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転移して奴隷にされたけど、見えない塊を拾ったので逃げる事が出来ました  作者: 斉藤一


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ルビー

「とりあえず、ユラはじっとここで待っていてくれるか?」


風呂の前の入口でユラを待機させる事にした。さすがに、ユラの姿は誰にも見えないからと言っても、俺には見えるので落ち着かないし。


「わかりまちた」


ユラが素直に返事をする。どうやら、一緒に入ってはいけないということは理解してくれたようだ。


「じゃあ、行ってくる」


中に入ると脱衣所になる。銭湯みたいな感じだが、盗られる心配とかないのか? 中へ入ると、大きな湯船が一つだけ。本当に、銭湯みたいだ。俺は体を先に洗い、湯船へと向かう。そして、湯船に入った瞬間、ユラと世界樹の枝が現れた。


「あ」


「ご主人様~」


どうやら、ここが5メートル地点だったようだ。やはり、直線距離は分からんな。幸い、今は誰も居なかったからいいけど―――誰か居ても視えないか。でも、ユラに他人の裸を見せるつもりはない。ユラには汚れなく育って欲しい。


「ご主人様、どうして服を脱いだんでちゅか?」


「お風呂に入る時は、服を脱がないといけないんだよ」


「そうなんでちゅね、じゃあ、ユラもー」


「ちょっ、ユラはだめだ!」


そう言ったが、一瞬遅かった。ユラは全裸になり、俺にくっついてくる。今はエーテルを頭部のみに集めているため、ユラがくっついた腕に柔らかいユラの体の感触が・・・。


「ユラ、ユラは服を着てても大丈夫だから、すぐに着てくれ!」


「でも、さっきご主人様は・・・」


「裸になるのは人間だけだから。精霊は大丈夫だ」


「そうなんでちゅね。分かりまちた」


ユラはすぐに服を着た状態になる。まあ、これでも実際は精霊にとって裸と変わらんらしいが、俺にとって見た目も感触もきちんと服の様になるので安心だ。


「さて、他に誰かが入ってくる前にさっさとあがるか」


こんな状態でゆっくりしているわけにも行かず、世界樹の枝を持って脱衣所へと向かう。その間に、ユラは壁の向こうへと行ったり来たりして遊んでいる。


「きゃーっ!」


突然、隣から女性の叫び声が聞こえた。一体、何が起きたんだ? といっても、女湯の方へ行く訳にもいかないので、とりあえず着替えて外に出るか。


外に出ると、赤い髪をポニーテールにした女性が仁王立ちしていた。


「おい、あんた。風呂の中にはまだ何人か入っているか?」


「? いや、俺一人だけだけど・・・」


「じゃあ、あんたが覗きの犯人か。ちょっと詰所まで一緒に来て貰おうか」


「ちょっと待って! 一体、何のことだ?」


「とぼけないでよ。今、自分で他に人は居ないって言ったでしょ? だったら、あんたが犯人で決まりじゃない」


「俺は覗いて何てない!」


「いいえ、一瞬だったけど人影が壁の向こうへと消えるのを見たもの」


まさか、ユラの事が視えたのか? とにかく、他の人が集まってくる前に、早く誤解を解かないと。


「それって、この子の事か?」


俺は、俺の足の後ろに隠れていたユラを少女に見せる。


「あんた、こんな小さい子を風呂に連れ込んで、一体何をしていたの? これは余罪がありそうね」


「違う違う! この子は俺の精霊だ!」


「嘘をついてこの場を誤魔化そうというの? さあ、そんな男のそばは離れてこっちへいらっしゃい」


少女は、ユラの手を引こうとするが、その手は空を切る。


「あら? へんね。触れない?」


「だから、精霊だって言っただろ」


「嘘よ。私には、精霊なんて見えた事ないんだから。だから、剣士を目指すしか無かったのに・・・」


少女は、うろたえながら後ずさる。そして、さすがにこちらに向かう足音が聞こえてきた。やばい、早く離れないと。


「詳しい説明は部屋でするから、ついてきてくれ」


俺は無理やり少女の手を引いて部屋へと向かう。少女は、まるでユラしか視えないかのようにじっとユラを見ていて抵抗しない。ユラも、じっと見られるのが面白いのか、じっと見返している。


