ユラ
「つ、疲れた・・・」
「何よ、これくらいで。でも助かったわ。私だけだと、いちいち姿を見せる必要があるもの。今は出来るだけ人目に付きたく無いから、アキラが居て助かったわ」
「どういたしまして」
まあ、ルゥナは隠形を使っているとほぼ見つからないからな。それに、身長も低いから普通の店で買い物をするのも大変なのかもしれない。それに、今は俺のマジックボックスへ入れている体だからな。それにしても、今ここに俺、ルゥナ、シルフィ、ユラで4人居るはずなのに、他の人から見たら俺一人に見えるんだろうな・・・。
「ルゥナの足が速すぎて、あっという間に買い物が終わったな。少し早いけど宿に戻って休むか」
「そうね。それでもいいわよ」
宿へと帰って来た。ちなみに、宿は一部屋だけである。男女同室というのはともかく、ルゥナは小さいから部屋は狭くならないし、シルフィは寝ないし浮いているし小さいから同じく狭くなったようには感じない。
「ところで、ユラはどういう存在なんだ?」
「あたし? わかりまちぇん!」
ユラは元気いっぱいに返事する。ユラ自身にも自分の事が分からないんじゃどうしようもないな。
「じゃあ、何が出来るか教えてくれるか?」
「わかりまちた。ご主人様、上を向いて口をあけてくだちゃい」
「口を? 分かった」
口周りのエーテルを開け、上を向く。
「それじゃあ、いきまちゅよ。世界樹の雫!」
「世界樹の雫ですって? ちょっま―――」
俺の目の前に大きな葉っぱが現れ、その先端から雫が垂れる。何気に握りこぶしくらいある雫は、俺の口の中へと落ちる。ルゥナが何か言ったような気がするが、もうすでに雫は俺の口の中だ。ルゥナは手を前に出したまま固まっている。
「もごごもご?」
俺はどうすればいいかユラに聞く。まあ、口の中が雫でいっぱいなので発音できてないが。
「そのまま飲んでくだちゃい」
ユラが出したのなら、体に悪いという事は無いだろうと決めつけ、俺はその雫を飲み込む。その瞬間、体が少し楽になった気がする。今日の疲れが取れた感じだ。
「おぉ、体が少し楽になったよ、ありがとう」
「ア、アキラ・・・。あなた、自分が何を飲んだか分かっているの!?」
「え、世界樹の雫だろ? ユラがそう言ってたんだし」
「そうよ! 分かっているならなんで飲んだのかしら? 世界樹の雫と言えば、錬金術師垂涎のエリクサーの原料よ! その雫だけでも、体力を完全回復させる効果があるわ」
「へぇ、だから体が楽になったのか」
「その雫の価値を全く分かってないわ! 普通は、どれだけ金貨を積んでも手に入れられない物よ! 以前に一度、オークションに出品された時には白金貨20枚の価値がついたと言われているのよ!」
「白金貨20枚って・・・2億円!?」
俺は、大変なものを飲んでしまったようだ。2億円の飲み物なんて、どんな金持ちだってそうそうと飲めないだろう。
「あわわわわ・・・」
「? ご主人様、まだのみまちゅか?」
「え。まだ出せるのか?」
「それなら私に頂戴!」
ルゥナは、素早く空き瓶を取り出し、ユラに詰め寄る。ただ、ユラの方がルゥナの2倍近く大きいので見た目的には変だが、圧力はある。
「ご主人様・・・?」
ユラがどうすればいいのか分からず、俺の方を見る。次いでルゥナも俺を見る・・・というか、睨みつける。怖いので、ルゥナの言う通りにしてもらおう。
「ユラ、ルゥナの持っているビンにさっきの雫を入れてあげてくれ」
「分かりまちた。世界樹の雫!」
もう一度大きな葉っぱが現れると、その先端から雫が落ちる。ルゥナはそれをビンで受け入れ、蓋をして大切そうにストレージに仕舞った。
「ありがとう。これで、ハイポーションなんか目じゃないほどの回復薬が手に入ったわね」
「まだいりまちゅか?」
「そろそろ、やめた方が良いですよー? このあたりの空気中の魔力濃度が一気にさがりましたからー。これ以上濃度が下がると、僕たちも飛んでいられなくなりそうなのでー」
「そうなのか?」
