護衛依頼7
俺は森を抜けて街道へ出た。確か、モンドさんは左の方へ行ったはずだ。その方向にガーベラテトラの街があるはず。そして、もうすぐ着くと言っていた事から、そう遠くない場所にあると予想できる。
「待ってろ、ルゥナ。今、誰か連れて来てやる!」
パワードスーツで走行の補助を行う。恐らく、オリンピック選手並みのスピードが出ているはずだ。慣れたらもっとスピードを上げることが出来ると思うが、今はこれ以上早く走るとこけそうなので、今の限界いっぱいで走る。すると、すぐに城壁が見えてきた。どうやら、ガーベラテトラの街は思っていたよりも大きな街らしい。これなら、衛兵や冒険者も多そうで、力になってくれる人がきっといるはず。
しかし、街へ向かう前に、馬車がこちらの方へ向かってくるのが見えた。さらに、その後ろには武装した人間が十人ほど居る。ただ、その馬車には見覚えがあった。モンドさんの馬車だ。少し走るスピードを落とし、馬車へと向かう。
「アキラくん、無事だったんですね!」
御者をしているモンドさんが、俺を見つけると馬車のスピードを落とす。馬車のスピードが落ち切る前に、トマスさんが荷台から飛び降りてきた。
「アキラくん! 良かった。あの時は見捨てて済まない。今は、モンドさんの好意で新たに護衛を雇い、君を助けに向かう途中だったんだ」
とすると、後ろの武装した人たちはモンドさんが雇った冒険者なのだろう。ランクまでは見た目で分からないが、これだけの人数を揃えるだけでも結構なお金がかかっているだろう。それも、戦闘がほぼ確定する俺の救出という目的があるため、恐らく普通の護衛依頼よりも割高かもしれない。そもそも、盗賊の討伐依頼とかで集めたのかもしれないが、どちらにしろ初めて会った、それもまだ駆け出しの冒険者である俺を救うのにかけるべき金額では無いだろう。
「俺の救出の為に・・・ありがとうございます」
馬車が止まり、リーンさんやジョズさん、アリスさんも馬車から降りてくる。
「さすがに、あの場所での戦闘は犬死になる予感しかしなかったから戦えなかったが、今なら勝てるぜ・・・と言っても、逃げて来れたのか? 盗賊たちはどこにいるんだ?」
ジョズさんが辺りを見渡すが、当然見える範囲にはいない。
「あいつらは・・・いや、魔物が出たんです! 俺は、その隙を突いて逃げることが出来ましたが、ルゥナがまだ残っているんです!」
「ルゥナ? もしかして、それがあいつらが言っていた小人の名前かい?」
「はい。理由があって、紹介できていなくて済みません。けど、見捨てたく無いんです。お願いします、ルゥナを助ける手伝いをしてもらえませんか?」
会ってまだ数日な上に、どちらかというとやっかい事を引き連れてくるルゥナであるが、俺には見捨てるという選択肢は無かった。ルゥナに逃がしてもらった恩もあるし、彼女は俺が助けを連れて来てくれると信じて残ったはずだ。イジメられていた俺には分かる、誰かが助けてくれるという事のうれしさを。そして、その希望があるという事がどれほど気持ちの上で助けになるかという事を。
「モンドさん、予定は変わりますが・・・」
「はい、分かっています。さあ、臨時護衛を受けていただいた方々! 目的が少し変わりました! ピンチの女性を助ける為に、ここにいる方々に討伐依頼を出したいと思います! 当然、報酬は上乗せします。どうですか!」
モンドさんは、冒険者に提案をする。恐らく、俺が無事だった時点で彼らの本来の依頼は終わってしまうのだろう。けれど、彼らも何もしないまま報酬を受け取るような、厚かましさは無かったようで、「受ける!」「やるぜ!」という声が全員から聞こえてきた。
「あ、ありがとうございます! 場所は、分かれたあの場所の森の中です!」
