ルゥナの冒険者登録5
帰りは、来るときよりも慎重に警戒しながら帰る。敵がさっきの一体だけとは限らないからな。ルゥナの索敵、シルフィのよくわからん能力で調べた結果、普通の魔物は居るもののこちらを襲ってくる気配は無いらしい。俺はまったく気配とか読めないから分からんが。
「ふぅ、どうやらあの一体だけだったみたいだな」
「そうね。でも、森を抜けて視界が広がったからと言って、油断していいわけじゃ無いわよ? 私なら、そういう油断しているところを地面の下から急襲するわよ」
「僕なら、さっきみたいに地面から根で突き刺しますねー」
「お前らの基準で話されても、俺には分かるわけ無いだろ。あと、シルフィのあれはやっぱり木の根だったのか。魔法名とかあるのか?」
「分かんないですねー。人間が使っているのを見た事ないですしー。逆に、アキラが呼びやすいように呼べばいいと思いますよ? どうせ僕に詠唱なんて必要無いですし」
「そうか。うーん、根が突き刺す・・・根は英語でルートだったか? 刺すはスティングとかスタブとか。貫通ならピアシングか? 語呂が良さそうなのはピアシング・ルートかな」
「じゃあ、それでいいですよー。アキラがそう唱えたら、使ってあげるかもしれないということで」
「シルフィの気分で俺の魔法が発動するかどうか決まるっていうのがな・・・。まあ、結局俺の魔法では無いから仕方ないんだけど」
あくまでシルフィは俺に力を貸してくれているだけだ。出来るだけ自分の力でも物事を解決できるように、エーテルをさらに扱えるように練習する必要があるな。まあ、今はとりあえず安全にガーベラテトラの街まで戻ることが優先だな。
まあ、街から近い初心者冒険者もくる森なだけあって、何事も無く門まで帰る事が出来た。ただ、そこには門番とは違う、やけに豪華な鎧を着た男? いや、女? 鎧のせいで体のラインが分からない上に、顔が中性的でどっちか分からんな。普通に考えれば鎧を着て居る時点で男だと思うんだが。
俺達は門番に冒険者証を渡し、門番はそのカードを調べる。問題が無ければ、そのまま返却されるはずなんだが、何故か返却が遅い。いや、俺は初めてだから知らないだけで、普通はこんなもんなのか?
「何をしているのかしら。初めてこの街に入るのならともかく、ギルドのクエストで街を出ただけの私達の冒険者証を調べるだけなのに時間がかかりすぎだわ」
「あ、やっぱり遅いのか。てっきり、こんなもんなのかと思ってたわ」
「まさか、私の不正がバレ・・・いえ、あの新人職員がそれに気が付くはずが・・・」
ルゥナが何やら不穏な事を言っているが、よく聞き取れないな。まあ、待つしか無いんだろうから待つけど。今から街の外に逃げ出したら、それこそ何かあったかと思って追いかけられる事だろう。
「お待たせしました。あなた方に用があるという事で、クラウド様がお待ちです。こちらにお越しください」
冒険者証は帰って来たのだが、どうやらさっきの豪華な鎧を着た人物が俺達を呼んだようだ。名前からして、男であっていたみたいだな。
俺達は、門番の詰所の奥に通される。ある程度身分がいい人を待たせる場所なのか、思っていたよりも綺麗だ。てっきり、取調室みたいなところに連れていかれる可能性も考えていたんだが。
「やあ、初めまして。俺はクラウド。この街の護衛隊長を勤めている」
「初めまして。俺はアキラです」
・・・? あれ、ルゥナは? 辺りを見ても、ルゥナは見つからなかった。確か、一緒に建物の中に入ったと思ったんだが。
「君も自己紹介をお願いしていいかな? ルゥナさん」
クラウド隊長は、部屋の隅に声をかける。すると、そこに置いてあった壺の後ろからルゥナが出てくる。いつの間に隠れたんだ?
