森の調査
「ここにする!」
店をルビーが選んでいいと言ったら、嬉々として肉料理屋を選んだ。エルフは草食のイメージあるけど、ハーフエルフはどうなんだろうな? 単にルビーが肉好きなだけな気がするが。
そして、選ばれた店はケバブみたいに圧倒的に肉を全面的に出す店だった。異世界でステーキ屋みたいなものがあるとは思わなかったな。
「これから魔物と戦うかもしれないっていうのに、がっつりと食べるのか?」
「いいじゃないか。肉は力になる。拙者はいつもクエストに行く前は肉料理を食べている」
「まあ、任せたのは俺だからいいんだけど・・・。とりあえず入るか」
うん、肉料理ばっかりだった。詳細は省くが、少食というか、小食のルゥナはステーキの一切れで腹がいっぱいになった。その代わり、ルビーは5人分くらい食ったな。これ、食費はパーティ持ちよりも個人別の方が良いかもしれない。俺は普通に一人前だし。
「それじゃあシルフィ、森へ案内してくれ」
「いいですよ~、オークメイジを殺りにいくんですよねー?」
「そこまでまだ決めてないけど、とりあえず見に行くか?」
俺はルゥナに確認する。こういう事はルゥナの方が詳しいからな。
「そうね。オークメイジが居るという証拠をギルドに持って行けば、役に立つ情報として褒賞が出るかもしれないわ」
「ところで、どうしてシルフィはオークメイジが居るって分かったんだ? 見た事あったのか? 魔法、使われて無いんだろう?」
「まあ、オークには僕の姿は見えないですしねー。それで、なぜオークメイジと判断したかですけどー、そいつ、杖を持ってローブを着ていたのでー」
「・・・魔物なのに、そんなに分かりやすいのか?」
「恐らく、冒険者の装備を奪ったのでしょうね。ただ、それだけでは本当にそのオークが魔法を使えるかどうかは分からないのだけれど。私が知る限りでは、普通のオークとオークメイジの違いはその体型かしら。オークメイジの方が痩せていて、耳も普通のオークよりも細長いわ」
「んー、どうだったですかねー。体形も耳もローブをかぶっていたので分かりませんねー」
「じゃあ、とりあえずその推定オークメイジを見に行くか。森に入る前にユラはエールをお願いな」
「わかりまちた! エール!」
「いや、まだ早いよ! まだ街すら出てないぞ」
「あっ、ごめんなちゃい。あたしも、何かの役に立ちたいでちゅ」
「ユラは世界樹の雫だけでも十分に役立っているって」
とりあえず、門番に冒険者証を提出して街の外へ出る。
「あまり森の奥には行くなよ? 今はオークが大量に居るかもしれないから危険だぞ」
「分かっています。ありがとうございます」
門番が忠告するほど目撃情報があるのか? とりあえずシルフィの案内に従って森に入る。斥侯役はルゥナで、前衛はルビー。俺は後衛という扱いになるのかな。本当の最後尾はユラで、後ろを確認して貰っている。まあ、ルゥナの探知範囲があるから本当に後ろから奇襲を受ける可能性は低いんだけどな。さらにいえば、森の中に限ってはシルフィの方が探知範囲広いし。
「見通しが悪いな。普通の森よりも木の間隔が狭いからか、奥まで見えない上に少し薄暗く感じるな」
「あまり人が入っていないと言う事だろうな。冒険者が森に入れば、通り道を切り開いていくからな。この程度の木なら、拙者は切れるぞ?」
「いや、切らなくていいから。そんなことしてたら目立つだろ」
「そうね、無駄な事はしなくていいわ。シルフィ、方向はこっちでいいのよね?」
「あってますよー。1キロ先で5体くらいオークが集まっていますねー」
シルフィもルゥナから冒険者の常識を学びつつある。距離が正確に分かるだけでも便利だからな。まあ、俺の方が1キロ先がどのくらいか分からないっていうのが問題だが、ルゥナが分かるからいいだろう。
ルゥナは小さな体を利用して静かに移動する。ルビーも鎧を着ている割にほとんど音がしない。そう言うところを見ると、ルビーも実は実力者だと分かるな。俺も出来る限り音を立てないように動くが、まあ無理だな。
「アキラは無理にルビーの動きを真似しなくていいわよ。ルビーの動きは私から見ても無駄が無いもの」
「拙者はハーフエルフ。森の中は得意だぞ」
「そういえばそうだったな」
というか、ハーフエルフも森が得意なんだな。じゃあ、俺のできる範囲で無理なく動くという事で。
「仕方ないから、僕がサポートしてあげますよー」
俺の動きを見かねたのか、前みたいにシルフィが森自体を操作して歩きやすくしてくれる。
「すごいな、シルフィ殿は。随分と歩きやすくなった」
「ですよねー。僕ってすごいんですよー」
シルフィがまた天狗になっているな。実際にすごいんだけど、ドヤられると逆に褒めたくなくなるのは俺が天邪鬼だからだろうか。
「ユラもー。がんばれー」
ユラもエールを使ってサポートしてくれる。そういえば、エールの効果時間ってどれくらいなのか気にし事なかったな。
「ユラのエールはどれくらい続くんだ?」
「あたしの気分次第でちゅ。長く続け―って思ったら長くなりまちゅ」
「体の感覚が変わるから、一定時間にしてくれた方が助かるかも。とりあえず、10分くらいでどうだ?」
「その都度指示した方が良いかもしれないわよ。こうやって森の中を進む間はエールがあった方が楽でしょう?」
「そうだな。逆にエールって途中で解除できるのか?」
「できまちゅよ、ご主人様、解除しまちゅか?」
「試しに解除してくれ」
解除してもらうと、少し体が重く感じる。これなら、むしろずっとエール状態の方が良い気がしてきたんだが。
「エールをかけてくれ」
「はいでちゅ。がんばれー」
体が軽くなる。エールの詳しい効果も検証してないが、全体的な身体能力向上でいいっぽいな。まあ、俺自身の身体能力はエーテルのおかげでほとんど使ってないけど。
「もういいかしら。先に進むわよ?」
「ああ。分かった」
再び隊列を組んで森を進む。シルフィのおかげで真っすぐ進める上に下草も邪魔にならなくなったから楽だな。
「あと数分で接敵するわね。私が先に見てくるから待ってて」
ルゥナがそう言うと、姿が消える。隠形状態のルゥナはルビーでも見失うのか、驚いているな。そういえば、ルビーと本格的にパーティ行動するのは初めてだったか。道中では獣の狩りくらいしかしてないからな。ライラお嬢様を助けた時も個別行動だったし。
すぐにルゥナが戻ってくる。現れる時も一瞬だからルビーは驚いている。俺はもう慣れてるから何とも思わないが。
「シルフィの情報通り、5体居たわ。4体は普通のオークだったけれど、1体はローブを被っているわね。もしオークメイジだった時のことを考えて、シルフィとユラはアキラの後方で待機ね」
「アキラを盾にしますねー」
「ご主人様、傷ついたらあたしが回復するでちゅ」
「じゃあ、私が先に攻撃するから、隙が出来たらルビーはオークメイジを倒すのよ」
「分かった。拙者はオークメイジを倒す」
「俺は?」
「アキラは・・・そうね、シルフィにピアシングルートを使って貰うといいわよ」
「・・・分かった」
つまり、俺は戦闘よりサポートをするって事だな。というか、別に俺じゃなくてもシルフィに頼めば使ってくれそうではあるんだが。まあ、俺は精霊魔法使いという事になっているからそれに慣れる必要はあるか。