精霊魔法は自身の魔力ではなく、周りの魔力を使って使うと聞いたからシルフィの指摘はあっているのだろう。それに、シルフィの方が俺よりも魔力に敏感だしな。
「やはり、簡単には手に入らない物なのね・・・。他には、何かできるかしら?」
ルゥナが改めてユラに問う。ユラは、両手の人差し指を頭にあてて考えている。
「うーん、思い出せまちぇん!」
「? それは、知っているはずなのに出来ないという事?」
「そうかもしれないでちゅ。いまは、世界樹の雫とエールくらいしか使えまちぇん」
「エールっていうのは、さっき買い物の時に俺を応援してくれたやつか。あれも、便利そうではあるな」
効果は低いが、無いよりはいいだろう。
「それで、これからどうするんですかー?」
「お金を受け取った後、次の街へ向かうわ。今回は護衛任務を受けずにね。できれば、前衛を受け持ってくれる冒険者が一人欲しいのだけれど。私達には仲間が必要よ」
「まあ、俺は正直、戦闘では前に立てないからな・・・。ルゥナも体格的に向いていないだろうし」
ゲームで言えば、俺は後衛職の魔法使い、ルゥナは斥侯役だ。シルフィもユラは俺の魔法という観点から行けば居ないのと同じだし、そもそも物理的には触れないし。
「明日、ギルドで探してみるわ。もし居なければ居ないのでもいいのだけれど、居たほうが安全だわ。現状、他の人から見たらアキラが一人で旅をしてるように見えるはずよ。きっと野盗のエサね」
ユラはまだ分からないが、シルフィは寝る必要が無いので夜番が出来る。ルゥナも感知能力が高いので、敵が接近すれば分かる。俺はまだ慣れていないから、足手まといになっている実感はあるが、こればかりは急には変えられない。だから、旅自体には困らないが、一人旅をしていたら襲ってくれと言わんばかりか?
「馬車とか出ていないのか? それに乗っていくとか」
「今回だけならそれでもいいのだけれど、今後の事を考えると早めにパーティメンバーを増やすほうが利点があるわね」
「なるほど。とりあえず、明日ギルドへ行くよ」
話が終わり、風呂に入ってあとは寝るだけだ。この宿はなんと風呂がある。その代わり、普通に泊まれば結構な金額がするようだが、今回はクラウド隊長・・・というか、護衛隊持ちだからな。
「じゃあ、風呂に行ってくる」
「ご主人様ー、あたしもいきゅー」
「ユラは女の子だろ? 一緒には行けないよ」
「なんでだめなんでちゅか? あたし、ご主人様のそばに居たらだめでちゅか?」
うるうるとユラが泣きそうな目でこちらを見るが、これはそう言う問題ではない。
「男と女が一緒の風呂には入れないんだよ。シルフィ、ユラの事を見ていてもらえるか?」
「いいですよー。ユラ、アキラは女の子の裸を―――」
「だーーっ! やっぱり、ルゥナ、ユラを頼む!」
シルフィに頼むと、ユラに変な事を教え込みそうだったのでルゥナに頼むことにする。ルゥナは、呆れたような眼をしてため息をついたが、了承してくれた。
俺が部屋を出ようとすると、ユラがふよふよと着いてくる。
「ユラ? ルゥナと留守番だよ?」
「ご主人様、あたし、世界樹の枝から離れられないみたいでちゅ」
「じゃあ、世界樹の枝は置いて行くよ」
俺は部屋に世界樹の枝を置く。しかし、部屋を出てしばらくすると、世界樹の枝が俺の近くにワープしてきた。当然、ユラも一緒だ。
「なんで?」
部屋に戻ると、やはり世界樹の枝がない。
「なんか、世界樹の枝がワープしてきたんだけど」
「そういえば、世界樹の枝はアキラの専用装備になったんだったわね。それじゃあ、一定距離離れると持ち主の元へ戻る機能があるわね」
「え。そうなのか。それじゃあ、離れられないじゃん・・・」
「わーい、ご主人様とずっと一緒ー」
ユラはうれしそうだが、これは困ったことになる。試してみると、5メートル程離れただけで俺の元へと戻ってくる様だ。トイレとかなら5メートルあれば問題ないが、こういう公共の風呂だと風呂まで5メートル以上ありそうだ。




