森の調査7
伯爵邸に戻る。メイドさんの案内で客室まで歩いて行く。しばらくすると、ライラお嬢様が来た。
「お帰りなさいませ、皆さま。無事、戻られた事をお慶び申し上げますわ」
「ありがとう。アキラ以外は無傷よ」
「まぁ、アキラ様、どこかお怪我を?」
ライラお嬢様は、俺の体をぺたぺたと触って確認する。だが、俺の周りはエーテルで囲まれているため、直接触ることは出来ない。くっ、こんな事ならエーテルを解除するべきだったか。触られている途中で解除した場合、見えないエーテルにライラお嬢様が手を挟んだりしたら大変だ。エーテルは変化させることは出来るが、消したりとかは出来ないからな。消えても困るし。
「あら? アキラ様の体の感触が変ですわね。これが怪我!?」
「違います。俺は常に身を守る魔法みたいな物で囲まれているので」
「そうだったのですか。それでは、お怪我はどうなのでしょう?」
「ユラのおかげで、全回復しましたよ」
「それはよかったですわ。・・・ところで、ユラ様ってどなたでしょう?」
ライラお嬢様が、こてんと可愛く首をかしげる。こうしてお嬢様ムーブをしている本物のお嬢様ってすごく可愛く感じる。まさか、まだ体で支払う予定じゃないよな? 俺も健全な男子高校生、そう何度もこんなかわいい子の誘いを断る自信は無い。
「そういえば、言ってなかったっけ? 俺は精霊魔法使いで、俺の近くには2人って言えばいいのかな? 2人の精霊が居ます。ただ、精霊視が無いと見えないと思いますが、一応紹介しますね。ユラとシルフィです」
「あたしはユラでしゅ」
「僕はシルフィだよー」
ユラとシルフィがライラお嬢様の前で挨拶するが、やはり声も姿も届いていないようで、ライラお嬢様はきょろきょろと探している。
「アキラ殿、もしかしたら拙者の様に杖に触れば視えるようになるのでは?」
「そうか。やってみる価値はあるかもしれない」
何の価値かは分からないが、ライラお嬢様は俺達に危害を加える様には思えないし、試してもいいだろう。俺はマジックボックスに仕舞ってある世界樹の杖を取り出す。
「ライラお嬢様、この杖を持ってみて貰えますか?」
「わかりましたわ」
ライラお嬢様は、俺からゆっくりと杖を受け取る。そして、杖から視線を上へと上げ、目を見開いて驚く。
「まぁっ!? 私にも精霊が視えましたわ! えっと、どちらがユラ様で、どちらがシルフィ様でしょう?」
「こっちがユラで、こっちがシルフィです」
「ユラでしゅ」
「シルフィだよー」
再びユラとシルフィがライラお嬢様に挨拶をする。ライラお嬢様は、珍しそうに2人を視ていた。やはり、精霊が視える事は珍しいようだな。しばらくして、ライラお嬢様が杖を返却してきた。
「あら? 視えなくなりましたわ」
俺が杖を受け取ると、ライラお嬢様は精霊が視えなくなったようだ。もう一度渡すと、再び視えるようになったようなので、ライラお嬢様が精霊を視ることが出来るのは杖に触っている間だけのようだ。
やはり、エルフの血が流れているルビーとは違うのだろう。だが、普通の人間も精霊を視ることが出来るようになるという事は、ユラとシルフィが危険に巻き込まれる可能性が高まるので、やはり普段はマジックボックスに仕舞っておく方が良いだろう。効果は勿体ないけど、俺自身は魔力とか使わないし。
「それで、今後の予定を立てたいのだけれど」
「私も一緒に居てよろしいのでしょうか?」
「ええ。意見があれば言って欲しいわ。それじゃあ、始めるわね」
思い思いの場所に座り、ルゥナの会議が始まる。ライラお嬢様は、狙ったかのように俺の隣に座ったんだが。単純に、ルゥナの正面に座りたかっただけか? 判断に迷う。
