魔力蓄積水晶
客間でくつろいでいると、ノックがあった。ドアを開けると、ライラお嬢様が真剣な顔をして立っていた。
「中へ入れて貰ってよろしいかしら?」
「どうぞ」
俺はライラお嬢様を中へと入れる。ルビーと一緒にソファに座り、ルゥナは俺の肩に座る。ルゥナは俺の肩を定位置としたようだ。
「用件は何かしら?」
「私、決めました。だから、あなた方を雇ってオークの事を調べたいと思います」
「昨日も言った通り、私達はまだDランク以下。指名依頼を受ける義務は無いわ」
「でしたら、私の力を使って協力致します」
「あなたの力を・・・?」
ライラお嬢様の力ってなんだろう? 昨日はそんな話は無かった。それに、そんな力があるなら別に俺達じゃなくてもいい気がするんだが。
「はい。私は非常に珍しいスキルを持っています。それを使えば、あなた方の旅をサポートする事が出来ると思います」
「具体的に聞いてもいいのかしら?」
「・・・転移スキルです」
「それって、好きな所へ瞬時に移動できるって事?」
俺は、転移と聞いてつい口をはさんでしまうが、仕方ないだろう。
「そうです。ただ、私が行ったことのある場所に限られますが」
「そんな強力なスキルがあるならば、伯爵を転移で送った方が早かったのでは?」
「はい。ですが、転移には非常に多くの魔力が必要なのです」
そこから、ライラお嬢様は必要な魔力量を教えてくれる。自分ひとりが転移する場合は、一般的な人間の魔力量の2倍が必要で、他人と一緒に転移する時は魔力量が4倍必要だと。さらに、最高で5人までしか運べない。
「ということは、ライラお嬢様は一般的な人間の5倍の魔力を持っていると?」
「いいえ。私の家の秘宝を使う事になります」
ライラお嬢様は、マジックボックスから水晶玉を取り出す。水晶玉は、灰色にくすんでいた。
「これは、魔力を溜めることが出来るのです。ただ、蓄積の効率が非常に悪く、送った10%ほどしか蓄積することが出来ません。ちなみに、私自身の魔力量は一般的な人間の魔力量よりも低いので、自身の魔力だけではスキルを使えないのです・・・」
「試しに、魔力を込めてみてもいいかしら? 私は、普通の2倍は魔力量があるわ」
「お願いしますわ。魔力を手のひらに集めるようにして水晶玉に触れると蓄積されますわ」
ライラお嬢様はルゥナに水晶を渡す。ルゥナが持つと、ライラお嬢様の手のひらサイズの水晶玉がルゥナの顔より大きいな。
ルゥナは、水晶玉に魔力を込め始める。そして、1分ほど経った。
「なるほど。確かに10%ほどになるのかしら。それに、込めるのにも結構時間がかかるのね」
見ると、水晶玉の下の方がほんの少し光っている。これは100分の1程が光っているってことか?
「拙者もやってみていいだろうか?」
「はい。お願いしますわ」
次にルビーも込めてみる様だ。ルビーはルゥナから水晶を受け取り、魔力を込める。1分ほどしてみると、水晶玉の光はさっきよりも少しだけ多く溜まっているようだ。ほとんど分からないが。
「なるほど。これを最低スキル1回分溜めるとなると、20人分の魔力を込めなければいけないという事か」
「そうです。それに、すべての魔力を込めて魔力不足に陥るわけにはいきません。だから、余裕がある分だけを込めるとなると時間がかかるのです」
魔力は、8時間ほど寝れば全快するらしいが、魔力不足になると大変な苦痛が伴うそうだ。だから、この水晶に余裕分だけ魔力を込めるとしても、満タンにするのに100人分以上の人数が必要になるだろう。
「僕も出来るのかなー?」
シルフィも水晶に魔力を込めようと水晶に触ろうとするが、その手は水晶を貫通する。どうやら、精霊は水晶に触れないようだ。
「シルフィは無理そうだな。じゃあ、俺もやってみようかな? 自分にどれだけの魔力があるかわからないけど」
「普通は、自分の魔力がどれくらいあるのか一度は調べるものだけれど、アキラは仕方ないわね。ついでだから、その水晶で魔力を測ればいいわ。正確に分かるでしょうし。辛くなったらやめるのよ? そこがあなたの限界なのだから」
「そうだな。じゃあ、やってみるか」
俺はルビーから水晶を受け取り、魔力を手に込める。1分・・・2分・・・あれ? まだ余裕なんだけど。1分で1人分なら2分で2人分。つまり、俺の魔力は常人の2倍以上という事になる。
「大丈夫なの? 無理してないかしら?」
「ああ、平気だ。もう少し込めてみるよ」
3分・・・4分・・・。
「さすがにおかしいわ。常人の4倍の魔力なんて、宮廷魔導士の団長でも持っている者は少ないわよ。それだけの魔力があれば、ほとんどの魔法を一人で使う事が出来るくらいね」
「そうなのか? でも、まだ大丈夫そうだ」
5分・・・6分・・・7分・・・。
「なるほど、分かったわ。世界樹の杖の効果ね。あれは確かアキラ専用装備になったのだから、手に持っていなくても効果は常に発揮されているという事よ。つまり、魔力の回復量が、水晶に込めて消費する魔力よりも多いのね」
「本当ですか!? でしたら、水晶に魔力を込めるのをお願いできないでしょうか。水晶を満タンにする事ができれば、転移で往復する事も可能になりますわ!」
「それは構わないけど・・・いいのか? ルゥナ」
「分かったわ。その代わり、その力を私達の旅にも使わせて貰う事が条件よ」
「構いませんわ。最初からそのつもりですもの」
ルゥナとライラお嬢様は、俺が魔力を込めている間に話をまとめる様だ。




