半端者
ルビーと別れた後、部屋の中は俺、ルゥナ、シルフィ、ユラの4人になる。まあ、だからと言って何かあるわけじゃないけどね。シルフィはぼーっとしていることが多いし、ルゥナはストレージの整理や道具の手入れをしていることが多い。今回はユラが増えたから、俺はユラと軽く遊んでいる。といっても、精霊に高い高いとか意味あるのか? 普段浮いているっしょ。
「あ、そう言えば風呂の途中だったからもう一度入ってこようかな」
「私もそろそろ行こうかしら。部屋の鍵は開けたままでいいわよね?」
普通の冒険者なら、部屋を無人にするのに鍵をかけない事は無いだろう。いくら安宿より安全とはいえ、恐らくセキュリティ的には中国の3流ホテル並だろう。行った事無いけど、ネットで見た限りじゃ荷物が盗まれることが多々あるらしい。まあ、俺達は全てルゥナのストレージに入れるから部屋には全く持ち物は置いてないんだけど。
「暇だから、僕も行きますかねー。入ることは出来ませんが、ルゥナと話しでもすることにしますー」
「他にお客さんが居なければいいわよ。まあ、居た所でどうとでもなるけど」
「ユラは、もういちどご主人様とお風呂にはいりゅー」
「だから、ユラは待ってろって。どうせなら、ルゥナの方へ行っていてくれよ。俺が落ち着かないから。風呂からでたら、また遊んであげるからさ」
「うー、分かりまちた。ルゥナ、お願いしまちゅ」
「分かったわ」
何気にユラは俺以外を呼び捨てにしている。まあ、俺もそうだから恐らくユラは俺の真似をしているんだろうな・・・。でも、俺は他の人にはきちんとサンをつけてるよ。
ちなみに、世界樹の枝はマジックボックスにもストレージにも入れることが出来る。その場合、ユラは入れたマジックボックスもしくはルゥナの場所を枝のある場所と判定する事になるようだ。だが、不思議な事にルゥナのストレージに入れていても5メートル離れたら俺の元に来るから、専用装備の効果はとても強いようだ。今回は隣の風呂なので俺が壁際に居れば5メートル離れることは無いだろう。いや、結構5メートルって短いぞ?
「ルゥナ、5メートルの範囲で行けそうか?」
「そうね・・・それなら、男女を分ける仕切りのところに枝を立てかけておけばいいんじゃないかしら?」
「それだと、ルビーの時みたいに誰かが動かさないか?」
「見ておくから大丈夫よ」
「わかった、頼む」
これで落ち着いて風呂に入れそうだ。
その後、変なイベントは起こらず、ゆったりとした風呂を過ごせた。途中、何か視線を感じた気がするが、当然誰も居なかった。まさか、この風呂幽霊とかでないよな? いや、この世界の幽霊って魔物なのか? 分からん。
まあ、あとで仕切りぎりぎりからシルフィとユラが男風呂を覗いていたことが判明したので怒っておいた。効果はいまひとつのようだ・・・。
部屋に戻ると、すでにルゥナ達が戻ってきていた。この世界ではパジャマを着るという習慣がないから、普通の服に着替えている。ルゥナも、いつもの着物から部屋着みたいな服に着替えている。ちなみに、宿には浴衣は無い。しばらく約束通りユラと遊んだ後、ベッドで寝る。そこそこ大きなベッドは、どんなガタイのいい冒険者でも寝られるようにしているんだろう。だから、ユラが俺のとなりでくっついて寝ても余裕はある。
「ふあぁ~あ。おはよう」
「おはようございまちゅ、ご主人様」
「あら、起きたのね。そろそろ朝食の時間よ」
ルゥナはもう起きていて、ユラは俺が起きるのに合わせて起きたようだ。シルフィだけまだ寝ているが、起こす必要は無いため放置して飯を食いに行くか。
冒険者にしては起きるのが遅かったのか、すでに食堂は閑散としていた。ルビーの姿も無いし。まあ、朝一の依頼を取りに行くなら、この時間にのんびりと飯を食ってたら間に合わないだろうな。ルビーとの約束の時間にはまだ1時間ほどあるから、俺は普通にのんびりと食う。
パンと野菜、果物ジュースと少しの肉。ホテルのバイキングみたいな感じだが、まあまあうまかった。食い終わったら、部屋に戻っていつもの装備に着替える。といっても、もらった初心者装備だが。ルゥナは何かスキルでもあるのか、着替えは一瞬で終わる。気が付いたら着替え終わっているから、ルゥナが着替えているところは見たことが無い。いや、見てたら怒られそうだが。そもそも、隠形使ってたら気づけないしな。
