護衛依頼6
街道はそれなりに人通りもあり、特に問題なく3日目を迎えた。天候が良かったおかげか、もうすぐでガーベラテトラの街へ着くようだ。心配していた野営も、問題なくこなせた。ただ、食事だけは味の薄い栄養重視のスープと、保存優先の硬い黒パンだったのが残念だ。トマスさん達もDランクパーティと言う事で、そこまで慣れているというわけでは無かったのか、野草の採取や小動物の狩りなどは積極的に行わなかったのだ。初日にちょっとだけやったのが最後であった。
「もうすぐ街ですし、飼葉も減ったので全員乗ってもよろしいですよ」
「やったぜ、さすがに盾で歩き続けるのはきつかったからな」
依頼人のモンドさんがそう言ってくれたので、さっそくジョズさんが盾を荷台に乗せる。そして、さあ荷台に乗ろうとしたとき、後ろから馬の走る音が聞こえた。後ろをみると、砂煙を上げて十数頭の馬が見えた。
「なんだ? あんなに慌てて」
「このままだと、ぶつかりそうですね。少し横にそれて止まります」
モンドさんは、念のために馬車を道の端に寄せて道をあける。馬車が完全に止まる前に、後ろから男の大声が響いた。
「そこの馬車、止まれ!」
男達は、そのまま俺達の周りを囲み始めた。男達は武装している上に、顔がいかつくて怖い。世紀末に居そうなヒャッハーな見た目だ。
「なっ、盗賊か?」
トマスさん達は武器を抜いて構えるが、人数差が3倍ほどあるから多勢に無勢だろう。
「と、盗賊さん方。暗黙のルールの適応をお願いします!」
モンドさんが、盗賊の頭っぽい人にそう叫ぶ。暗黙のルールとは、護衛の冒険者を戦わせない代わりに荷物の3割を盗賊に渡し、命を助けてもらうというものだ。盗賊は無傷で商品が手に入り、商人は命が助かるというわけだ。護衛の冒険者が命がけで抵抗した場合、盗賊側にも被害が出るため、大抵は暗黙のルールに了承してもらえるという話だった。これは、今回の様に相手が多く、依頼主が護衛の冒険者だけでは勝てないと判断した時に行われる。
「確かにこの馬車か?」
「へぃ、リーダー。魔道具はこの馬車を示しておりやす」
子分っぽいやつが持っている犬のような人形が魔道具らしい。その魔道具を使ってこの馬車を追いかけてきたようだ。
「おい、この馬車にマーダーパペットが居るだろう? そいつを出せばお前らに手を出さねぇよ」
「マーダーパペット?」
俺は何のことか分からなかったが、モンドさんもトマスさん達も思い当たるものが無いようだ。
「リーダー、それじゃ伝わりませんって。お前ら、女の小人族を匿っているだろ? この魔道具が反応しているから、隠しても無駄だぞ。今から調べるから、動くなよ」
そう言って子分が馬車に魔道具を近づける。女の小人族と聞いて俺はルゥナの事だとピンときた。実際、あの犬の魔道具は俺の荷物袋の方に反応しているみたいだし。これが、ルゥナの言っていた追っ手なのか?
子分は、俺の荷物袋の口が開かないようにぎゅっと握りしめると、リーダーと呼んだ男の方へと向かう。
「じゃあ、お前らは行っていいぞ。ただし、そこの黒髪の小僧。貴様は残れ」
「え、俺ですか?」
「そうだ。そいつ以外は行っていいぞ」
目的はどうやら俺とルゥナらしい。どうやら、ルゥナの奴隷契約を解除したのがバレてしまったようだ。そして、モンドさんはこれ幸いにと御者台に慌てて座る。
「すいません、アキラさん。契約はここまでという事で」
「すまない、アキラ君・・・。依頼内容はモンドさんの護衛だ。可哀そうだが、依頼主を危険にさらすわけにはいかないんだ」
トマスさんは、苦々しい表情でそう言った。実際、ここで俺の為に命を懸けるような親密な関係でも無いし、依頼者に何かあれば依頼失敗となってパーティの信頼も落ちるだろう。
「・・・分かりました、行ってください」
「ごめんなさい、アキラさん・・・」
「すまねぇ、アキラ」
「アキラ・・・ごめんね」
アリスさん、ジョゼさん、リーンさんも俺に謝りながら馬車の荷台へと乗る。そして、すぐに馬車は街の方へと走り出した。
「小僧、ここじゃ目立つ。そこの森の中へ入れ」
俺は無言で男たちに囲まれたまま森の中へと足を踏み入れる。ちなみに、シルフィは男たちに文句を言いまくっているが、俺以外には聞こえていないから無駄だろう。ただ、勝手に攻撃しないだけマシか?
「数日前に、マーダーパペットの奴隷契約が解除されたって聞かされてなぁ。調べたら、その日に教会で解呪を依頼したのが一人だけ。黒髪の子供だって言ってたなぁ」
これで俺がルゥナの奴隷契約を解除したことがバレていたことが確定した。俺は、どうなるんだ? このまま殺されるのか?
