ルゥナの冒険者登録2
とりあえず、門番に冒険者証を提示しても特に引き留められる事は無かった。それなら、採取クエストを普通にやろう。
「ところでアキラ。あなたの奴隷契約を解除しなくてもよかったの?」
「金が無いからな。それに、金があれば先にモンドさんにお詫びとして金を支払いたい」
「モンドは受け取らないって言っていたじゃない。それに、今なら私のストレージで金策できるよ?」
「んー、でもいいのか? そんなことしたら目立つんじゃないのか?」
「昨日までなら目立つようなものくらいしか売り物がなかったけど、今なら普通にお金があるよ。ヘルハウンドの奴らの持ち金すべて没収してあるから」
「ああ、それについても聞きたかったんだ。結局、どういう結末になったんだ?」
「生かして返すという事は、当然無いわ。そんな事すれば、次々と新しい刺客が送り込まれてくるのは確実だもん。一応、私の居場所が分かる魔道具は頂いたから、今のところ新たな刺客の心配はしなくていいと思うけど」
「まあ、殺したんだろうなとは思ったけど、死体は一人分だけだっただろ? 本当に魔物が襲ってきたのか?」
「ううん、死体は私のストレージに入れてるだけ。適当なところで処分するわ。あいつらの痕跡が残りそうな装備以外は売っても大丈夫だから、ある程度のお金は手に入る予定」
「なるほどな。それなら、俺の奴隷契約を解除してほしい。いくら奴隷商人に会う確率が低いとはいえ、ずっと奴隷状態というのも気分は良くないし」
「分かったわ、それじゃあ街に戻ったらさっそく教会に行きましょうか。今回は、あなたの奴隷解除だから、誰かが調べるという事も無いと思うし」
そう言う話をしながら歩いていたら、あっという間に森についた。
「それで、薬草ってどんなやつだ? 俺、結局そのクエストやったことないんだよね。ギルドにあった冊子には、手書きのイラストだけだったからいまいちわからん」
「この世界の人間なら誰でもわかるくらい有名なものだけど、異世界人のアキラは見た事ないのも仕方ないよ。ただ、こんな森に近いところの薬草は、すでに取りつくされていると思うから少し奥に行く必要があると思う」
「それなら、僕に任せてもらえますかー? 僕は森の精霊、薬草を発見するなんて楽勝楽勝なんですよー」
「へぇ、薬草の場所も分かるのか。Gランクは確か、薬草の納品が3回だっただろ? それって、どれくらい要るんだ?」
「1回の納品につき10束ね。つまり、30束あれば一回で終わるよ。普通なら、それなりに時間がかかるから、1日で10束は初心者には結構難しいんだよ? 採取方法を間違えて帰るまでに萎びさせて品質を落とす事なんてしょっちゅうだし。ま、ストレージ持ちの私には全く関係のない話だね」
「本当に便利だな、ストレージ」
ルゥナのストレージには、中に入っている物の劣化を軽減する能力もあるらしい。つまり、料理なんかも入れておける。さらに、本人の許可があれば生物も入れられる。試しに入ってみたが、ドラゴンボールの精神と時の部屋みたいに真っ白で、何も無い空間だった。入れた物が混ざらないように、個別の空間に送られるようだ。空気や明るさはあるが、本当に何も無い空間なので、精神の方がおかしくなりそうだ。寝るのにはちょうどよさそうだけど、万が一ルゥナが死亡した場合は出られなくなる模様。
「薬草が生えているのはこっちですよー」
シルフィは、すぐに薬草の場所を調べたようだ。薬草は、思ったよりも近くにあった。ただ、大きめの木の近くとか見つかりづらい場所に生えていたり、他の草の中に混じっていて見つけづらかったりするものばかりで、新人には見つけられないだろう。
あれ? もしかしたら、シルフィの力があればこれだけで生活できるんじゃないか? と思ったけど、シルフィはルゥナと仲がいいから協力してるだけで、俺にはむしろ恨みに近い形でついてきているだけだから、協力してくれるわけが無いか。
「ありがと、シルフィ。おかげであっという間に見つかったよ。私も、それなりに得意な方だと思ってたけど、やっぱり精霊の力は格段に違うね」
「そうでしょ? 僕はすごい精霊なんですよー」
シルフィは分かりやすくドヤッてるな。
「じゃあじゃあ、ついでなのでもっと珍しい草の場所も教えますねー」
シルフィは、ルゥナの言葉に気分が良くなったらしく、次の場所へと案内してくれる。すでにルゥナの薬草クエスト分の採取は終わったのだが、珍しい薬草とかなら持ってて不都合は無いだろう。
ただ、珍しいものはそれなりに森の奥にあるようで、思ったよりも森の奥へと入っていく。途中、ゴブリンやオークなんかが出てきたが、ルゥナに瞬殺されていたので戦闘場面は割愛する。オークの肉は売れるらしいので、ストレージ行きで、ゴブリンは右耳の討伐部位以外は要らないので捨ててある。きっと他の魔物や動物のエサになるだろう。これでルゥナも一気に俺と同じEランクになりそうだな。まあ、冒険者はDランクまでほぼ横並びみたいなものらしいから、護衛依頼を達成するまでは新人みたいなものだろう。
シルフィの案内の元、奥に進むと、ものすごく見つかりづらい、木の根元に少しだけ光る草が生えていた。
「へぇ、光る草か。ひかりそうか?」
光り草・・・ひかりそうというギャグを言ってみた。
「ば、馬鹿アキラ。これ、霊草よ! まさか、こんな街の近くで見られるなんて・・・。これ、錬金術師や薬師が喉から手が出るほど欲しがる珍しい薬草なのよ。錬金に使えばどんな怪我をも治すエリクサーの素材に。薬に使えばどんな病気も治す万能薬の素材になるわ。品質が最低でも金貨10枚、私がストレージに保管して劣化を防げば白金貨5枚でも売れるわよ!」
「は、白金貨5枚だって?!」
日本円にして5千万円。俺にとってはものすごい大金に思えるが、どんな怪我も病気も治せる割りには安く感じる。エリクサーも万能薬も、あくまで霊草は素材の一部であって、他の素材も必要らしいから、そんなものなのか? なお、新鮮さが重要らしく、時間が経つほど霊草に含まれる魔力が減ってしまい、最終的には多少魔力が含まれた薬草程度に落ちるらしい。それでも、ハイポーションくらいの素材になるみたいだが。
「ふふん、どうですかー? 僕のすごさが理解できましたかー?」
シルフィが、うざったく俺の周りを飛ぶ。素直に褒めるのがいいのか、調子に乗るなと叱るのが良いのか。そう悩んでいたら、ルゥナが目を$に変えてシルフィに詰め寄る。
「ねぇ、シルフィ。この草、もっとないの?」
近距離に詰め寄られたシルフィは、さすがに少しひるんだが、素直に答える。
「このあたりにはもう無いですよー? たまたま、ここに魔力だまりがあっただけみたいですし」
「そう。残念―――何か来る!」
ルゥナが一瞬で表情を変え、武器を抜く。職業上、気配察知が得意なはずのルゥナがこんな近くまで敵の接近に気が付かなかったのはこれが初めてだ。ゴブリンやオークは、敵が気づく前にルゥナが死角から一撃で殺していたからな。
森の奥から、2メートルはある人型の化物が見えた。そいつの両手は刃になっていて、日常生活に困りそうだな。ただ、巨体のわりに恐ろしく静かに近づいてくる。こうして相対したのに、幽霊のようにゆっくりと近づいてくる。不気味なやつだ。