「あ、待たせたか?」
「いや、まだ約束の時間5分前だ。拙者がいつも通り行動してしまって早くなってしまったのだ」
ルビーは冒険者らしく、朝一の依頼票を見に行く時間で行動していたようだ。今は、その時間よりも1時間遅いから、まさか1時間待ってたのか? まあ、部屋に居てもテレビとか無いし、どこで待っていても変わらないのかもしれないけど、悪いことをしたかな。
「ユラ殿、ルゥナ殿、アキラ殿、おはようございます。ところで、シルフィ殿は?」
「あ」
俺は、普通にシルフィの事を忘れていた。慌てて部屋に戻り、シルフィを起こす。幸い、忘れていった事はバレていないようだ。そのまま普通に宿前まで連れていく。
「よし、出発だ」
ギルドに着くと、ある程度混雑は解消されていたが、俺達が最初に来た時よりはまだ混んでいた。とりあえず、パーティ登録の為にシィルさんの所へ並ぼう。シィルさんは、可愛いのにおっちょこちょいだからか、冒険者には人気が無いようで並んでいる人が少ないかった。
「あ? なんでこんなところに半端もんがいるんだよ」
依頼の張られている掲示板の方から、いかついおっさんがそう言いながら俺達に近づいてくる。半端もんって何のことだ?
「無視すんな、何とか言えよ」
おっさんの視線はルビーへと向いていた。つまり、半端もんとはルビーの事らしい。ハーフエルフのことを半端もんっていうのか?
「拙者は見ての通り、用事がある。貴様に関わっているほど暇ではない」
「何だと? お前、自分が何をしたのか忘れたのか?」
「貴様こそ忘れたのか? こうして絡んできた結果、パーティメンバーを治療院送りにされた事を」
「くっ、だから、その落とし前をつけろっていってるんだよ!」
「迷惑を受けたのは拙者の方だ。これ以上絡むなら、貴様も治療院送りにするぞ?」
おっさんとルビーが険悪な雰囲気になるが、周りの冒険者どころかギルド職員ですら止めようとはしない。シィルさんは「あわわわわ」って感じで口をパクパクさせているが、他のギルド職員は冷静に見ている。
「アキラ、大丈夫よ。これくらいの言い合いは冒険者にとっては日常茶飯事よ。ギルド職員もいちいち止めないわ。もし、こんな面前で武器を抜くようならすぐに取り押さえられるし、最悪ギルド証を剥奪されるから」
「な、なるほど?」
いつの間にか俺の肩に居るルゥナからそう言われ、取り合えず俺も見守る事にした。というか、あんないかついおっさんを俺がどうこう出来るわけが無い。こんな状況をワクワクしてそうな表情で見ているシルフィがうらやまし・・・くはないな。心臓がバクバクするし。
「ちっ、だから半端もんと一緒に仕事をするやつが居ないんだよ! おい、お前」
「ふぇ?」
急に俺の方を見るおっさんに変な声で返事をしてしまった。
「一緒に入ってきた様だが、まさか半端もんとパーティを組もうって言うんじゃ無いだろうな? やめとけ、やめとけ。こんな奴に関わっていると死ぬぞ」
おっさんはそう言うだけ言うと、掲示板の方へと戻っていった。ルゥナが言う通り、これ以上問題を起こす事は無いようだ。
少し静かになったギルド内。俺達に順番が回ってきた。
「あの、パーティ登録をお願いします」
ちなみに、俺とルゥナはパーティ登録をしてある。パーティ登録をすると、ギルドがパーティへの均等配分や貢献度の割り振りなどを行ってくれるからだ。俺達はまだ大したことはしていないが、固定パーティを組まない人にとっては重要らしい。
「ははは、はい。えと、大丈夫でしたか?」
「見てたのなら、無事だと分かるだろう? それよりも、これが拙者の冒険者証だ」
ルビーは腹を立てているのか、冒険者証をシィルさんの前に突き出す。シィルさんはそれを慌てて受け取った。
「じゃあ、よろしくね」
俺とルゥナも同様に渡す。シィルさんは、それらを装置に設置して登録してくれた。まあ、見ているこっちが心配になるほど慣れていない手つきだったんだけど、大丈夫だよな?