「ぎゃっ!」
そう思っていたら、後ろの方で子分の一人が叫ぶのが聞こえた。振り向くと、一人倒れている。
「くそっ、すでに袋から出ていやがったか!」
「ぐふっ」
二人目の子分が倒れる。俺には分からないが、ルゥナがやっているのだろうか。
「やっぱり、あんたたちが来たのね。貴族の犬」
「俺達は犬じゃねぇ! ヘルハウンドだ!」
犬じゃんって突っ込みそうになったが、黙っている。突っ込みに命をかけたくなんてないからな。そして、ルゥナが俺の肩の上に立つ。
「マーダーパペット。お前は確かに俺達より強いかもしれねぇが、俺達が無策で来たと思うなよ」
リーダーがそう言うと、子分がアイテムボックスから小さな笛を取り出した。
「眠り笛・・・。まさか、そんな貴重な物を持っているなんて」
「それだけ、お前を逃がすわけにはいかねぇって事だ! 吹け!」
リーダーが指示すると、子分が笛を吹き始める。ゆったりとしたメロディーであるが、どうという事は無い。しかし、ルゥナは両耳を一生懸命塞いでいる。
「耳を塞いだ程度で防げるわけ無いだろう?」
実際、俺の肩に乗っていたルゥナは、急にふらふらしだすと、俺の肩から落ちた。
「ルゥナ!」
「この笛は、小人族にしか効かねぇが、効果は確かなようだな。おい、マーダーパペットを捕まえろ」
「へぃ。小僧はどうします?」
「当然、なぶり殺しだ。貴族様の物を盗ったら死刑なんだよ」
「なっ・・・」
俺はなぶり殺しと言われても、体が動かなかった。不良達にイジメられていた事で、強そうに見える相手に体が萎縮する癖がついてしまっていたのだ。
「とりあえず、倒れとけ」
ガキンッと金属がぶつかる音と共に、俺の右足が蹴り抜かれて、俺はバランスを崩して尻もちをつく。音からして、靴に鉄板でも仕込んでいるのか?
「ちっ、生意気にも鉄板でも仕込んでやがるのか? えぇ、おい!」
ガキンッという音がして、今度は俺の頭が蹴り上げられた。
「ん? なんだ? 何かの魔法か? 魔道具か? リーダー、こいつ、何かおかしいですぜ」
「あん? とりあえず、蹴り続けろ」
他の子分たちも集まり、俺を周りから蹴ってくる。ガキンッガキンッとうるさいが、俺にダメージは無い。全身を覆っているエーテルが完全に防御してくれている。
「リーダー、ダメです。攻撃が効きやせん」
「仕方ねぇ、川にでも沈めろ」
「や、やめ・・・」
恐怖で声が出ない。俺は呼吸の為に、エーテルの一部に小さな穴をいくつも開けている。だから、川に沈められたら完全に窒息死してしまう。その時、静かに見守っていたシルフィが俺に話しかけて来た。
「ねぇアキラぁ。どうして反撃しないんですかー?」
「か、勝てるわけないだろ」
「どう見てもこいつら、キラーディアより弱いですよー?」
そう言われれば、確かにこいつらの蹴りの威力は大したことが無い。キラーディアの体当たりは俺を吹っ飛ばすほどの威力があったのに、いくらこいつらに蹴られてもまったく痛くない。
俺は一人の子分の足を掴み、エーテルのパワードスーツの力で握りつぶす。
「ぎゃああ!」
ボギッという音がして、子分の足首が折れたようだ。
「てめぇ、俺達に逆らうのか? マーダーパペットに勝てないとはいうが、俺達は素行の悪さでCランクに上がれないだけで、実力はCランクの冒険者並なんだぞ!」
どうやら、こいつらは盗賊じゃ無くて冒険者くずれだったようだ。だが、俺には関係ない。ここでやらなきゃ俺が殺されるんだ。
俺は、倒れているルゥナを掴むと、森の奥へと走る。
「あっ、逃げやがった! 追いかけろ!」
男達は俺を追ってくる。逃げたように見せかけて、これはゴブリンの時にもやったブービートラップ作戦だ。木と木の間に、細く伸ばしたエーテルを仕掛ける。先頭の男達は、盛大にこけた。まあ、視えないんだから気を付けようもないよね。
「シルフィ、ツリーバインドでこけた奴らを拘束してくれ!」
「はいはーい、えいっ」
こけて動きがとまった奴らなら、シルフィの遅いツリーバインドでも拘束できる。
「・・・後は、私がやるわ。アキラはガーベラテトラの街へ向かって。そこで、森に魔物が出たって伝えて欲しいの」
「わ、わかった! 本当に大丈夫なのか?」
「えぇ。もう、油断なんてしてあげないから」
ルゥナはそう言うと、一瞬で子分から笛を奪う。それをストレージに仕舞うまでは見えたが、その後はどこへ行ったか分からない。俺は、方向転換してガーベラテトラの街へ向かう事にした。




