら、今はまだ8時くらいだろうか。森の近くに街道があり、今はその街道を通って街に向かっている。街へは、シルフィが過去に行ったことがあるらしく、方向が分かったのがありがたい。ただ、シルフィが街へ行っても誰にも姿が見えず、声は聞こえる人間が居たらしいけど不気味がられるだけだったから長居はしなかったみたいだけど。


「ほら、あれが街の入口だよ。人間達はあそこから入っていくんでしょ? 僕は普通に通り抜けられるんだけど、アキラは無理だろうし」


俺には遠くに城壁が見える程度にしか見えないが、シルフィは目が良いのか入口まで見えるみたいだ。俺にはまだ入り口がどこか分からないが、道が続いている場所だろう。


「それじゃあ、そろそろ必要最低限の物だけ持って行くか。さすがに、空中に浮かばせるわけにはいかないからな」


エーテルは誰にも見えないから、それで包んだものは空中に浮かんでいる様にしか見えない。ちなみに、着色も無理だった。すぐに流れ落ちてしまう。蔓の様なものでエーテルを編めばいいのだろうが、エーテルを変化させるとすぐにちぎれそうなので試していない。


俺は要らなくなったものを捨てる。水は要らないだろう。食料は葉っぱで包んだキラーディアの肉を少しだけ持っておく。そして、売れるはずのキラーディアの角だけ持ち、あとの素材は近くの木の傍に隠しておく。


街の入口は、まだほとんど人が並んでいなかった。そこに商人でも居れば素材を売れたかもしれないが、運悪く旅人くらいしかいない。そして、すぐに俺の番が回ってきた。


「どうしたんだその格好。って、奴隷か。主人はどうした?」


門番は、俺の首についている奴隷の首輪を確認すると、布の服だけの俺の格好にも納得したようだ。奴隷に綺麗な服を着せるやつなんてほとんど居ないだろうからな。


「ここに来る途中に魔物に襲われて、俺は囮として捨てられました。だから、主人は今はいません」


「そうなのか・・・。よく生き残れたな。ということは、今は時間が経って命令切れの状態か。主人の元に戻るのか?」


「いえ、戻りません!」


「だろうな。それなら普通の旅人として扱うが、通行税は払えるか?」


門番は俺が奴隷だと分かっても態度を変えなかったので助かる。俺は事前に考えていた通りに行動する。俺は服の下に隠していたキラーディアの角を出す。見えるように持っていたら、取り上げられそうだったからな。


「物で支払う事って出来ますか? これ、森で拾った魔物の素材です」


「キラーディアの角か。それなら金になるだろうが、あいにく物での支払いは認められていない」


「そうですか・・・」


「だから・・・おい、新人。こいつを冒険者ギルドへ連れてってやれ。素材が売れたら、きちんと通行税を回収してから戻って来いよ」


門番は、新人らしい若そうな他の門番に命令していた。忙しく無さそうだから、俺を冒険者ギルドに連れてってくれるようだ。それにしても、この世界に冒険者ギルドってあるんだな。


「分かりましたっす。じゃあ、おいらについてきて下さいっす」


「終わったら、すぐに戻って来いよ。さぼったらただじゃおかないからな」


「分かってますって」


この新人、性格が軽そうだな。まあ、おかげで俺も気を使わずに済みそうだ。見た感じ、俺と同い年くらいに見えるし。


俺は新人の門番について歩く。近くにシルフィも飛んでいるが、本当に誰にも見えないようで騒ぎにはなっていない。


「奴隷の首輪も解除するっすか? 教会に行けば金貨1枚で奴隷契約を解除してくれるっすよ」


「お金はまだ持っていないので無理ですね。それに、たぶんこの首輪を外したら言葉が通じなくなりそうです」


「あ、召喚された方っすか? 珍しいっすね。それなら、心配いらないっすよ。契約解除しても翻訳能力は失われないっす。それに、翻訳の魔道具だけなら金貨3枚くらいで買えるっすよ」


「えっと、この世界に来たばかりでお金の価値が分からないのですが、教えてもらえますか?」


「その前に、タメ口でいいっすよ。おいらの名前はシーク。まだ門番1年目の新人っす」


「俺の名前はアキラっていうんだ。よろしく、シーク」


「よろしくっす。それで、お金の価値っすよね。一番低いものから並べると、鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順で高価になるっす。ちなみに、宿屋に泊まるなら大体大銅貨3枚から5枚が平均っすね。パンなんかの食料品は銅貨1枚から3枚で買えるっす」


日本円に換算すると、鉄貨は十円で銅貨は百円、大銅貨は千円で銀貨は一万円、金貨は十万円で白金貨は一千万の価値のようだ。ならば、翻訳の魔道具が金貨3枚なら30万か。どうやらこの世界では翻訳の魔道具はそれほど高価では無いのか? それには、収入がどれくらいなのか知る必要があるな。


