魔力蓄積水晶2
それから約100分後、水晶は満タンになった。魔力を溜めるのに集中していたため、ルゥナ達の話を全く聞いていなかったが、話はまとまったのだろうか?
「ふぅ、やっと溜まったみたいだよ」
「ありがとうございました! まぁ! 水晶がこんなに輝いているのを見るのは初めてですわ!」
ライラお嬢様は俺から水晶を受け取ると、それを持ってクルクルと回って喜んでいる。
「ただ、この水晶は放置しておくと1日に10%の魔力が失われてしまいますの。このまま何もしなければ、満タンの状態でも10日で空になってしまいますわ」
だから持ってきたときには空の状態だったのか。そうでなければ、ずっと満タン状態で溜めて置いておいた方がいいだろうしな。緊急時に空だと、結局ライラお嬢様の魔法は使用できないし。
「さっそく、使ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「いいわよ。私も転移を見てみたいもの」
「それでは、私の部屋からここへ転移して見せますわね。使用魔力量は移動距離で変わらないので、近くだともったいないのですけれど」
「まあ、今ならアキラがいるから、すぐに補充できるから別にいいわよ」
「って、俺の仕事が増えるだけじゃ・・・。まあ、いいけど」
めんどくさいと言おうと思ったが、ライラお嬢様の表情が少し暗くなったので了承しておく。動けないだけで別に苦にはならないからな。
「それじゃあ、転移ポイントをここに設置致しますわ」
ライラお嬢様が床に手を触れると、小さな魔法陣が展開される。
「それじゃあ、私は自室へ移動しますわね」
「私は転移する所を見るから、アキラはここでライラお嬢様が転移してくるのを確認してちょうだい」
「わかったよ」
「拙者もここで待とう」
ルゥナとライラお嬢様は部屋を出て行った。
「そういえば、いつごろ転移してくるんだろうか?」
「どうだろうな? 拙者も転移という魔法を見たことが無い。一体、どれくらい時間がかかるのか予想もつかぬ」
「だよね」
「僕は分かるよ。転移で移動する時にはそこの魔力が乱れるからねー」
「へぇ。シルフィには分かるのか。それなら、シルフィに任せてちょっと待つか」
俺は椅子に座ろうと思い、くるりと振り返る。
「あ、来るみたいだよー」
「もう!?」
椅子に座る前に、シルフィから来ると教えられる。そして、さっきライラお嬢様が触れていた床の魔法陣が大きくなる。その瞬間、ライラお嬢様が現れた。
「あら、ごきげんよう。成功ですわね」
ライラお嬢様が持っている水晶の光が8割ほどになっている。確かに魔法の使用に使われたようだ。そして、すぐにルゥナも部屋へと入ってくる。
「確かに成功した様ね。本当に一瞬で移動できるのね、面白いわ。暗殺に持ってこいの魔法だわ、私も覚えられないかしら?」
「ふふっ、この魔法は特殊ですから無理ですわよ。それに、重要な場所には転移されないように障壁が張られているのが普通ですわ」
「確かにそうね」
ルゥナの表情を見るに、知ってて言ってる気がする。
「とにかく、アキラは水晶へ魔力の補充を頼むわね」
「はいはい」
俺はライラお嬢様から水晶を受け取り補充し始める。
「転移は、どの程度の距離まで移動できるの?」
「さっきの様にポイントさえ設置すれば、距離は関係ありませんわ。使用魔力量も一定ですわよ」
「あら、アキラはさっきの話を聞いていなかったのかしら」
「ああ、魔力を込めるのに集中してて聞いてなかった」
「はぁ、二度手間ね」
それなら、先に聞いておけと言っておいて欲しかったが、ルゥナだからな。そして、かいつまんで説明を受けた。ライラお嬢様の転移は、ポイントを設置すれば距離関係なく移動でき、消費魔力も一定らしい。