「おかえりアキラ、早かったわね。・・・そちらは誰かしら?」


「風呂場で覗きに間違えられそうになってな、誤解を解くために連れてきたんだ」


「へぇ、アキラー、また覗いたんですかー?」


「人聞きの悪いことを言うな! 俺は一度も覗きをした事なんて無いぞ!」


そもそも、俺にそんな度胸は無いからな。


「そろそろ手を放してよ」


少女は、俺の手を振り払って今度はシルフィの方を見る。シルフィは、その視線を避けるかのように横に動くが、少女の視線はそれを追いかける。


「嘘、羽が生えてる・・・この子も精霊なの?」


「あら? シルフィも視えるのね。あなた、精霊視を持っているのかしら?」


「持っていないわ。持っていたら、精霊魔法使いになっているもの。私の夢、精霊魔法使いに」


「偶然、波長があったのかしら? それとも・・・」


ルゥナがぶつぶつと長考モードに入った。これは、俺が自分で誤解を解く説明をしないといけないのか?


「さっきは、ユラが壁を行ったり来たりしていただけだ。だから、俺じゃない」


「ユラって、この子の事? 確かに、言われてみればそんな気もするわね・・・」


「それに、俺は壁を行ったり来たり何て出来ない」


「そうよね・・・。ごめんなさい。私の早とちりだったわ。ちょっと装備を取ってくるから待っててもらえる? きちんと謝罪をしたいの」


「分かった」


しばらく待つと、ドアをノックする音がした。


「私よ」


「ああ、どうぞ」


扉を開けて入ってきたのは、さっきの少女だ。ただ、今度はきちんと鎧を着ている姿だ。


「私は、ルビー。この度は、私の勘違いで貴殿に不当な言いがかりをつけ、不快な思いをさせた事を深く謝罪する。すまなかった」


ルビーは丁寧に頭を下げて謝罪する。ここまでされたら、俺は許すしかないな。


「謝罪を受けるよ。誤解も解けた事だし、帰ってもいいよ」


「ありがとう。今度はお願いがある。私を、貴殿のパーティに入れてもらえないか?」


「は?」


「見た所、小人族と2人で旅をしているのだろう? 他にパーティメンバーがいるならば、この部屋に2人で居るのは不自然だ。いや、貴殿が小さいのが好きだというなら・・・」


「また変な誤解をしないで! 確かに、俺はルゥナと2人で旅をしているよ。でも、なんで急にパーティに入りたいなんて」


「私は、さっきも言った通り精霊魔法使いになりたい。けれど、必要なスキルである精霊視を持っていないのだ。だが、なぜか貴殿の連れている精霊は私にも視える。つまり、貴殿に着いて行けば、私の夢が叶うかもしれないのだ。私の今の職業は、剣豪。冒険者ランクはまだDだが、すぐに貴殿らに追いつく! だから、頼む!」


ルビーは再び深く頭を下げる。


「追いつくって・・・俺はまだEランクだし、ルゥナも今はそうだよ」


「だが、気配や魔力量が・・・」


「私達の事は気にしなくていいわ。それに、パーティメンバーなら歓迎よ。ちょうど探そうと思っていた所だったのだから。それに、精霊が視えるのなら説明が省けてちょうどいいわね。明日、ギルドへパーティ登録しに行きましょう」


ルゥナは、もうすでにルビーの事をパーティメンバーとして認めたようだ。俺としても、冒険者ランクがDなら実力は文句ないし、誠実そうに見える。ただ、パーティメンバーが女性ばかりというのがひっかかるんだけど。大抵、トラブルのもとになるパターンな気がする。





 




ルビー イメージイラスト https://33791.mitemin.net/i988232/

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