ヤクトドーガの街へ
直接南へ向かわず、回り道をするという事で東門の方から出る。この方角へ行けばヤクトドーガの街があるらしい。その隣にはギラドーガの街があるらしいが、恐らくそっちへは寄らないと思う。
門を出てしばらく歩き、ルゥナが誰もいないことを確認する。
「じゃあ、そろそろ馬を出すわよ」
「馬を出す・・・? ルゥナ殿、馬を出すとは一体・・・?」
「見た方が早いわよ」
ルゥナがストレージから大きなコンテナの様な物を出した。そのコンテナを開くと、中には馬が2頭居た。当然、生きている。
「こ、これは一体・・・」
「見ての通り、マジックボックスよ」
「いや、生き物を入れられるマジックボックスなんて聞いたことが無い。ましてや、これほど大きな物を仕舞えるなんて、それだけでどれだけ稼げるか」
「ストップ。そこまでよ。それを承知の上で今現在の私がここにいるのよ」
「わかった。拙者もこれ以上詮索しないし、誰にも話さないと誓う」
「ルビーならそう言ってくれると思っていたわ」
「それよりも、ルゥナのストレージって中に空気が無いんじゃなかったのか?」
「そうよ。だからこそ、この箱が必要なの。この箱には、馬に必要な飼葉や水を自動でやってくれる機能がある魔道具なのよ。中に、光や空気を産み出す魔道具も置いてあるわ」
「へぇ。便利だな。もしかして、人間も住める?」
「住めるわよ。アキラも一生ここに住むかしら?」
「いや、一生住むとは言ってねぇ。疲れた時とか、ダンジョンみたいなところで入るにはいいかなって」
「まあ、そう言う使い方が出来なくは無いわよ。ただ、途中で魔道具が壊れたりしても中から私に知らせる方法は無いから私は気が付かないわ。それでもよければいいわよ?」
「万が一を考えると怖すぎる。とりあえず、その件は置いておくとして、馬2頭あっても俺は乗れないぞ? ルビーは?」
「拙者は乗れる。だが、他の人を乗せたことは無いから、そこはどうか分からぬ」
「心配しないで、馬車にするつもりだから」
ルゥナはさらにストレージから馬車を出す。本当に、何でもありだな。
「馬車と馬を繋ぐ準備をするから、その間にアキラはルビーの実力を確かめておいて」
ルゥナの指示で、俺はルビーの強さを確かめることになった。俺もこの目で刀を使うのを見れるから、ウキウキしながら少し離れた場所へ移動する。
「実力を確かめるという事は、模擬戦でもするのか?」
「いや、先にやってほしいことがあるんだけど、いいかな?」
「拙者に出来ることなら」
「じゃあ、俺が投げた石を斬ってみて欲しいんだけど」
俺は地面に落ちている手ごろな小石を拾い集める。シルフィとユラも興味津々で見ている。ちなみに、杖は現在俺のマジックボックス内にある。
「いつでもいいぞ」
「じゃあ、最初は軽く。ほいっ」
俺はルビーに向かって軽く小石を投げる。その小石をルビーが「シュカッ」という音をさせて真っ二つに切り裂いた。そう、弾くのではなく切ったのだ。刀の切れ味が良いのか、腕がいいのか、その両方か。多分、俺がやってもバットみたいに弾き飛ばす事しか出来ないだろう。
「すごいな。じゃあ、今度は複数個同時でいくぞ」
俺は両手に握った小石をルビーへと投げる。結構ばらついて飛んでいったが、そのすべての小石がルビーによって切られる。
「本当にすごいな・・・。どのくらいまで出来るんだ?」
「さあな? 恐らく、20個くらいなら見切れそうではあるが試したことは無い」
「それじゃあ、試してみましょうか」
いつの間にか、ルゥナが戻ってきていた。馬車の準備が終わったらしいな。
「おい、馬を放置しておいていいのか?」
「大丈夫よ。馬には私がつけられていた奴隷の首輪をつけて逃げ出さないように命令してあるから」
なるほど。俺の首輪もルゥナに渡した方がいいかな? 自分が付けられていた事を思い出して嫌な思いをしそうだけど。
「それじゃあルビー、私が投げる木の枝を切って貰えるかしら。切った枝は薪にするから、あまり細かくしないでちょうだいね」
「分かった」
ルビーは刀を構える。ルゥナはどうやっているのか、いろいろな角度から同時にルビーへと枝を投げる。ルビーは何かのスキルでも持っているのか、後ろからくる枝ですら切っていく。しかし、30本くらいが限度の様だ。
「なるほど、ルビーの実力は分かったわ」
「拙者も、初めて自分の実力を確認する事が出来た。確認はこれで終わりなのか?」
「本当は、私と戦って貰おうかと思っていたのだけれど、真剣でやるには危険そうだから止めておくわ」
ルゥナは真剣でやるつもりだったのか。それは、完全にどちらかが怪我をする気がするぞ。
「じゃあ、馬車へ戻りましょう。さっきも言った通り、一頭には奴隷の首輪をつけてあるから私も御者はできるけれど、最初はルビーにお願いするわ。私だと、御者席が無人に見えるでしょうし」
「分かった」
馬にも序列があるのか、首輪をつけた馬に、もう一頭の馬も逆らわないように行動している。これなら、俺の持っている奴隷の首輪をわざわざつける必要も無さそうだ。
「そこの林に、動物がいますよー」
シルフィが前方左の林を指差す。木のあるところではシルフィの探知能力がルゥナの上回る。なので、何かあれば言う様にお願いしてある。
「今日の夕食にちょうどいいわね。どんな動物かしら?」
「人間がなんて呼んでいるか分かりませんがー、四本足で走る動物ですねー」
「動物は大抵4本足で走るだろ」
「だったら、自分で確かめればいいじゃないですかー」
シルフィは少しムッとした感じで返事する。とりあえず、魔物じゃないならそれほど危険じゃ無いと判断し、俺は自分で確かめに行く事にした。
「ご主人様、あたしが確認してきまちょうか?」
「いや、動物なら俺一人で大丈夫だよ」
と言っても、ユラは俺から5メートルしか離れられないので、一緒に行く事になるのだが。まあ、ユラは動物に触れないし触られないから大丈夫だろう。
「・・・あれは、猪だな」
そこには、体長1メートル程の猪が居た。まあ、俺もこの世界じゃ何て呼んでいるのか分からないが、翻訳の魔道具で通じるだろう。1メートルなら、大人じゃなさそうだな。
「それじゃあ、捕まえるか」
俺はエーテルを網の様に変化させ、猪の真上からかぶせる。猪にも俺のエーテルは見えないようで、何が起こったか分からず、もがいているな。俺は暴れる猪を抱えると、馬車へと戻る。
「猪を捕まえてきた」
「へー、それは猪って言うんですねー。森に居る魔物なら名前は結構分かるんですけどねー」
この世界では、魔物が食えるからか、動物よりも魔物の方が良く狩られるみたいだな。もしくは、魔物の方が栄養が良いとか?
「それでは拙者が絞めよう」
俺はパワードスーツの力を利用し、ルビーへと猪を放ると同時にエーテルを解除する。ルビーはチンッと納刀すると猪は倒れる。猪の首が半分ほど斬られていた。それをルゥナがストレージに仕舞う。
「今日の夕ご飯でいいわね。暗くなる前に、馬車で移動できるだけ移動しましょう」
最初の御者はルビーなので、慣らしながら進むことになる。ルビーも御者はやったことは無いようだが、手綱の扱いは慣れている様で、馬も従順だ。これなら、問題なく進むことが出来そうだな。




