ゴブリン喰らい4
「あれがシルフィが見つけたっていうスライムか? 何かを喰ってたって話だったけど、何も無いな」
「確かに食べてましたよー。だから、ゴブリンもこうやって何も残らないくらい綺麗に食べたんじゃないですかー?」
「一応、そう言う見方もできるけれど、問題は死体が無い事じゃ無くてゴブリンが居なくなる事よ。仮にゴブリンの死体を綺麗に片づけたのがスライムであっても、ゴブリンを倒したのが誰かという疑問が残るわ」
「とりあえず、こいつは情報の証拠として使えるか? 捕まえられるか?」
「そんな大きな容器は―――あることにはあるけど、わざわざ捕まえるの?」
「動きがノロイっていうなら捕まえてみるのもありなんじゃないかなって」
俺はそう思ってスライムに近づく。スライムは、目とかないからどこを見ているか分からないが、とりあえず俺は後ろだと思う方から近づく。つまり、スライムが向かっている方と反対方向からだな。
後2メートルくらいというところで、急にスライムからペッて感じで水風船くらいの液体が俺に向かって発射された。急だったので、回避する事ができず、顔面にべちょっと弾ける。
「うわっ、何か汚いな。スライムって遠距離攻撃も出来るのかよ」
「いいえ、スライムは遠距離攻撃なんて持っていないわ。こいつはきっと、進化した個体ね」
「うわー、アキラが黄色い液体まみれでなんか汚いですねー。あれ? 後ろの木から煙が出てますよー?」
シルフィが言う通り、後ろの木を確認すると、木が溶けたようになって煙が出ている。いや、溶けた様じゃなくて、溶けてるわこれ。
「アシッドスライム・・・酸性の物を好んで食したスライムが進化した魔物よ。その体液は、鉄ですらも溶かすという危険なものよ。これなら、ゴブリンは倒せるかもしれないわね」
「うえっ、この液体ってそんな危険な物なのかよ」
俺の顔面はエーテルで覆っているので何ともなかったが、もしエーテルが無かったら、後ろの木の様に顔面が溶けていたかもしれないって事か。なにそれ、怖っ。
「アシッドスライムの体液なら、珍しいから高く売れるわよ。ただ、保存できる容器も限られるから、ちょっと街で買ってくるわ。それまで見張っていてちょうだい。ただし、あまり近づきすぎて攻撃されないようにね。体液が減るから」
ルゥナはそう言うと、街の方へ向かって走って行った。本気でこいつの体液を売るつもりなのか? そもそも、どうやって倒すんだよ。絶対、武器も溶けるだろ。
「とりあえず見張るか」
「そうですねー。あれ? 何かが近づいてくるみたいですよー」
シルフィが他の魔物を見つけたようだ。見つからないように、木の陰から近づいてくる魔物を見る。
「なんだ、ゴブリンもいるじゃん」
「そうみたいですねー。あのゴブリンの装備、殺した冒険者のものですかねー? 鉄の鎧と鉄の剣に見えますねー」
確かに、ゴブリンにしてはいい装備をしている。俺が前に見たゴブリンは、棍棒くらいしか持ってなかったからな。いや、弓を持ってた奴もいたか。それにしても、このゴブリンは目的地でもあるかのように、わき目もふらずに真っすぐ歩いてくるな。
「このままいくと、アシッドスライムと鉢合わせしそうなんだが、どうしたらいいと思う?」
「別に、見張ってるだけでいいんじゃないですかー? さっきアキラを攻撃した液体があれば、ゴブリンなんて即死でしょうしー」
「そうだな。じゃあ、見てるか」
ゴブリンは真っすぐアシッドスライムに向かって歩いて行く。別に、アシッドスライムが目的では無いようで、ゴブリンの目線は森の奥を見ている。しかし、アシッドスライムはゴブリンをエサだか敵だか判断したのか、液体を飛ばした。
「あ」
「あー」
それは、一瞬の出来事だった。それこそ、俺とシルフィが「あ」くらいしか言えないくらいの。なんと、ゴブリンはアシッドスライムの液体をあっさりと回避し、アシッドスライムの魔石を持っていた鉄の剣で破壊したのだ。鉄の剣は多少溶けているが、アシッドスライムは死んだようだ。体液が形を失い、地面に広がっていく。
「あいつ、何てことしやがる。俺がルゥナに怒られるじゃ無いか」
「見張っていろって言われたのに、殺されたんですから怒られますねー」
「シルフィも怒られるだろ、連帯責任で」
「僕は見張っていろと言われて無いですから、連帯で責任は負いませんよー」
「ず、ずるいぞ! 一緒に怒られてくれよ」
「いやですー」
「くっ。せめてゴブリンの方を見張るか。そもそも、この依頼内容はゴブリンが居なくなる事の原因、犯人捜しだからな。つまり、アシッドスライムは犯人じゃ無かったって事で調査続行だ」
「まぁ、それでいいんじゃないですかー? 僕は面白ければ何でもいいですよー」
俺とシルフィは見張る対象をゴブリンに変える。ゴブリンはどんどん森の奥へと進んでいき、少し更地になった場所で急にきょろきょろと辺りを見回し始める。
「なんだ、急に止まって。何かを探している様だが、こんなところに何も無いだろ?」
「何も無いですねー。ですけど、何か違和感があるんですよねー」
「そうなのか? まあ、もう少し様子を見――」
様子を見ると言おうとした瞬間、ゴブリンの姿が消える。いや、一瞬だけど地面から何かが現れて、地面の下に消えた時にはゴブリンも消えたんだ。
「一体、何が起きたんだ?」
「さあ? ゴブリンも居なくなりましたねー。これで、アキラはルゥナに怒られることが確定したようです」
「なっ、それは困る!」
俺はゴブリンが消えたあたりを調べる事にした。地面を確かめると、思ったよりも柔らかい。というか、粘土みたいだ。それで、ゴブリンは一体どこに消えたんだ?
そう思った瞬間、辺りが暗くなる。俺の体に少しの浮遊感があり、地面へと打ち付けられる。エーテルの内側はゴムの様に柔らかくしてあるので、エーテルにぶつかって怪我をする事は無いが、多少は痛かった。
「いってー。一体、何が起きたんだよ。それに、臭いな」
真っ暗で何も見えない。本当に真っ暗で、急に夜になったとかでは無い事は確実だ。さらに、さっきのアシッドスライムの吐いた液体のような臭いがする。臭いから、とりあえずエーテルの穴も全部塞いでおくか。呼吸が苦しくなったら、また穴を開けるしかないが、それまでには何とかしたい。
「あ、いたいた。もぅ、急に消えないでくださいよー」
「シルフィか? 一体、俺はどうなったんだ?」
「自分の事なのに分かっていないんですかー? ここ、地面の下ですよー?」
「なんだって? どおりで真っ暗なわけだ。何も見えん。シルフィは視えるのか?」
「光が無くても、精霊視で見れば見えるはずですよー?」
「そうなのか?」
俺は目に魔力を込める。すると、昼間とまではいかないが、ある程度周りがみえた。どうやら、洞窟の様だな? そして、目の前には大きな水たまりがあった。
「って、何だこりゃ!」
その水たまりには、さっきのゴブリンが少し溶けた状態で浮いているのだった。