「お、おまたせしました! 登録完了です。報酬の配分は依頼完了ごとに決定できますので――」
「分かっている」
ルビーはシィルさんの説明途中で自分の冒険者証を取ると、すぐに踵を返して出入口へと向かう。俺もすぐに冒険者証を受け取り、ルビーに走って追いつく。
「さっきのおっさんと何かあったのか?」
「・・・よくある、依頼の重複で揉めたことがある。受けた依頼は別々の物だったが、目的物が一緒だった。そこで、目的物の取り合いになっただけだ」
「アキラは知らないかもしれないけど、本当によくあるのよ? 特に、低ランクではね。常設依頼も多いし、採取物や素材集めで同じ場所に来る冒険者は結構居るのよ」
MMORPGとかで、同じクエストを受けた他のプレイヤーが来るような感じか? 確かに、その時は横殴りとかされた事もあるな。ゲーム内じゃそれをどうする事も出来なかったが、現実なら相手から奪うなどできるだろうしな。
「冒険者は基本的に自己責任。誰も見ていない場所で何が起きても、自身の力で切り抜けなければならない。だから、拙者は喧嘩を売ってきた奴を返り討ちにしただけだ」
「それで、半端もんって?」
ルビーはぴくりと肩を震わせると立ち止まる。
「それをルビーに聞いたらダメよアキラ。それはハーフエルフへの侮蔑で言う言葉よ」
「そうだったのか? ごめん、知らなくて・・・」
「アキラ殿は知らないのは仕方ない・・・。拙者は見ての通り、ハーフエルフだ」
ルビーは自身の尖った耳を触りながらそう言う。
「エルフの髪の色は普通、金色、緑色、黄緑色などが多い。そして、赤色は絶対に居ない。だから、拙者がハーフエルフだとすぐに分かる。そして、人間でもエルフでも無いハーフエルフは嫌われているのだ」
「そうなのか?」
俺は知らないのでルゥナに聞く。
「そうね。まあ、私も小人族だからその辺は分からないのだけれど。純潔を貴ぶエルフはハーフを嫌うし、長い間綺麗な容姿を保つから、人間からは妬まれているわね」
「そうだ。だから拙者も初めは耳を隠していたのだが、パーティを組んで活動すれば、嫌でも見られてしまう時がある。今では、余計ないざこざが無いよう、今後パーティを組まない意思表示のつもりで耳を隠していない・・・はずだった。すまない、アキラ殿には昨日伝えるべきだったな」
「俺は良いんだけど、ルビーは良いのか? 人前に出てる間だけでも隠すとか」
今のルビーはイジメられていた時の自分を思い出す。人は、自分達と何かが違うとすぐにそこを攻撃し始めいじめへと発展させる。
「・・・拙者は、自分の事が好きだ。ハーフであることも誇りに思う。だから、いくら何かを言われようと、拙者は姿を偽らないと決めたのだ」
「一応、耳の尖りを隠す魔道具のピアスがあるのだけれど、要るかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・要らぬ」
「いや、結構迷ったよな」
まあ、問題がある様ならルゥナからそのピアスを借りればいいだろう。俺達は宿へと向かい、今度の目標について話し合う事にした。