「私の隠形を見抜くなんて、さすが隊長様ですね。それに、自己紹介と言いながら、すでに私の冒険者証で確認済なのでしょう?」
「そう警戒しないでくれ。今日は、たまたま寄っただけなんだよ」
「たまたま門の近くに居るなんて、隊長様は暇なのでしょうか?」
やけにルゥナはクラウド隊長に棘のある言い方をするな。それにしても、ルゥナの隠形を見抜けるのは、Bランク冒険者でも難しいってルゥナが自慢していたから、クラウド隊長はBランク以上の実力を持っているのか? さすが隊長をやっているだけあるな。
「まあ、たまたまは嘘なんだけどね。ただ、警戒しないで欲しい。別に、今から事情聴取を始めるというわけじゃ無いんだ。そもそも、担当は俺じゃないし」
ルゥナは、取り合えず俺の肩に腰を下ろす。まあ、ルゥナの座れる様な椅子は普通、用意されていないからな。ルゥナは自前で椅子なんかの家具も持っているはずだが、出さないようだ。
「でも、全く関係ないというわけでは無い。ルゥナさん、君を街の護衛隊にスカウトしたいんだ」
「私を? 冒険者証を見たのなら分かるでしょう? 私は、今日登録したばかりのGランク冒険者よ」
「俺の権限で、スキルなどを見せてもらった。ルゥナさんは、どう見ても新人じゃない。けれど、過去にルゥナという名前で記録を抹消された、もしくは期限切れで降格したというものは無かった。まあ、俺は実力さえあれば過去の経歴には拘らないから、君が何者でも構わない。ただ、その力をこの街の為に使いたいんだ」
「お断りするわ。別に私、この街に思い入れがあるわけでは無いもの」
「そこを何とかお願いできないかな。護衛隊に斥侯役は少ないんだよ。荒事が多いイメージからか、戦闘職の人たちばかりが志願してくるんだよね。実際荒事も多いけど、調べたりする斥侯役も大事なんだ。そうだ、給料はBランク冒険者並に出そう」
「お金の問題じゃ無いわ。それに、おかしいじゃない? 私の事を冒険者証を調べて初めて分かったはずなのに、どうして私に目を付けたのかしら?」
「それは、君たちを事情聴取する者から少しだけ話を聞いていてね。なんでも、十数人の盗賊から逃げおおせたんだって?」
「事情聴取の担当は別人という話では? それに、魔物が現れて、盗賊たちが戦闘をしている間に逃げただけです」
「うんうん、それが事実ならね? 実は、俺は先に現場を見てきたんだ。この街の近くにキラーディアが現れることなんてそうそう無いからね。それに、例えキラーディアだとしても、十数人の盗賊を一人も逃がさず倒すなんて不可能だ」
「それは、キラーディアだけではなくゴブリン達も現れたからよ。現場にゴブリンアーチャーの矢があったでしょう?」
「そうだね。だけど、現場が綺麗すぎるんだ。いや、キラーディアの足跡やゴブリンの足跡も発見したよ? それに、キラーディアの角に腹を貫かれた盗賊らしき死体も確認した。そして、死体を持ち帰ったと思われる引きずった後なんかもね。ただ、俺にはそれがどうみても犯人はキラーディアとゴブリンにしてくださいって言ってるようにしか見えないんだよ」
「実際そうなのだから、合っているでしょう?」
「そうだね。普段であれば恐らくその通り、犯人はキラーディアとゴブリン達で決まりだっただろうね。ただ、今はゴブリンはこの街の近くにはいない。なぜなら、ゴブリン喰らいが居るからね」
「ゴブリン喰らい・・・? 初めて聞く名前だけれど、それが居たらゴブリンは本当に居なくなると?」
「まあ、正式な名前じゃ無いからね。ただ、こいつが居るとゴブリンが全くいなくなることは分かっている。本題に入ろう。護衛隊に誘ったのは、このゴブリン喰らいの正体を調べたいからなんだ。今まで、ゴブリンが居なくなる事は分かっていたけれど、ゴブリン喰らいを見つける事が出来ていないんだ。その協力をお願いしたいんだ」
結局、ルゥナを誘ったのはシーフの能力をあてにしたいって事でいいのか? それとも、俺達の何かを疑っている? 野盗だということは、モンドさんやトマスさん達が証言しているから、仮に俺達がそれを全滅させたとしても罪になる事は無い。それどころか、討伐褒賞とやらが出る可能性すらある。
「・・・そのゴブリン喰らいを見つけるだけでいいのかしら?」
「おぉ、やってくれるのかい?」
「やると返事するまで解放してくれなさそうですし、報酬もはずんでくれるんでしょう?」
「それは、君の働き次第だね。まあ、普通にクエストをこなすよりも良い報酬は払うと約束しよう」
良く分からないうちに、ゴブリン喰らいとやらを見つける依頼を受けることになったようだ。