「門番は一か月にどれくらい貰えるんだ?」


「先輩たちは月に金貨3枚ほどっすね。ちなみにおいらはまだ新人だから銀貨15枚っす」


普通の門番は月収30万で新人は15万か。それが高いのかどうかはわからないが、金貨3枚を稼ぐのはそれほど難しくは無さそうで安心した。


「それじゃあ、この素材はいくらくらいで売れるんだ?」


「知らないっす。おいらは冒険者ギルドで物を売る事はないっすからね。けど、先輩が通行税を回収して来いって言うんだから、銀貨1枚より安いって事は無いと思うっすよ」


「え・・・通行税って銀貨1枚なのか? 高く無いか?」


「身分証を持っていれば大銅貨1枚っすよ。身分証を持っていないなら犯罪歴とかも分からないっすから、高くなるのはしょうがないっす。場所によっては、身分証が無いと入れない街とかもあるんすよ?」


「そうなのか・・・。身分証ってどこで手に入るんだ?」


「冒険者ギルドで冒険者登録をするか、商業ギルドで商人登録をすればいいっす。街で産まれれば自動的に身分証が発行されるっす。けど、召喚されたなら持って無いのが普通っすね」


シークに色々聞いているうちに冒険者ギルドに着いた。冒険者ギルドは、まあまあ大きな建物だった。冒険者ギルドには、外から獲物を持ち込むこともあるからか、門から近いところに建っていることが多いらしい。確かに血生臭い獲物を持って街の中へは入ってほしくないわな。


「こんちわーっす」


「お、お邪魔します・・・」


シークに続いて俺も入る。中は受付嬢が居るカウンターらしき場所と、バーみたいな場所が併設されていた。ギルドにとっては依頼達成で稼いだ金を使って貰えるっていうのと、冒険者が待ち時間をつぶすにはいい配置なのだろう。


何人か居る冒険者が俺を見るが、シークが一緒に居るからか絡まれることは無かった。もし、シークが居なかったらこんな見た目の俺なんてすぐに絡まれていただろうから、あの門番の人はこれを見越してシークをつけてくれたのか? だとしたら、あとからお礼を言っておかないとな。


「ジェーンさん、おはようございますっす」


シークは、何人か居る受付嬢の中でも、一番若くてかわいい子に声をかける。俺だったらそんな度胸は無い。


挿絵(By みてみん)


「あら、シークさん。珍しいですね? お仕事はよろしいのですか?」


「今はこれが仕事っすよ。この人の冒険者証の発行と素材の買取をお願いしたいと思ってるっす。その買取金額から通行税を回収するのがおいらの仕事っす」


「そうだったんですね。でしたら、こちらにご記入ください」


ジェーンさんは1枚の紙を俺に渡してくれた。翻訳の効果か、文字も読める。何気に高性能な翻訳機能だ。もしかしたら、シルフィと言葉が通じるのもこれのおかげか? 首輪がなかったら結構アウトだったんじゃ無いか? 言葉が通じない場所で生きていく自信なんて全くないぞ。


「何々、名前、年齢、職業、出身地、備考か。出身地って必ず書かないとダメですか?」


「はい。出身地登録は必須となっております。何か問題を起こした時に、出身場所に確認されますので」


「えっと、俺は召喚されたので出身地はどう書けばいいですか?」


「あら、そうだったんですね。でしたら、この街の名前をお書きください。そして、出身国を備考に書いていただければいいですよ。何かあった場合、最初に登録された街に確認が来ますので、少し詳しく審査させていただきますが」


「分かりました。って、この世界の文字書けないんだけど」


「おいらが代筆するっす。基本的に代筆はダメなんすけど、門番のおいらなら大丈夫っす」


それも見越していたのなら、あの門番の人ってまじ有能だな。本気で差し入れでも持って行くべきか?


「名前はアキラ、年は16歳、職業は・・・今は無いかな。国名はニホンだ」


「あ、職業は戦士や魔法使いの様なものを指すんですよ。こちらで水晶に触れて下さい。ステータスが表示されますので。ついでに、犯罪歴もこれで分かりますから、先にこちらをやるべきでしたね」


俺はジェーンさんにカウンターの一角に連れていかれる。他の人から見えないように配慮されている場所だった。そして、俺は水晶に触れる。ステータスというが、表示されているのは犯罪歴と職業だけだった。もしかして、プライバシー保護の為に、必要な物だけ表示させる機能とかあるのかな?


犯罪歴・・・無し。職業・・・精霊使い。


「え・・・精霊使い?」


ジェーンさんが、口を開けて固まる。


「えっと、ジェーンさん? 大丈夫ですか?」


「え? あ、はい。大丈夫、です。うん、私は大丈夫、大丈夫」


「なんか大丈夫そうに見えないんだけど・・・」


「少々お待ちして頂けますか? ギルドマスターに確認を取ってきますので」


「え? ちょっと!」


俺が止める間もなく、ジェーンさんはダッシュで建物の奥へと走っていくのだった。

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