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転移して奴隷にされたけど、見えない塊を拾ったので逃げる事が出来ました  作者: 斉藤一


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ゴブリン喰らい3

「どうして私達のパーティに入りたいのかしら? そもそも、なぜ私達を選んだのか聞かせてもらいたいわ」


「えっと、まず最初に私の職業は回復術師です。知っているかもしれませんが、回復術師は怪我を回復させることによって経験を得る事が出来る職業です。ですので、私は怪我を治して経験を得て、中級回復術師に転職したいのです。そのために、冒険者の方に着いて行くのが一番だと思って声をかけました。ただ、私の今の実力では、それほど多く回復する事が出来ません。見た所、新人のあなた方なら、それほど大きな怪我を負うような危険をおかさないと思いました」


回復術師の事は俺も知っている。アリスさんがそうだったからな。回復術師のメリットは、回復魔法を使うだけで経験を得られる事だって言っていた。ただ、デメリットとしてそれ以外で経験を得られない事。さらにいえば、その人の意思で傷をつけた、自傷と術者自身への回復魔法は経験としてカウントされない事だったはず。だから、怪我をしないように気を付けつつも、ある程度怪我をする必要があるってトマスさんが苦笑してたっけ。


「だとしたら、あなたの見込み違いよ。私達は確かに冒険者としては新人だけれど、あなたが望むような怪我を負う事は無いわ」


「で、でも、森の中に入れば枝や動物にも怪我を負わせられたりしませんか?」


「私はそんなヘマはしないわね」


「俺も、その程度じゃ怪我する事は無いかな」


「ですが、回復術師が居て邪魔という事は無いと思います。いつ怪我をするかなんて分からないですし」


「怪我をしたら、その時にお願いするわ。それに、私達はずっとこの街に居るというわけでは無いわよ」


「この街に居る間だけでもいいんです。この教会に怪我の治療で訪れる人がほとんど居なくて、困っているんです」


「でも、怪我なんてしないからなぁ・・・。ルゥナ、俺を何かで殴ってくれないか?」


「いいけど・・・」


ルゥナも、俺が全身をエーテルで守っていることは知っている。普段は、人にぶつかったりして相手に怪我をさせないように表面は柔らかくしているが、戦闘中は硬くしている。俺は、その硬さをミミルに見せてやろうと思う。


ルゥナは、アイテムボックス・・・に見せかけたストレージから、薪に使うであろう1メートルくらいの木の棒を取り出す。


「これなら、折れたとしても困らないわ、どうせ折って使うから」


「それで殴るんですか・・・? もし、怪我をしても私が治しますね」


ミミルが、俺が怪我するのを期待するような眼で見ているが、残念ながらそうとはならない。


「じゃあ、思いっきりやってくれ」


「分かったわ」


ルゥナがジャンプし、枝を―――バキンッという音と共に枝が折れる。ルゥナが俺の頭に振り下ろすのが見えなかったから、本当に本気で殴った気がするんだが。


「・・・本当に、傷一つついていませんね・・・」


ミミルが残念そうに俺の頭を確認する。


「この方が怪我をしないのは分かりました、では、あなたは何故怪我をしないのでしょうか?」


「証拠を見せた方が早いわね。これを使って私を好きなだけ攻撃するといいわ」


ルゥナは、ミミルにショートソードを渡す。


「えっと、これ、真剣ですよね? 危ないですよ!」


「剣士でも無いあなたの攻撃なんて当たらないっていう証明なんだから、好きなだけ攻撃してもいいわよ。怪我をしたら、それこそあなたが治せばいいと思うわ」


「分かりました、えいっ!」


ミミルなりに一生懸命ルゥナを攻撃する。ルゥナは、大げさに回避する事無く、最低限の動きだけで回避する。それは、ミミルが疲れるまで続いた。といっても、5分ほどか? ミミル、体力無さ過ぎだな。この時点で、旅なんて無理そうなんだが。


「はぁ、はぁ、はぁ、わ、わかり、ました。うぅ、私の、夢が・・・」


がくりと膝をついて落ち込んでいるミミルの事は可哀そうだと思うが、俺達では力に成れそうにないので静かに退室した。


教会を出た所で、シルフィが飛んでくるのが見えた。迷いなくこっちに飛んでくるってことは、シルフィには俺の居場所が分かるのか? それとも、ルゥナの居場所が分かるのか?


「アキラ~! 怪しい魔物、発見しましたよー」


「本当か? どこだ?」


「結構近くの森ですねー。それこそ、盗賊たちと戦った場所の奥ですよー」


「それで、どんな魔物なんだ?」


「水の塊みたいな魔物で、水の中に魔石が浮かんでいましたよー」


「それはスライムね。珍しい魔物じゃないけれど、どうして怪しい魔物だと思うのかしら?」


「ちょうど、動物の死体を食べてたからですよー。これなら、ゴブリンが見つからない理由になるんじゃないですかー?」


「スライムは、動いている物はほとんど食べないわよ? 基本的に動きは遅いし、何より弱いもの」


「でもー、それ以外にそれらしい魔物が居ないんですよー。とりあえず、見るだけ見てはどうですかー?」


「スライムか・・・俺も見てみたいな。ちなみに、冒険者ギルドに売れる素材とかあるのか?」


「一応あるけど、割に合わないわよ? スライムを倒す手段は2つ。核となっている魔石を割るか、体液を蒸発させるか。魔石を割った場合、スライムの体液が液体に戻るわ。その体液が地面なんかにしみこむ前に容器に入れるのよ。錬金の素材として一応売れるけど、スライム自体、素材ように育成されてたりするから需要はほとんど無いわね。次に、体液を蒸発させて魔石を手に入れる場合。この場合は火魔法で体液を蒸発させるのだけれど、当然体液は手に入らず、手に入った魔石も銅貨1枚くらいでしか買い取られないほど弱い魔石よ。さらに言えば、魔法使いって大体便利な水魔法や土魔法が人気で、森を火事にする可能性が高く、その上、魔物の素材も焼いてダメにするから攻撃力は高いけど冒険者には人気が無いの。だから、火魔法で体液を蒸発させる方法を取る事はほとんど無いわね」


「確かに、割に合わないな。まあ、今回は情報にも報酬が出るって言うから、とりあえず見に行くか」


「そうですよー。せっかく僕が発見してきたんですからー」


「分かったわよ。ただ、見るだけ見たらさっさと帰ってくるわよ。じゃないと、宿の夕食にありつけなくなるわよ」


「おっけー。じゃあ、ついてきてねー」


シルフィは、まっすぐ門へ向かう。俺も出来る限り早く着いて行くが、ルゥナほどぴったりと着いて行く事が出来ない。


「はやくはやくー。早くしないとアキラだけ置いて行きますよー?」


「分かったよ、パワードスーツ使うわ」


俺はパワードスーツの補助を使い、シルフィに着いて行く速度を上げる。そして、門へ着いたら冒険者証を見せて外へと出る。今日はシークも居たが、話している暇は無いので挨拶だけして走る。


「こっちですよー」


シルフィに続き、森の中へと入る。少し森の奥に入ったところで、確かにスライムが居るのが見えた。

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