「まず初めに、私の目的から話すわね。私は、ある街から離れるように旅が出来るなら、向かう先はどこでもいいわ。ルビーは?」
詳しい話はしないのか、ルゥナは簡単にそう説明する。そして、ルビーに話を振った。ルビーは、正座していたのをやめ、立ち上がる。
「拙者の目的は精霊魔法使いになる事だ。今はアキラ殿のおかげで精霊を視ることが出来ているが、精霊魔法使いになるためには世界樹、ユグドラシルを探す必要がある。そして、ユグドラシルがある場所が南の方だと思われるので、拙者は南へと向かいたい」
そう言うと、ルビーは再び正座する。これでルビーの話は終わりの様だ。
「次はアキラね」
「俺は、特に目的地みたいなものは無いかな」
そう言えば、俺も一緒に旅をしているけど目的みたいなものは無い。ただ、ルゥナと一緒に行動していたら、自然と他の街へ来ているだけだ。
「アキラは、僕を楽しませる責任があるんですよー」
「? どうされましたか?」
ライラお嬢様は、不思議そうに俺を見ている。ああ、杖を持っていないからシルフィの声が聞こえないのか。俺は杖を取り出して、ライラお嬢様に渡す。
「シルフィが話してたんだ」
「アキラは僕の大事な物を奪ったので、僕が満足するまで楽しませる責任があるんですよー」
「ア、アキラ様が大事な物を・・・? 大事な物ってなんでしょう?」
「それは恥ずかしいので内緒ですよー」
「は、はずかしいもの」
「もう言わなくていいって!」
ライラお嬢様は何を想像したのか、頬を赤く染める。
「あたしは、ご主人様にずっと着いて行きまちゅ!」
ユラがこの微妙な空気を読まずに発言する。そのおかげで、怪しかった空気が元に戻る。
「ユラはその杖の精霊なんですよ。せか―――」
「アキラ、今はその話はいいわ」
「ご、ごめん」
世界樹の雫の事はライラお嬢様にはまだ内緒にするようだ。やばい、可愛い女の子の前だと口が軽くなってしまうようだ。なぜか、ルビーやルゥナの前では普通で居られるんだけどな。ルビーはルビーで美少女と言える容姿だし、ルゥナも可愛いと思う。けど、恋愛の対象じゃ無いって言うか・・・。
「アキラ、ぼーっとしているようだけど、話を進めていいのかしら?」
「あ、うん」
「それじゃあ、オークについてだけれど」
ライラお嬢様の表情が変わる。話の内容が、自分の領地に関係あるからだろう。
「オークについては、私達が関わるメリットは全く無いわ。むしろ、デメリットがある分関わる必要は無いわね」
「ど、どうしてでしょうか? 冒険者であれば、依頼を達成すればランクが上がったりするのでしょう?」
ライラお嬢様が、引き留めようと俺達に対し思いつくメリットを述べる。
「残念だけど、私達は冒険者ランクを上げるのを目指していないのよ。お金にも困っていないし、名誉にも興味が無いわ」
「そうなのですか・・・」
それだけで、俺達が普通の冒険者じゃ無いと分かったのだろう。ライラお嬢様はがっくりと肩を落とす。
「それに、まだライラお嬢様は知らないけれど、特殊なオークが居たのよ。それも、恐らく後ろには巨大な組織か貴族が絡んでいるわ」
「巨大な組織か貴族・・・」
「つまり、関わるとリスクが大きすぎるのよ。必要ならば、また世界樹の雫を手に入れてくるぐらいはできるけれど」
ルゥナとしても関わった以上、何も言わずに立ち去るような真似はしたくないようだ。まあ、侯爵家の協力が得られたら逃げる必要も無くなるかもしれないから協力はするか。
「わかりましたわ。お父様が戻るまではまだかかります。もうしばらくは滞在をお願いしますわ」
話は一旦終わり、ライラお嬢様は退室していった。




