閑話 不良男3と不良少女のその後
不良男3と不良少女は、奴隷商の馬車に乗せられて王都へ向かっていた。道中は黒いパンと水だけが与えられ、空腹によって反抗及び逃走される確率を下げていたが、王都に入ってから3日間は肉や野菜を腹が膨れるまで与えられている。
「明日、あなた達はオークションに出品されます。なので、今日は大人しくしていて下さいね」
「はい・・・」
不良男3と不良少女は、奴隷の首輪の効果によって奴隷商人の言う事に逆らう事が出来ない。だから誰も見張っていない部屋から逃げ出す事も出来なかった。
「なあ、俺達これからどうなるんだ? これはあいつをイジメていた報いなのか?」
落ち込んだ不良男3は、不良少女に話しかけることによって気を紛らわせようとしていた。
「知らないわよ・・・。少なくとも、良いことは何も無いんじゃない? それでも、殺されたリョウや囮に使われたっていうショウタより生きてるだけマシだろうけど。イジメてたあいつも死んだんだから、報いというわけじゃ無いと思うわ」
不良男1と不良男2の事を考えると、生きているだけましだと考える不良少女。それを聞いて不良男3は、そうなのかと思う。
「じゃあ、あいつらの分まで生き抜いていかないとな、この世界で」
「そうね。帰る方法を探さないといけないしね」
二人は、不安な気持ちをごまかすように笑い合って眠った。
次の日、二人はこの世界では普通である服に着替えさせられ、オークション会場へと連れていたかれていた。様々な商品が落札されていく中、とうとう二人の番が来た。
「さあ、次の商品は異世界であるニホンから召喚された奴隷です! と、その前にこちらの商品を先にご覧ください。どのような技術で作られたのか、綺麗で精巧な服です!」
5人が着ていた制服と下着がオークションにかけられる。異世界から召喚される者はある程度いるとはいえ、その異世界人が着ていた服が手に入る機会は少ない。なので、貴族にとって異世界の品を所持する事はステータスになる。
「それでは、金貨1枚からスタートです!」
「金貨10枚!」
「金貨20枚!」
「えーい、どうせもっと高くなるのは分かっている、ここは金貨80枚!」
「おおー!」
上級貴族らしい男性が金額を一気に吊り上げる。なお、顔は仮面で隠すのがマナーとなっており、正体を知ってても知らないふりをするのがオークションでのルールである。違法なものを所持する訳なので。
「くっ、あれはワシも欲しいと思っていたのだ。金貨100枚!」
金貨100枚は白金貨1枚であり、金貨1枚が日本円の価値にして10万のため、白金貨は1枚1000万の価値がある。ただ、オークションでは基本的に金貨の枚数での入札となっている。でないと、白金貨1枚と金貨10枚という風に分ける事になり、言いづらいからである。
「他にありませんか? ・・・無いようですので、金貨100枚での落札となります!」
それを舞台の裏で聞いていた不良3と不良少女は、たかが制服が金貨100枚と聞いて驚く。
「これは、金持ちの家に買われる可能性が高いって事だな?」
「ええ。思ったよりも、いい暮らしが出来るかも」
「続いて、異世界の人間であるニホンジンです!」
「さあ、お前達、行ってきなさい」
奴隷商人に言われ、二人は舞台の上へと進む。
「今回は二人という事で、まずは男の方からオークションを始めたいと思います! 開始は金貨10枚から!」
「金貨12枚!」
「金貨15枚!」
「金貨15枚! 他に居ませんか!」
しかし、服と違って奴隷の人間を堂々と連れまわせる機会は少ないため、人気が余りなかった。だから奴隷商人は魔物の囮に使ったのだ。むしろ、奴隷の首輪の価値が金貨30枚ほどであるため、そちらの方がもったいないくらいだ。
「顔があたしの好みね。金貨50枚を出すわ!」
「あ、あれはカーマ伯爵じゃないか?」
「しっ。分かっても黙っているのがルールよ!」
「そ、そうか・・・」
カーマ伯爵は男色で知られていた。それも、過激なプレイが好みで、すぐに奴隷を死なせてしまう悪癖があった。さらに、カーマ伯爵の入札を邪魔すると、後日人体の一部が届けられるなどの嫌がらせをされるため、カーマ伯爵の入札を邪魔するものは居なくなっていった。オークションの主催側の方でも、ある程度の値段をつけてくれるので文句はない。
「落札です!」
不良男3は落札されたため舞台から連れ出される。
「次は女の方です! 金貨10枚からスタートです!」
ここで奴隷商人の想定外の事があった。なんと、不良少女はピアスをしていたのだ。自分の体に穴を開ける行為は、貴族の間では嫌われる事だと奴隷商人は知らなかった。知っていたならばオークションになど出さなかっただろう。
「だ、誰か居ませんか? 金貨10枚ですよ!」
司会も、まさか最低落札価格ですら入札者が居ないと思っていなかった。不良少女の容姿は少し可愛いくらいで、容姿端麗な貴族にとっては絶対に欲しいものでも無い。不良男3はイケメンであっただけに、不良少女に対して大金を出そうとする者は居なかった。
「誰もいないならあたしが貰おうかしら。ちょうど、畜産用のオークの相手が欲しかったところだし」
オークは魔物にしては肉質がいいため、日本で言う畜産豚の様に養殖されていた。そして、オークは異種間でも子供を作る事が出来る能力を持っているため、様々な母体での繁殖が行われていた。どの母体からでも産まれてくるのは必ずオークであるため、人から産まれても人を喰う事にはならない。
そして、さすがに小説など読まない不良少女であっても、オークについては有名であるため、多少の知識は持っていた。それが逆にこれから自分の身に起こる事がリアルに想像できてしまい半乱狂になる。
「い、嫌よ! 誰か、誰か私を買ってください! 何でもしますから!」
「何でもするなら大人しくオークの相手をしてちょうだい」
「いやあぁぁぁぁ!! やめて! 誰か、私を買ってよ!」
不良少女がどれだけ叫ぼうと、カーマ伯爵の入札を邪魔するものは誰も居なかった。舞台から下ろされる不良少女は、最後まで叫び続けるのだった。