拙者
「ところで、口調がさっきと違うような?」
「私は、冒険者として舐められないよう装備を着けている時は男らしい口調で話す事にしている。変、か?」
ルビーは誰にも指摘された事が無いのか、少しうろたえている。
「変じゃ無いよ。俺としては、剣士らしくていいと思う」
「そ、そうか?」
俺が素直に褒めると、ルビーは照れたようだ。実際、女剣士のイメージはこっちだよな。ただ、おしいな。どうせなら完璧な武士ロープレをしてほしいぞ。
「ついでに、一人称が拙者だったら完璧だ」
「せ、せっしゃ? それは、一体どういう意味だ?」
「一人称で私っていうのと一緒なんだけど、俺の居た世界では刀を使う人は自分の事を拙者って言うんだ」
という嘘を交えて伝えてみる。
「やはり、アキラは異世界人なのか。見た目から何となくそう言う気はしていたが・・・。拙者、拙者か。確かに、しっくりくる気がするな。分かった、今後は私は自分の事を拙者と言おう」
よし、布教成功か。ルビーは刀をいじりながら「拙者、拙者」と練習している。なんか可愛いんだけど。
「ところで、ルビーは珍しい装備を持っている様ね?」
ルゥナはルビーが腰に差している刀を見てそう言った。こっちの世界では刀は珍しいのか? まあ、日本で実物の刀を見たことが無い俺が言うのもなんだけど。
「ああ。少し、拙者の身の上を話そう。拙者は、ハーフエルフだ。エルフは精霊に好かれているため、精霊視を持つ者は少なくない。だが、ハーフエルフとなればほとんど持つ者が居なかった。拙者が小さいころ、まだ拙者がハーフエルフだと知らなかった頃、母が精霊魔法使いとして活躍していたのに憧れていたんだ」
ルビーはハーフエルフだったのか。耳が尖っているからてっきりエルフかと思った。
「だが、実際拙者はハーフエルフで、精霊視を持っていなかった。・・・拙者は、未だに精霊魔法使いになるのを諦められていない。そこで拙者は、旅をして精霊魔法使いになるためにどうすればいいか調べる事にした。だが、一人旅は厳しいという事は知っていたから、修行をしてから旅に出ることにしたんだ。父から手ほどきを受け、拙者はみるみる剣士としての腕を上げていった。父が死んでからも、修行は続けた。・・・そして、この刀は父の遺品だ」
「そうか、お父さんの・・・。お父さんは、誰かに殺されたのか?」
遺品という事は、ルビーの父親は亡くなっているという事だ。一緒に旅に出ていないという事は、何かあったんじゃないか?
「? いや、普通に寿命を全うしたぞ? 50年くらい前の話だが」
「ああ、やっぱりハーフエルフも寿命が長いのか・・・」
普通に寿命だった。そりゃあ、普通の人間なら50年も経てば死んでいてもおかしく無いな。
「それでも、剣豪の職に就くのはすごいわよ。実際、剣だけで戦えばルビーの方が私よりも強いんじゃないかしら」
剣で戦えば、ルビーの方がルゥナより強いのか。まあ、剣だけって言ってるから、何でもありならルゥナの方が強いって思ってそうだし、実際そうなのかもしれないが、まだルビーの実力を見たことは無いしな。
「拙者は、父が亡くなってから旅に出た。旅の間、冒険者として活動していなかったが、途中で冒険者として活動すれば、街へ出入りするのに便利だと聞いて冒険者登録をした。その登録時にはすでに、剣豪という職業があった。そして、今に至るのだ。まだ冒険者としての活動は新人に近いが、それなりに稼いでいるつもりだ。ちなみに、この刀はレアだ。マジックボックス小と、同じ敵に攻撃するたびに追加ダメージ10%が上乗せされる追撃小の効果がついている。マジックボックスは、旅をするには必須だから本当に助かっている」
「なるほど、分かったわ。それで、どうして急に精霊を視られるようになったのか、心当たりはあるのかしら?」
「正直、いままで精霊が視えたことが無いから、いつから精霊が視えるようになったのか分からん。初めて見えたのは、ユラ殿だからな」