「よし、乗れるだけ荷台に乗れ! 少しでも早く到着するんだ!」
さすがに全員は乗れないが、御者の場所まで詰めて乗れば10人は乗れる。数人は乗れないので、軽装の冒険者・・・斥候などを得意とするレンジャーやシーフ達は頑張って走るみたいだ。当然、俺も走る方だ。トマスさんには、馬車に乗る方を進められたが、恐らく走ってもそんなに変わらないはずだ。それなら、一人でも多く戦力になる人を乗せた方がいい。
「こっちです!」
俺はパワードスーツの力を使って早く走る。その速度に、モンドさん達は驚いていたが、いまは少しでも早くつける方が優先の為、俺に続いて馬車を走らせる。
あれから30分は経っていないと思うが、戦闘時間の30分は長い。柔道の授業なんかでやるような、5分程度の乱取りですらつかれるのに、本気の戦闘を30分も続けるなんて、どれだけ疲弊するか分からない。
「ルゥナ! 居るか!」
俺はあえて場所をばらすように叫ぶ。こうすれば、残っているヘルハウンドの気を引けるし、ルゥナも逃げやすくなるだろう。ルゥナの元に残したシルフィはどうしてるかな? まあ、ツリーバインドだけで活躍できるとは思えないが、攻撃も受けることが無いはずだから無事だと思うが。
そう思っていたら、シルフィが現れる。
「おぉっ、アキラじゃないですか。早かったですねー。ルゥナならこっちですよ」
シルフィの姿は俺にしか視えないので、俺が先頭で進もうとしたが、ジョズさんが引き留める。
「ここは、俺達が先頭に立つ。アキラは、後方で待機していてくれ」
「いえ、森の中で場所が分かるのは俺だけです。それに、俺は戦えませんが、逃げ足には自信がありますので何かあったらすぐに逃げるので大丈夫です」
俺の足の早さを見たからか、ジョズさんが「ふっ」と笑うと、盾を構える。
「じゃあ、案内を頼む。アリス、リーン。一応、アキラに矢とか魔法とか飛んでこないか見ていてくれ」
「分かったわ、いつでも防御魔法を使えるようにしとく」
「怪我をしても、すぐに治しますね」
「俺達も、いくぞ!」
雇われ冒険者達も、斥侯役を先頭にして森の中に入っていく。俺は、シルフィの案内を見ながら森の奥へと進む。俺が逃げた場所は、それほど遠くないからすぐに着くはずだったんだが、すでに戦闘場所は動いていたようだ。ここからは俺も初見だが、シルフィの案内があるので大丈夫だろう。
しばらく進むと、ヘルハウンドのメンバーの一人と思われる男が、木にもたれかかって座り込んでいた。ピクリとも動かないところを見ると、死んでいるのだろうか? 俺は足をとめたが、ジョズさんは警戒しながらもその男に近づく。
「・・・死んでいる様だな。腹に穴が開いていやがる。これは、キラーディアの角に突き刺された跡か?」
俺には傷口を凝視するような精神力はまだ備わっていないから、遠目に様子を見る。確かに、腹部から血を流している様だが、ずっと見ていると気持ち悪くなりそうだ。
「アキラ。ありがとう、助けを連れて来てくれて。幸い、あいつらは逃げたわ。魔物が複数現れたの。そこの男は、運悪くキラーディアの突進を受けて死んだわ」
ルゥナは、みんなに聞こえるように大声でそう言った。
「その子がアキラくんの言ってたパーティメンバーかな? 良かった、無事だったんだね」
「はい。助けに来てくれて、ありがとうございます」
「よし、それじゃあ街へ帰還だ! 悪いな、結局戦う事は無かったようだ」
「いや、救助者が無事でよかったよ」
雇われ冒険者達も、口々で「よかった」「無事だったか」と言っている。
「一応、警戒しながら街道へ戻るぞ」
街道へ戻る間に、シルフィから何があったか聞くことが出来た。




