ゴブリン喰らい
ルゥナの冒険者ランクアップを待っている間にクラウド隊長の依頼も受理されたようだ。掲示板に張り出されたその紙を見ると、常設依頼扱いになったようだな。得られた情報の重要度に対して報酬が支払われる形か。それなら、だれでも稼げる可能性はあるから受ける人が増えるかもしれないな。逆に言えば、早く調べないと報酬が減るという事になるが、この街には調査をする人員が少ないから大丈夫か?
「クエストの報告は終えたかい?」
「はい。ところでこれ、常設依頼なんですね」
「ああ。危険度から考えて、俺としてはあまり新人にはやってほしく無いんだけどね。でも、Dランク以上にすると君たちが受けられなくなるし。ちなみに、依頼主はこの街の領主様になるから解決するまでの報酬は約束されているものだよ」
領主が依頼主なら、報酬の払いしぶりや情報だけ得て逃げるという事は無いだろう。
「ちなみに、今の段階で分かっていることってどの程度あるんですか?」
「残念ながら、さっき伝えたのでほぼすべてだよ。そいつが現れた時にゴブリンが居なくなる事だけさ。姿も、どうして居なくなるのかも分かっていないんだ」
「分かりました。それでは、明日から俺達も調べてみます」
「頼むよ。俺はそろそろ書類仕事に戻らないといけないから、これで失礼するよ」
クラウド隊長は俺に軽く手を上げて挨拶すると、ギルドを出て行った。まだ夕方には時間があるからか、冒険者はほとんど居ないな。何人かは、珍しい時間に張られた新しい依頼に興味を持ったみたいだけど、内容を見てすぐに興味を無くしたようだ。ゴブリン喰い自体、初めて出る魔物じゃ無いみたいだから、この街の冒険者には珍しくも無いのか?
「お待たせ、アキラ」
「クラウド隊長と話してたから、ちょうどよかったよ。あれが依頼書だって」
俺が指さすと、ルゥナはその依頼書を見る。ルゥナのスキルなのか、多少離れたこの場所からでも依頼書が見えるらしい。シルフィを視る事が出来る事といい、ルゥナの目が特別なのか、スキルの効果なのか。
「まあ、妥当だと思うわ。特定のパーティに依頼するにしては漠然としすぎているもの。魔物の強さや生息場所が分かれば、新しいクエストとして討伐クエストなんか出るんでしょうね。今の段階じゃ、魔物の強さはおろか、夜行性かどうかも分かっていないみたいだし」
「確かに。見つからないってことは夜行性の可能性もあるのか? それにしても、この距離からよく依頼書が読めるな」
「鷹の目のスキル・・・ということにしておいて」
鷹の目っていうスキルもあるのか。字面からして遠くを見れるスキルってところか。実際はどうかしらないが、ルゥナの言う通りでいいか。そして、俺達は話しながらもギルドを出た。
「それで、どうするの?」
「ゴブリン喰らいの依頼か? とりあえず、明日からでいいかなって思ってるんだけど、ルゥナの言う通り夜行性の可能性を調べるなら夜も調べた方が良いのか?」
「私は、アキラに合わせるわ。正直、クエスト自体もどうでもいいと思ってるくらいだし。それに、やるなら私よりも適任者が居るでしょう?」
「誰だ?」
「僕の事、忘れてない!?」
街の中ではむやみやたらに誰も居ない空間に話しかけられないため、自然と話さなくなったシルフィが俺の耳元で叫ぶ。
「叫ぶなよ! 別に忘れてたわけじゃ無いって。それに、シルフィに任せて大丈夫なのか? また、キラーマンティスみたいな奴が出て来たら危ないだろ?」
「僕が何十年森に住んでたと思ってるんですかー。それに、精霊に触れることが出来る人や魔物は珍しいって何度も言ってるじゃないですかー」
「私よりも、シルフィの方が広範囲を調べるには向いているわ。いえ、対象の物を探すのならともかく、森全体を把握するならシルフィ以上の存在なんて居ないでしょう」
「だよね、だよねー。僕、さっそく行ってくるよ!」
ルゥナにおだてられたシルフィが、返事も聞かずに飛んでいった。あいつ、帰って来た時にどうやって俺達を探すつもりなんだ? まあ、その辺はその時になってからでいいか。
「シルフィが調べている間に、アキラの奴隷契約を解除しに行きましょう?」
「ああ、そう言えばそう言ってたな。でも、これが無いと言葉が分からなくなるんじゃないか?」
「別に、奴隷の首輪で翻訳する必要は無いわよ? ブレスレットタイプの魔道具もあるし、ピアスタイプやネックチョーカータイプもあるわ。好きなのを選べばいいと思うわよ。翻訳の魔道具は便利だから、大量に作られているから、魔道具屋に行けばどこでも売ってるわ」
「あー、その魔道具が日本にもあれば外国語の勉強なんて要らないのに」
「そんな便利な物でも無いわよ? 結局、魔法が勝手につけてる人物の知識に近いものに翻訳しているだけだから、人によっては解釈が違うという事もあるし。仮に何も言葉を知らない赤ん坊に付けた所で、ぺらぺらと話せるようになるわけでも無いから、ある程度の知識は必要なのよ」
「ああ、だからちょくちょく英語なんかに聞こえるのか・・・。異世界なのに、そんな言葉があるなんて変だとは思ってたんだよな」
ネット用語とか日本独自の造語とか、てっきり過去の日本人が広めたのかと思ったけど翻訳の効果だったのか。どおりでルゥナやクラウド隊長が変な言い回しを使っているわけだ。俺の知識で変換してるなら納得だ。
「教会はこっちね。けれど、先に魔道具屋に行くわよ。新しい翻訳機を買わないと。予算は結構あるわ、ヘルハウンドの奴ら、結構お金を持っていたのよね」
ヘルハウンドか・・・。まあ、あいつらは盗賊じゃ無いから金を持っていても不思議じゃないな。
「ああ、それと本物のアイテムボックスも持っていたらどうかしら? あいつらが使っていたものの中で、一番ランクが低いやつなら新人冒険者が持っていてもおかしくないでしょうし」
「そんなのがあるなら、先にくれればよかったのに。別にただの布袋をアイテムボックスに見せなくてよかったんじゃ」
「はぁ。そんな簡単にアイテムボックスの所有権を変更できるわけ無いじゃないの。ただのアイテムボックスならいいけれど、あいつらは仮にも貴族に仕えていたのだから、持ち主登録のある高価なやつよ?」
「持ち主登録ってなんだ?」
「アイテムボックスって基本的に誰でも使えるのよ。それこそ、沢山ものの入る布袋みたいな感覚ね。ただ、物によっては持ち主しか使えないようにできるアイテムボックスもあるの。重要な物を入れたり、勝手に他人に見られたら困るようなものを入れるのにね。本人の魔力を登録して、その魔力でしか開閉できなくなるのよ。無理やり開閉出来ない事も無いけど、壊れたら修理するのに莫大なお金がかかるわ。私は、それを再使用できるようにいじくっていたのよ」
「いつの間にそんな事をやっていたんだ?」
「―――えぇとっ、一番開けやすそうな奴を先にやっただけよ」
何か、微妙に返事までに間があったけど、突っ込まない方が良いか。




