ゴブリン喰いクエスト終了
俺達も門を通るのを慣れたものだ。シークが居るから、顔パスでもいいくらいなんだけど、変装スキルなんかもあるらしいから、必ず冒険者証のチェックは行われている。
「結構早く依頼が終わったな。てっきり、護衛隊ですら見つけられない魔物だからもっと時間がかかるのかと思ってたわ」
「運が良かった・・・いえ、悪かったのかしら? 本来、ゴブリンしか寄ってこないはずの場所にアキラが来るとは、さすがの魔物も思わなかったんでしょうね。あの魔物、何故かは分からないけれど、ゴブリンとその周囲の物しか食べていなかった様だし」
「まあ、不用意にゴブリンが消えた場所に近づいた俺も悪いけど、ゴブリンに間違われるなんて勘弁してほしいな」
「サンドワームには目が無いから、単純に地面の振動で獲物が居るかどうか判断してるだけだと思うけれど」
「今まで、俺みたいに食われた冒険者とか居なかったのかな?」
「冒険者の行方が知れなくなる事なんて珍しいことじゃ無いわ。それこそ、新人であればゴブリンにすら連れ去られる可能性があるのだから。冒険者証が発見されれば、死んだことが分かるのだけれど。さっきの胃液の中には、幸い冒険者証は無かったわ。まあ、時間が経っていれば溶けるか、糞として地面の中に排出されているかもしれないけど」
「俺も、エーテルが無かったらそうなってた可能性が高くて怖いな」
「エーテルが無かったら、アキラは冒険者になっていないと思いますけどー? そして、エーテルが無かったら僕とこうして一緒に居る事もなかったですしー。ルゥナとも会えて居ないと思いますよー?」
「確かにそうだな。そもそも、エーテルが無かったら俺、ゴブリンに殺されてたわ」
嫌な記憶を思い出し、ぶるりと体を震わせる。そう考えると、俺はエーテルにすごく助けられているな。全く見えないこの物体が何なのかは分からないけれど、今となったら俺には無くてはならない存在だ。
「ギルド、少し混んでるわね。ゴブリン喰いの依頼で、少しだけ活発になったのかしら」
ギルド内に入ると、若手の冒険者が結構多い。情報だけで報酬が得られるというのは、新人冒険者達にとってはやはりやりやすいのだろう。まあ、俺達以外に重要な情報を持っているとは思えないけど。
冒険者達は、依頼票の張り出されている掲示板の方に多くいるが、受付は空いていたのでシィルさんの所へ行く。なんだかんだで、俺としても一番話しやすい人だし。
「あら、アキラくん。それと、ルゥナさん。今日はどうされました?」
さすが受付嬢をやっているだけあって、何度かしか顔を見せていない俺の名前も憶えていてくれているようだ。接客されて一番うれしいのは、やっぱり覚えていてくれることだよな。コンビニとかでも、顔を覚えられたら常連って感じがするし。
「ゴブリン喰らいについて報告したいことがあるの」
「あ、それでしたら、丁度クラウド隊長がギルドマスターのところへ居ますよ。声をかけてきますね」
シィルさんはそう言うと、トテトテという音が聞こえそうな感じで階段を上っていく。しばらくして、シィルさんは戻ってきた。
「お待たせしました。報告を、ギルドマスターの部屋で聞きたいそうなので、ご案内しますね」
俺達はシィルさんに続いて階段を上る。やはり、ギルドの作りもどこの街も一緒なのか、アッガイのギルドマスターのところと一緒だ。シィルさんがドアをノックすると、クラウド隊長の返事が聞こえた。
「失礼します」
ギルドマスターの部屋に入ると、ソファにクラウド隊長が、執務机にギルドマスターと思われるおじさんが座っている。
「やぁ、アキラくんにルゥナさん。俺の向かいのソファに座るといい」
「おい、クラウド。その前に、ギルドマスターである俺も居るんだぞ?」
「ああ、そうだった。ガーベラテトラの冒険者ギルド、ギルドマスターのグレンさんだ。元Aランク冒険者だから、実力は折り紙付きだよ」
「グレンだ。クラウドから直接依頼されるほどの冒険者だと聞いている」
グレンさんは、机から立つと、俺に握手を求めてきた。俺は普通にその手を握る。
「あ」
「え?」
クラウド隊長が、声を上げたが、それ以降何も言わないのでなんだったのやら。
「ふっ、見た目通りの奴じゃないってことか。さすが、クラウドが見込んだだけのことはある」
「いやいや、グレンさん。俺が見込んだのは、ルゥナ・・・そっちの彼女の方ですよ?」
「なんだと?」
グレンさんは、俺の足元に居るルゥナの方を見る。今回は、ルゥナも隠形を使っていないはずなので、入室時から気が付いているはずなんだけど。
「じゃあ、こいつは?」
「アキラくんは、普通のEランク冒険者だと思うよ」
「だが、俺の握手に顔色を全く変える事がなかったぞ?」
「ああ、やっぱりやってたんですか・・・。グレンさんのヘルシェイクハンド」
「あの・・・その物騒な名前の技は何ですか?」
「グレンさんは、相手の実力を握力で測る癖があるんだよ。まあ、相手に合わせて力を加減するから骨折とかはしないけど、手がしびれるくらいは普通だよ。って、アキラくんは平気なのかい?」
「がははっ、ちなみに言っておくが、俺は今回、全力で握ったぞ」
「はぁっ!? 全力って、手を粉砕骨折する気だったんですか!」
クラウド隊長が立ちあがって驚く。俺、粉砕骨折するところだったのか?
「いや、いつも通り少しずつ力を入れて行った結果、全力になっただけだが?」
「グレンさんレベルだと、あの一瞬でそこまで力加減が出来るもんなんですね・・・。それにしても、グレンさんの全力でも平気なアキラくんって、実は何かの実力を隠しているのかい?」
「いえ、隠すような実力は無いですよ。ただ、特別なアイテムを持っているというか・・・」
そう言えば、エーテルについて話すのは初めてか? リンドールさんのときは何も言わなかったからな。まあ、今回は明らかにバレているから話すしか無いんだが。
エーテルについて話すと、グレンさんは俺の全身をべたべたと触る。おっさんに触られても全く嬉しくない。まあ、直接触られて無いから感触とかは無いんだが、絵面がな。
「ところで、報告をしてもいいのかしら?」
さすがに待ちくたびれたのか、ルゥナがそう問う。
「ああ、悪い。用件はそれだったな。ゴブリン喰いについては、俺も話を聞きたいと思っている。今まで、いくら調査しても全く見つける事が出来なかったゴブリン喰いについて、たった1日で進展があるとは優秀だな」
「俺が見込んだだけはあるでしょう? 彼女、この街の中でもトップクラスの斥候役の実力を思っていますよ」
「残念だけど、今回はアキラの手柄よ。私は、おまけみたいなものだったのよ」
「そうなのかい? それじゃあ、詳しく話を聞きたいな」
クラウド隊長は、改めてソファに座り直すと、俺達を向かいのソファに座るよう、促した。