「なるほど。そう言われればそうね・・・。じゃあ、ユラが視える前に何かした事は?」
「特に何も無いが・・・しいていえば、風呂の入口前に置いてあった杖を、誰かの忘れ物かと思って宿の受付へ届けようとして消えた事くらいか」
ルビーが世界樹の枝を運んだのか・・・。だから、思ったよりも移動していないのに俺の元へワープしてきたんだな。
「あぁ、恐らくそれが原因だと思うわ」
「やはり、あの杖は特別なものだったと?」
「ええ。あの杖は世界樹、ユグドラシルの枝よ」
「な、なんだと! では、ユラ殿はユグドラシルの精霊様なのか?!」
ルビーが急にユラに向かってひれ伏す。やっぱり、ハーフエルフにとってもユグドラシルというのは特別なんだろうか? もしくは、単に精霊として格が高いと思ったのか。
「え? ユラはユラでちゅよ?」
「この子は、生まれたばかりだからユグドラシルの精霊とはまた違うと思いますよー。将来的にはどうかは分かりませんがー、今は樹木の精霊って感じですかねー?」
精霊の事に一番詳しいシルフィがそう捕捉してくれた。樹木の精霊と森の精霊だったら、どっちが偉いんだろうな? どうせシルフィに聞いても「僕に決まってますよー」っていうのは目に見えているから聞く意味は無いだろうが。
「それでも、エルフにとってはユグドラシルはご神木。まさか、精霊視を得る方法が世界樹に触れることだったとは・・・」
「でも、そう簡単な話じゃ無いと思うけれど? 試しにシルフィ、消えてみせて頂戴。精霊視があるなら、目に魔力を集めて視れば視えるはずよ」
ルゥナがそう言うと、シルフィが目の前から消える。俺は目に魔力を込めると、再びシルフィが視えるようになった。しかし、ルビーはきょろきょろとシルフィを探している様な動きをする。
「み、視えない・・・。それ以前に、目に魔力が込められん」
「じゃあ、やっぱり精霊視は持ってないわね。恐らく、世界樹の枝に触れた事で一時だけ視えるようになったって事じゃ無いかしら。まあ、エルフの血が入っているからこそでしょうけど」
「そ、そう、なのか・・・」
ルビーは目に見えてがっかりしている。
「でも、本物の世界樹に触れれば、もしかしたらもっと効果があるかもしれないわよ? ルビーは世界樹がどこにあるのか知っているのかしら?」
「いや、拙者は知らぬ。そもそも、拙者はエルフの村で育ってはおらぬ。父方の村で、母と3人で暮らしていた。母からも、エルフの村の話は聞いたことはあるが、場所までは教えてもらえていない」
「ちなみに今、お母さんはその村に?」
ルビーは首を左右に振って答える。
「父が亡くなった日、母は拙者に何も告げずに姿を消した。だから、行方は分からぬ。ただ、事件に巻き込まれたとかは無いと思う。単純に、人間の世界に居る意味が無いと悟ったのだろう。拙者の事も、純粋なエルフでは無いからか、それほど愛情をかけられた覚えは無いからな」
ルビーは少し寂しそうにそう告げる。
「それに、拙者も100歳を超えた大人だ。とっくに親離れは出来ているつもりだ」
「ちなみに、ハーフエルフの100歳は人間に換算するとどれくらいなんだ?」
「女性の年齢を聞くものじゃ無いわよ? でもそうね・・・ハーフエルフの寿命は500年ほどだと聞いたことがあるから、単純に割れば二十歳くらいになるのかしら」
「さあ? 拙者自身も正直分からぬ。他にハーフエルフを知らぬのでな」
比較対象が無いんじゃ、分からなくても仕方ないか。見た目から高校生くらいかと思ったけど、実際は俺よりもずっと年上なのか。いや、100歳超えてたらほとんどの人間よりも年上なんだと思うけど。ハーフエルフで500歳なら、本物のエルフはもっと寿命が長いのかな。
その後、色々と重要じゃ無いような話をしてルビーと別れることになった。明日の朝、時間を合わせて宿の入口で待ち合わせする予定だ。




