ルゥナの冒険者登録終了
「依頼の詳しい話を聞く前に、冒険者ギルドへ行ってきていいかしら? このままだと、せっかく採取してきた薬草が萎れてしまうもの」
「ああ、すまない。俺も同行しよう。君達に直接指名依頼はできないが、口添えは出来る。それに、隊長の俺ならギルドマスターに話を通す事だって出来るからな」
「大事にしないで欲しいわね。それに、依頼を受けるのは私達だけなのかしら?」
「そうだね。実際、この街に高ランク冒険者なんてほとんど居ないし、居ても斥侯は尚更居ない。大抵、冒険者のパーティは4人くらいだろう? それも、戦う前衛職や後衛職でも魔法使いがほとんどで、回復薬やレンジャーみたいな中距離職は珍しい。なにせ、才能があっても斥侯役をやりたい奴が少ないんだ。っと、すまない。別に、君が変だと言っているわけじゃ無いよ」
「今、変だって言ったわよね。まあいいわ、私は実際に自分の得意分野を職にしただけだもの。それに、この見た目で前衛職なんて絶対に努めさせてもらえないでしょう?」
「そうだね。俺は君のスキルを見させてもらったから、君が前衛でも信用できるけれど、普通はパーティでも自分のスキルを秘密にすることは珍しくない。よほど信頼のおけるパーティか、一生同じパーティを組続けるつもりでない限りはね」
どうやら、基本的にパーティは一定期間で入れ替えられるのが普通のようだ。まあ、戦う場所によってパーティメンバーを変えるのはゲームとかじゃ普通だしな、こっちの世界でもそうなんだろう。確かに、広い場所で戦う時、森で戦う時、洞窟で戦う時と考えれば、必要な職も変わるか。
「なんだったら、俺の権限で君をすぐにCランクに上げてもいい。さっきも言ったけど、俺はギルドマスターと直接話せる身分だからな」
「やめてちょうだい。私は今、目立ちたくないの。だから、本当は依頼も受けたく無いんだけど?」
「分かった、分かった。何か理由があるってことだな。それなら、君たちが依頼を受けてくれたことも出来る限り内密にするよ」
「それでいいわ。そして、この件でのランクアップも無しでいいわ。すでに魔物は討伐してきたから」
「なら、報酬で報いることにするよ。もし、他にも受けさせてよさそうな人が居たら誘うかもしれないから。・・・それはそうと、君たちのパーティは2人だけかい? 斥侯が君ってこは、彼は前衛職かな? 見た所、剣は持っているみたいだけど・・・動きはお世辞にも良いとは言えないけど」
「俺は精霊魔法使いです。剣は、護身のために持っているだけです」
「斥侯に、後衛職? 採取は2人で向かって、他のメンバーは街に居るって事かな?」
「いえ、今は2人です」
そう答えると、クラウド隊長は驚いた顔をする。
「バ、バランス、悪くないかい? まあ、僕はルゥナさんが前衛でも戦えると分かっているけど、せめて盾役か戦士を入れるべきじゃないかな?」
「そうですね・・・。ですけど、俺達もまだ組んでそれほど経っていないんですよ。俺はこの世界に召喚されてからまだ数日しか経っていないので」
「なるほど、そう言う理由だったのか。それですぐに冒険者を選ぶという事は、なかなかできる人は少ないけれど。聞いた話だと、異世界人は戦うスキルを持つ者が極端に少ないらしいからね」
「まあ、平和な世界で過ごしてきたので、戦えるのはスポーツで鍛えている人達くらいでしょうか? それも、実戦経験何てまず持っていませんし」
「ふむ。本当は、平和が一番なんだろうけどね。この世界には、魔物がいるからどうしても戦える人が必要になるんだ。そうだ、それなら隊員の一人を君たちのパーティに入れようか?」
「いえ、要らないわ。それに、あくまでゴブリン喰らいの調査であって、討伐の依頼じゃないんでしょう? だったら、人数は少ない方がやりやすいわ。それに、アキラの精霊も調査向きよ」
「それなら、尚更前衛が居た方が・・・いや、君の邪魔にならない様な身のこなしが出来る隊員はほとんどいないか。分かった、それなら代わりにポーションを用意しよう。回復役の代わりになるだろう」
「ええ、それでお願いするわ」
話しているうちに、ギルドへと到着する。クラウド隊長は、依頼を出しに別の場所の受付へと向かった。俺達はシィルさんの居る受付へと向かう。顔見知りの方が俺も話しやすいし。
「クエスト、終わったわよ。はい、薬草30束」
「すごいですね、1日で集め終える新人ってほとんど居ないんですよ? 大抵、数日がかりですのに」
「たまたま群生地を見つけたのよ。その代わり、少しだけ森の奥の方へ入る必要があったけど。ああ、そう言えばそこでオークを討伐したわ。討伐証明のオークの右耳よ」
魔物の討伐証明は、その魔物に一つしかない部位の提出が必要らしい。獣系であれば尻尾、人型であれば右耳が基本らしい。ちなみに、その部位だけを狙って切り取り、生かしたまま逃がした場合、バレたら即冒険者証の剥奪だ。討伐部位の無い魔物なんて、誰も狩りたがらないから、不正は危険の放置になる。
「す、すごい・・・オークまで討伐したんですか? ちなみに、死体はどうされました?」
「私達が食べる分だけ切り取って、残りは置いてきたわ。私はもちろん、彼もオークを運べるほど力持ちでないもの」
「それなら、運び屋を雇いますか? オーク肉なら、キロ当たり大銅貨1枚で買い取りしています。街の近くの森なら、運び屋を銀貨1枚くらいで雇えますから、その個体が平均的な体重の個体なら儲かりますよ?」
「結構よ。どうせ今頃、動物か他の魔物のエサになっている可能性があるから、無駄足の可能性もあるわ。それより、これでEランクにランクアップしてもらえるのかしら?」
「あっ、はい。オークの討伐なら問題なくEランクにランクアップできます。大抵、新人冒険者は数人がかりでゴブリンを倒してくるのがほとんどですのに、ルゥナさん達は強いんですね」
「私達2人なら、問題無いわね」
実際には、ルゥナの一撃で葬っているんだからルゥナだけの手柄なのだが、そんな新人が居るわけ無いのでパーティの実力にするようだ。ちなみに、パーティという登録は無く、配分等は自分達でやる必要がある。ただ、何もしていないのに街で冒険者パーティと捕まえ、一緒に魔物を狩ったことにしてランクを上げようと考える新人も居るらしいが、当然そんなことをしてランクを上げた所で実力が無い以上、すぐに怪我をするなりして後悔する事になるらしい。特に罰則は無いが、低ランクの魔物すら狩れない様な冒険者に、罰を与える必要すら無いという事だろう。
「それでは、報酬は大銅貨3枚です。素材が新鮮で、傷などもありませんから、減額はありません」
減額無しで薬草30束が大銅貨3枚・・・3000円ってことは、1束100円か。これですら新人冒険者は数日かかるなら、日給1000円とかか? 飯代くらいにしかならんな。宿に泊まる事なんて不可能だろう。
「それと、オークの討伐報酬は大銅貨1枚です。オークは、肉の方に価値があり、討伐だけでは報酬が少ないのです。さらに、最近は家畜化も進んできていますので・・・」
「別にいいわよ。狙って狩ったわけじゃ無くて、たまたま採取中に遭遇しただけだから」
「分かりました! それでは、冒険者証のランプアップを行ってきますので、しばらくお待ちください」
これでルゥナの依頼は終了の様だ。