ゴブリン喰らい2
魔道具屋は、普通の商店とは別の場所に固まって配置されているらしい。魔道具は一品物が多いため、ばらばらの場所で商売するよりも、近くで商売した方が客足がいいようだ。確かに、何が置いてあるのか分からない店を、街の中を歩きまわされるのは勘弁してほしいな。
「アキラはその辺の店を適当に見てていいわよ。私は、ちょっと話を聞いてくるわ」
いうが早いか、ルゥナの姿が消えうせる。行動が早いのはいいことなのかもしれないが、せめて俺の返事くらいは待ってくれてもいいんじゃ無いかな。
「適当にって言われてもなぁ」
とりあえず、雑貨店みたいに見える魔道具屋に入る。棚には見た事も無いような物が沢山置いてあった。見た目だけでは全く効果が分からないものが多い。値段も、銅貨1枚で買えるものから金貨くらいのものまで様々だ。
「いらっしゃい。何をお求めですか?」
店主は、中肉中背の普通のおじさんだった。もっとこう、魔道具を作っていますって感じの人が店主かと思った。ローブを着て、怪しい雰囲気の。
「えっと、翻訳機を探しているんですが、ありますか?」
「ああ、うちにはあまり置いてないねぇ。この棚にある5つだけだよ」
それでも5つあるのか。
「見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
値段は大銅貨1枚から大銅貨5枚くらいで、これが安いのか高いのか分からんな。見た目は、腕輪タイプ、イヤリングタイプ、ヘアバンドタイプ、ラジオみたいな設置型と置物の様なやつだな。この中だと腕輪タイプ一択なんだが。ただ、値段が大銅貨1枚で一番安いんだよな。
「これの機能ってどんな感じですか?」
「ああ、これは方言を翻訳する魔道具だな。どんな方言も、標準語に聞こえるようになるんだ」
「それって、異世界人でも使えますか?」
「君、異世界人なのかい? だったら、これは無理だね。あくまで、この世界の言語を知っていないと変換されないんだよ」
うーん、思ったよりもニッチな性能の翻訳機の様だ。他のやつは買う気もしないから聞く必要が無いな。翻訳機以外にも何か無いかと探したが、ルゥナが持っているやつで十分だな。というか、効果が低いものが多い。日本で言えば、百均みたいな品物と言えばいいのだろうか。どれも値段相応の効果しかない。
冷やかししたようで悪いが、要らないものは要らないからなぁ。店の外に出ると、ルゥナが待っていた。
「思ったより、戻るのが早かったな。この店には、いいものは無かったぞ」
「私の方で買ってきたわよ。はい、これ」
ルゥナが俺に投げ渡してきたのは、指輪だった。話を聞いてくるだけじゃなかったのか? まあいいか。
「こんな小さいのが翻訳機なのか?」
「そうよ。小さくて、それなりに高性能なやつね。まあ、値切ってきたからそれほど高い買い物では無かったけれど。どの指でもいいけど、ハメれば効果が発揮されるわ」
俺はとりあえず邪魔になら無さそうな右手の中指にハメる。自動調節機能があるようで、奴隷の首輪同様につけているという違和感はない。これなら、メリケンサックの様に殴れるかなとも思った。
「それじゃあ、次は教会で解呪しましょう。こっちよ」
ルゥナはすでに道を知っているのか、迷いなく初めての街の道を行く。そして、本当に迷うことなく教会についた。教会はどこの町も作りが一緒なのか、見た目も何もかも一緒だ。中に入ると、置いてある調度品は少し違うが、内部の作りは一緒の様だ。
「こんにちは。私はシスター見習のミミルです。今日は、どのようなご用件ですか?」
最初の受付はシスター見習がやることになっているのか?
「俺の奴隷の首輪の解呪をお願いします。えっと、寄付金はどこに納めればいいですか?」
「あ、すいません。探してきます!」
ミミルはまだ慣れていないのか、寄付金を置くお盆を用意していなかったようだ。それだけ寄付する人も少ないって事なのか?
「ルゥナ、奴隷契約の解除以外に寄付金の要るものってあるのか?」
「そうね、一通りの治療・・・毒や麻痺、呪いなんかの状態異常と傷の治癒かしら。ただ、それは錬金術師が作ったポーションでも治せるから、わざわざ教会まで足を運ぶ方が珍しいわ。ただ、ポーションで治らないような強力なものは教会でしか治せないけれど、それには多額の寄付金が要るわ」
「つまり、金のない普通の街人は教会に来ないって事か」
「お祈りは無料だから、訪れる人は居るわよ。寄付をする人が少ないだけ。寄付をするのは主に、貴族とか裕福な商人かしら。そういう身分の人たちって、何かしらの呪いをかけられるみたいなのよね」
「なるほど、客単価が高いのか。それに、金持ちが妬まれるのはどこの世界も一緒なんだな」
ルゥナと話しているうちにミミルが戻ってきた。
「お待たせしました、こちらにお願いします」
「はい、どうぞ」
俺は銀貨10枚をお盆に置く。俺だったら大銅貨まで崩すんだが、どうやらヘルハウンド達は銀貨くらいで使っているようだ。まあ、万札を持ち歩いているだけって考えると案外普通か?
「確かにお受けしました。それでは、こちらにどうぞ」
解呪を行う場所も同じなのか、ルゥナの解呪をした時と同じ場所へと向かう。そこにはやはり、魔法陣があった。
「司祭様、解呪をお願いいたします」
「分かりました。それでは、魔法陣の中へどうぞ」
俺は、少し緊張しながらも魔法陣の中へと進む。
「主から、解除の許可は貰っていますか?」
「はい、貰っています」
事前にルゥナに教えられた通りに答える。司祭様にとってはどっちでもいいんだろうが、やはり言質は取っておきたいのだろう。奴隷商人が、教会が勝手に解呪したっていいがかりをつけるとは思わないんだが、前例があるからこうして確認しているんだろうな。
「それでは、解呪を行います。目をつぶり、心を落ち着けて下さい」
俺は言われた通りに目をつぶり、深呼吸して心を落ち着ける。これで、俺も奴隷から解放されるのか。
司祭様が魔力を魔法陣に込めたのか、閉じたまぶた越しに光を感じる。それが収まった時、カチャリと俺の首輪が外れる音がした。
「ありがとうございました」
「では、お気を付けて。ミミル、あとは頼みましたよ」
「はい、司祭様」
そう言えば、ここの司祭様はシスター見習に席を外すように指示しなかったな。まあ、その辺は決まりが無いんだろうな。
「お疲れさまでした、それでは私についてきて下さい」
迷うような道では無いが、黙ってミミルに着いて行く。そして、最初の場所とは別の場所へと案内された。そこは小部屋であり、部屋の中には机が一つと椅子が二脚しかない。
「えっと、ここは?」
「ちょっとお話を聞いてほしくて」
ミミルは、俺に椅子を進めると、もう一つの椅子に座る。ルゥナはこの椅子には座れないから、普通に机の端に座っているな。
「えっと、お願いがあるんです。私を、あなた達のパーティに入れて貰えませんか?」
予想外の話に、俺は何の反応も返す事が出来なかった。




