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転移して奴隷にされたけど、見えない塊を拾ったので逃げる事が出来ました  作者: 斉藤一


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ユグドラシルの枝

再び、鑑定職人のルイスさんの所へと戻った。


「おや? どうしました? 何か忘れ物でも?」


「いや、もう一度ゴブリンクイーンの杖の鑑定をお願いしたい」


「ああ、効果なしというのが信じられなかったという事ですか? でも、確かにあれは効果がついていませんでしたよ」


「いや、鑑定結果を疑った訳じゃない。あれから少し変化があって、もう一度杖の鑑定をお願いしたいんだ」


一応、話が早い様にクラウド隊長が話を進めてくれる。俺は、人見知りだから知らない人と簡単に話ができないのだ。まあ、相手の雰囲気にもよるけど。ルイスさんは、クラウド隊長が置いたゴブリンクイーンの杖に手を掲げる。


「では、鑑定。―――! この杖、本当にさっきのゴブリンクイーンの杖ですか? まさか、入れ替えたんですか?」


「いや、正真正銘さっきのゴブリンクイーンの杖の杖だよ。それで、鑑定結果はなんと?」


「・・・信じられません。いや、存在していることは誰でも知っているんですが、それを直接見たという者はエルフ族の除いて居ないという話です」


「? 一体、何を言っているんだ? ゴブリンクイーンの杖がどうしたと?」


「これは、ゴブリンクイーンの杖なんかじゃありませんよ! いや、さっきまでそう見えていたのは確かですが、今は全くの別物です。これは―――世界樹の枝です」


「世界樹―――ユグドラシルか。これが、その枝だと?」


「ええ。今度こそ間違いなく。先ほどと見た目こそ変わりませんが、効果が増えています。魔力増大に精霊親和、魔力回復大にHP回復大、精霊魔法強化。これほどの物なら、確実にレジェンドレアの装備ですね」


「すごいな! これなら、いくら出してでも護衛隊で買い取るぞ。予算が無ければ、領主様に直訴してでも金を出してもらう!」


「クラウド隊長、残念ですがこの世界樹の杖はアキラさんの固有装備となってしまっています」


「なんだと! くそぉ、レジェンドレアの武器なんて俺だって見た事ないのに!」


買い取れないことに失望したクラウド隊長が、呆然自失としている。隊長が復活するまで待つか。


「それにしても、なんで俺の固有装備に?」


「精霊と契約したからじゃないかしら。――という事は、あの精霊はまさか、ユグドラシルの精霊?」


「どうですかねー。あの子、生まれたばかりって感じがしますよー? 枝としての分体って感じですかねー?」


「そうなの・・・。それでも、すごい事だと思うけれど」


「そう言えば、名前は何て言うんですかー」


シルフィは、生まれた精霊に話しかける。


「あたしの名前・・・? わかりまちぇん」


「分からないってどういう事? 精霊は、生まれた時から名前があるんじゃないの?」


「由来がある精霊ならありますよー。ただ、この子の場合は特殊な生まれだから無いんじゃないですかねー」


「だったら、アキラが名付けてあげたらどうかしら?」


「え、俺が名づけを? ルゥナがつけたらどうだ? 俺よりセンスあると思うし」


「ダメよ、契約者でしょ? 自分の契約精霊なんだから、責任を持たないといけないわ」


「うーん・・・。責任重大だな・・・。世界樹・・・ユグドラシル・・・ユグ? いや、発音的にユラの方がいいか?」


「あたしの名前、ユラ? いいでちゅよー」


世界樹の精霊はユラという名前になった。名前を付けるのって苦手なんだよな。まあ、本人が嫌がっていないからいいけど。


「改めてよろしくー、ユラ」


「ユラ、よろしくお願いするわ」


シルフィとルゥナも改めてユラと挨拶を交わす。ユラもうれしそうにしているから、仲良くやっていけそうだな。


「隊長、そろそろ行きませんか?」


「あ? ああ、済まない、少し意識を飛ばしていたようだ」


復活したクラウド隊長を連れて店を出る。


「まあ、ゴブリンキングの剣だけでも十分強いからいいか。恐らく、俺の装備になるからな!」


「そうなんですか? そう言うのはもっと上の人が使うイメージがあるんですけど」


「はっはっは、こう見えて俺は護衛隊の隊長だぞ? それも、貴族だ」


「ええっ! クラウド隊長って貴族だったんですか?」


「この街の住人なら知っているが、冒険者はしらないか。まあ、貴族と言ってもまだ当主じゃ無いから権力はないがな。それはそうと、ゴブリンキングとクイーン、ゴブリン喰らいの素材なんかの査定があるからもう少しこの街で待っていてくれないか?」


「ええ、構いません。特に急いでいく場所も無いし」


「それでも、数日しか滞在しないわよ。アキラは急いでいないと言っているけれど、早めに他の街へ行きたいもの」


そう言えば、ルゥナは追手の心配をしているんだったな。ヘルハウンド以外にも追っ手っているのか? クラウド隊長に聞こえないように、ルゥナに話しかける。


「まだ、追っ手が?」


「貴族の持っている部隊は一つじゃ無いわ。ただ、最初に送り込まれるのはヘルハウンドね。そいつらが居なくなった証拠が無い以上、しばらくは大丈夫だと思うのだけれど、それでももう少し離れておきたいわね」


「分かった。それなら、素材の買取が終わったらすぐ出ようか」


実際は、お金には困っていないけど、お金を捨ててまで急ぐ必要は無いだろう。すぐ近くに追っ手が居るというなら話は別だが、余裕があるなら受け取ってからでいいはずだ。


「滞在費用はこちらで負担するから、宿屋の主人にそう伝えておいてもらえないか? 請求書を護衛隊に出してほしいと」


「分かりました。伝えておきます」


「俺は、街の外の部隊に合流してくるよ。じゃあ、また後日。受け取り日時は、宿へ伝えに行かせるから」


「はい、お願いします」


俺達はクラウド隊長と別れる。夕飯まではまだ時間があるから、もう少し街をぶらついてから宿へ戻るか。ユラはまだ飛ぶのに慣れていないのか、ふらふらと浮いているな。


「ユラ、飛ぶのが大変なら俺の肩に掴まるか?」


「いいんでちゅか? わーい」


ユラは俺の近くへパタパタと飛んでくると、肩へと触れる。俺はエーテルを掴まりやすいようにでっぱりにする。


「ルゥナ、何かやることはあるか?」


「そうね・・・。旅の必需品は問題無いから、消耗品を少し補充するくらいかしら」


「それなら、俺も買い物に付き合うよ。暇だからな」


「じゃあ、ちゃんとついてきてね? 私はのんびりと買い物なんてしない質だから」


ルゥナはそう言うと、足早に市場へと向かう。まるで地面を滑るように移動するルゥナは、俺が思っていたより早い。パワードスーツの力を使わないと、素の俺の力じゃ追い付けないな。


「ま、待ってくれよ!」


小さいルゥナは、人の足元の隙間も簡単に走り抜けていく。俺にはそんなことできないから、見失いそうだ。まあ、見失ったら諦めて宿へ帰るけど。


「アキラ―、早くー」


「ご主人様、がんばりぇー」


精霊達の応援を受けて、速度を上げる。というか、なんか体が軽い気がするんだけど?


「シルフィ、何かしたか?」


「僕は何もしてないですよー。ユラがアキラにちょっとしたバフをかけたみたいですけど」


「ああ、ユラのおかげか」


シルフィのいたずらじゃなくてよかった。それにしても、応援だけでバフをかけられるなんて、ユラは支援職としても優秀だな。







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