「だから、一定距離移動した後にポイントを設置して帰還。それを繰り返せば、ここにいるままで旅を進める事が出来るわ」
「はい。その代わり、アキラ様に水晶への補充を定期的にしてもらうことになっています」
「俺、その話はまだ聞いてないんだけど?!」
いつの間にか、俺の仕事が勝手に決まっていた。まあ、水晶に魔力を込めるのは集中しなくてもいいようだと気付いたからいいんだけど。最初は手のひらに魔力を込めるのに集中する必要があったんだが、別に集中しなくても手さえ水晶に置いておけば勝手に補充される。これなら、話を聞きながらでも大丈夫だ。
「さっそく、南へ移動しながらポイントを設置をしましょう。私とライラお嬢様だけ移動すればいいから、アキラとルビーはこの屋敷で好きにしてていいわよ」
「そうか? それならゆっくりさせてもらうよ」
「拙者は修行していよう」
「なら、アキラはルビーに稽古をつけてもらいなさい」
「好きにしててっていったのに!?」
俺の行動がどんどんルゥナに勝手に決められていってる気がする。まあ、戦闘経験が少ないから、少しは強くなろうと思っていたけど今じゃない。うーん、時期が早まったと考えるべきなのか? それに、最近はよく面倒ごとに巻き込まれるから・・・いや、現在進行形で巻き込まれている気もするから、修行は必要か。
「・・・分かったよ」
「ユラとシルフィは自由にしてていいわよ」
「あたしはご主人様と一緒に修行しまちゅ!」
「僕はのんびりとアキラがボコられるのを見てるよー」
くっ、今はシルフィに言い返せない実力しか無いから仕方ない。ただ、それを面白がられるのは面白くない。それにしても、ユラはけなげでかわいいね!
「それじゃあ、さっそく行動開始ね。いいわね? ライラお嬢様」
「ええ。一緒に行動する間は冒険者のライラとして活動しますわ。その時は、ライラと呼んでくださいね」
「分かったわ」
「それじゃあアキラ、拙者とさっそく修行しよう!」
「お願いします・・・」
ライラお嬢様とルゥナは屋敷を出て行き、俺とルビーは屋敷の庭へと移動する。
「何の修行をするんだ? 俺は一応剣を持っているけど、腕前はそれほどじゃないよ」
「知っている。だが、拙者が教えるのは剣術ではない。まあ、基礎体力をつける修行はするが、メインは精霊魔法だ」
「ルビーが精霊魔法を教えるのか?」
「ああ。拙者自身が精霊魔法使いを目指している以上、恐らくアキラ殿よりも知識を持っているはずだ」
それなら、もっと早く教えて欲しかった気もするが、俺もまさかルビーが精霊魔法の知識を持っていると思っていなかったからな。正直、ルビーは精霊魔法使いになってから学ぶものだと思っていた。
「え? アキラって精霊魔法使いを使えるんですかー?」
「? 今まで何度も使っていたでは無いか」
「確かに、アキラはユラの精霊魔法は使えますけどー、僕とは契約してないですよー?」
「なに? そうなのか? それなら、アキラが使える精霊魔法は何だ?」
「そう言う意味なら、俺が使える精霊魔法は世界樹の雫だけってことになるのか?」
「・・・それは、さすがに練習で使うわけにはいかぬな」
ルビーも世界樹の雫の空間魔力の使用量を知っているため、気軽に使える魔法ではないと分かっている。
「だが、契約していない精霊の魔法を使えるのと言うのは拙者も聞いたことが無い。うーむ、アキラ殿は普通とは別の、シルフィ殿との連携を鍛える必要があるのか?」
「えー、めんどくさいですねー。僕の気が向いた時だけならいいですけどー」
「うーん、まずはシルフィ殿のやる気を出させる事から始めねばならぬのではないか?」
「そうなるのか・・・」
思っていたのと違う修行の始まりになりそうだ。




