森の調査6
30分ほど休憩したおかげで、俺の体力は大分回復した。ルビー達も無事戻ってきた。
「おかえり。何か新しく発見できたものってあった?」
「このあたりには特に何も無かったわ。せっかくだから、薬草を採取したくらいね」
「正直、拙者の速度、探索範囲だと足手まといにしかならぬことが分かったから、次回からは素直にアキラ殿の護衛にまわるとしよう」
ルゥナとの差を見せつけられたルビーは、少し気落ちしているようだった。まあ、護衛にしても、シルフィが居れば敵が近づいてくる前に分かるから必要無い気もするが。
「それじゃあ、ヤクトドーガの街へ戻りましょうか。シルフィ、帰りも頼むわね」
「僕に任せてー」
シルフィによって最短距離で森を抜けられるのは本当に楽だ。最短距離で抜けられるだけじゃ無く、下草なんかも邪魔にならないし、枝とかも切る必要が無い。さらに、動物や魔物の接近も分かる。あれ、思ったよりシルフィってすごいのでは? 本人に言うと天狗になりそうだから言わないけど。
森を出た後はルゥナが馬車と馬を出してくれて、ルビーの御者で街へと向かう。こうして言うと、俺ってほとんど仕事をしていない気がするな。これは、やはりもう少し戦闘か何かで頑張らないといけない気がする。
門番に気づかれない距離で馬車と馬をルゥナのストレージに仕舞って貰う。出したままだと、街中で行動する時に邪魔になるからな。大きな街なら馬車で移動しなければならない所もあるらしいが、この街は正直小さいし。
ギルドは門から近い場所にあるので、すぐに着いた。中に入ると、それなりの冒険者が街へ戻ってきており、思ったよりも混んでいた。
「ミレーの所へ並ぶわよ」
受付嬢の中では、ミレーさんが一番冒険者の依頼達成報告をさばくのが早い。それが分かっているからか、列も長いのだがルゥナはミレーさんの所へ並ぶ事にしたようだ。
それほど待たずに順番が来た。最初に来た時と同様に、やはりミレーさんはミステリアス美女だな。
「オークの討伐をしてきたわ。ただ、普通のオークじゃ無かったから報告をしたいのだけれど」
「分かりました。その件については、ギルドマスターも報告を受けたいそうなので、一緒にギルドマスターの所へ来て貰えませんか?」
「構わないわよ」
「では、ギルドマスターの所へご案内します」
俺達はミレーさんにカウンターの中へ案内され、そのまま2階へと進む。冒険者ギルドの作りは、大きさは違っても大体どこも一緒だ。俺達は他の街のギルドマスターの所へも行っているから、迷いなく進めるな。
「ギルドマスター、ルゥナさん達をお連れしました」
「おう、入れ」
ミレーさんが扉を開けてくれる。中へ入ると、本当に人間かと思えるような巨体の人間が居た。ミノタウロスが人間のコスプレをしているような、はち切れそうな筋肉だ。絶対、こんなところで事務するよりも戦う方が好きだろうに。
「俺はヤクトドーガのギルドマスターをしているアトルムだ」
俺達の方も自己紹介を終えると、ソファーへと座る様ジェスチャーで伝えられる。やはり小人用には出来ていないので、ルゥナは俺の肩に座る。その方が対面のギルドマスターを見るのに都合が良いようだ。頭の上じゃ無いだけマシか?
「とりあえず、先に話を聞かせて欲しい。あと、ミレーに見せたっていう伯爵様の封蝋も見せてもらえるか? 俺は丁度その時、ギルドに居なかったから見てねぇんだ」
「分かったわ。これよ」
ルゥナはアイテムボックスから封筒を出したように見せ、俺に渡す。俺はそれをギルドマスターへと渡した。
「なるほど。・・・分かった」
刻印が本物だと確認できると、俺に返してくれた。それから、ルゥナが森で出会ったオーク達の事を話す。こういう報告は慣れているのか、スムーズに進む。
「ちなみに、そのオーク達の死体は持って帰ってきているか?」
「ええ。アイテムボックスに入っているわ」
「じゃあ、敷物を用意させるから、ここに出してくれ」
「解体場じゃなくていいのかしら?」
「他の冒険者に見られたくねぇからな。おい、ミレー、何か敷くものを用意してくれ」
「かしこまりました。どのくらいの大きさの物でしょうか?」
「普通のオーク5体分ね」
「ありがとうございます。すぐにご用意します」
ミレーさんは10分ほどで戻ってくる。その間に、アトルムさんはソファーとかをずらして場所を確保していた。何がすごいって、3人座れるソファーを片手で持ち上げて移動させてたからな。
「ミレーはもう戻っていいぞ」
ミレーさんは静かに礼をすると、部屋を出る。それを確認してからルゥナはオーク達を並べ始めた。出していくと、アトルムさんの顔が険しくなる。最初に出したオークディフェンダーは普通のオークに見えるが、他のオークはスレンダーで見た目がオークに見えないからな。
「装備を着けたオークだと? それも、そんじょそこらの冒険者が持っているもんじゃねぇな。これはダンジョン産か? このあたりで手に入るもんじゃねぇ」
「やっぱりそうなのね。さっきも言った通り、こいつらはその装備に合ったスキルを持っていたわ。オークがスキルを使うというのは、このあたりじゃよくあるのかしら?」
「スキルを使う魔物自体は珍しい事じゃねぇが、オークのスキルは大体決まっている。剣はまだしも、盾や弓は珍しい・・・というか、初めて聞いたぞ」
「つまり、普通じゃないって事ね」
アトルムさんは、オーク達をじっくりと見ていく。そして、オークの装備を脱がし始めた。
「本当に去勢されてるな。ってことは、人が関わっている事は確定か。オークにそんな文化は無いからな。まあ、翻訳で言葉が通じる時点で確定みたいなもんか」
ちなみに、オークの裸をルゥナもルビーも冷静に見ている。まあ、人間がゴリラや猿の体を見るようなものか? それとも、魔物の解体とかするから珍しくないのか? 俺としては、少し人間寄りのオークの裸に、少しは照れてもいいと思うんだが。いや、ルゥナは慣れてそうだが、ルビーくらいは・・・いや、何でもない。
俺の視線に気づいたルビーが、殺気を込めた視線で返してきたので、俺の考えが読まれている気がする。
「処置も綺麗ね。罰や何かで去勢されたわけじゃ無く、このオークの個体が勝手に増えるのを危惧したって事よね」
「ああ。つまり、このタイプのオークを増やせるって事の証明でもあるな。こいつら、強かったんだろ?」
「ええ。ゴブリンダンサーのバフとデバフがあったら、個体個体がオークジェネラルレベル。無くても、ハイオーク以上の強さはあるわ」
「やはり、魔法やスキルがやっかいだな。冒険者に対して注意喚起が必要だな。この件が片付くまでは、単体パーティで森へ入る事を禁止する必要があるな」
「この死体はどうするの?」
「できればじっくり調べたい。ギルドで買い取らせて欲しい」
「構わないわよ」
「あの、肉は・・・?」
ルビーがおずおずと肉について言及する。俺としては、少し人間っぽいオークを食う気はしないのだが、ルビーにとってはオークはすべからく肉の判定の様だ。
「こいつらは調査のために、肉としては渡せないから代わりのオーク肉でいいか?」
「ああ、拙者はそれで構わない」
ルビーも納得した事だし、俺達は伯爵の館の方へと戻る事にした。




