護衛依頼5
次の日の朝、予定通りに宿を早く出て門の所へ行った。今日はシークは居ないみたいだ。いや、単純に俺が入ってきた門と反対側の門だからかもしれない。俺は新人らしく、30分前には到着していた。
「アキラ、早いな。依頼人が来るまでもう少し時間はある。忘れ物とかないよな?」
20分ほどして、トマスさん達も到着した。どうやら、ギリギリに来るようだったらさっそくお小言があったらしいが、俺は問題なく早めについていたので褒められた。慣れたら、集合時間の5分ほど前でいいらしい。
「大丈夫です。荷物は少ないので」
今回は、ルゥナのストレージを当てにする事は出来ないので、本当に最低限の物だけを出してもらう事になる。ポンポンと布袋を叩いて、これがアイテムボックスであるかの様に振る舞う。
「それならいいが、途中で足りないものに気が付いてもどうしようもないからな。最悪、商人から買う事は出来るが、信用は落ちるし値段は足元を見られるしでろくなことが無いぞ」
「がははっ、そりゃあ俺達の駆け出しの頃やっちまったやつじゃねぇか」
「ちょっ、黙ってろよジョズ。せっかく先輩らしく教えているのに」
「ふふふっ、あの時は焦りましたねぇ。まさか、トマスが買ってあるはずの物が無かったんですもの」
「アリスもか・・・。仕方ねぇだろ、袋に穴が開いていたんだから」
「きちんと出発前に確認しないからですよ」
ちゃかしながらも、俺に必要な事を教えてくれるトマスさん達は本当にいい人たちだな。4人は同じ村の出身で、子供の頃からの知り合いらしい。よくあるパーティ内の恋愛でのいざこざは無いようだ。
「お、依頼人が来られたぞ」
しばらくして馬車が一台、門を出てくる。その馬車に今回の依頼人の商人が居るらしい。というか、御者をしているからすでに見えているが。少し恰幅のいい商人なので、儲かっているのかな? ちなみに、直接の護衛依頼を受けていない俺は、事前に商人と顔合わせをする必要が無いと言われていたのでこれが初対面である。
「おはようございます、モンドさん。こっちが、今回帯同者となるEランクのアキラくんです」
「ア、アキラです。きっ、今日は、よろしくお願いします」
俺は人見知りを発動したが、何とか言い切ることが出来たと思う。
「ほっほっほっ、こちらこそよろしくお願いします。依頼内容についてはきいておりますかな?」
「はい、トマスさん達から聞いています」
「わかりました。それならば、さっそく出発しましょう。日の明るいうちに進めるだけ進んでおきたいのですよ」
俺達は、さっそく荷台の方へ回る。荷台には商品が山積みされているが、一部に馬のエサとなる藁が置いてある。貴重品類はモンドさん自身のアイテムボックスに入れているらしいので、荷台にあるのは嵩張るか、高価でないものなのだろう。
「馬がこの飼葉を食べれば、もう少し場所が取れるんだがな」
「まあ、まだ疲れてないから重い物だけでも置けるだけましだろ」
「そうだよ、最初から歩くよりはぜんぜんましだって」
俺は満員のバスに乗るように、端の方で立つ事にした。やっぱり、先輩を優先しないとな。
「あら、アキラさん。座っていた方が良いですよ? いくらまだ街道が平らとはいえ、少し行けばすぐにでこぼこになりますから。立っていると、揺れた時に危ないですよ?」
アリスさんが優しくアドバイスしてくれた。その上、自分の横に座るようにポンポンと藁を叩いている。
「そ、それじゃあ、失礼します・・・」
「おっと、アリスの横が予約されたな。 トマス、泣くなよ?」
「ちょっ、俺は横を取られたくらいで泣くわけ無いだろ!」
「じゃあ、あたしはジョズの横に座るわ。よしかかるのに丁度いいのよねー」
「俺は壁じゃねぇんだぞ。鎧に頭をぶつけても知らんからな」
見た感じ、トマスさんはアリスさんの事が好きで、リーンさんはジョズさんが好きなのかな? まあ、単なるじゃれ合いなのかもしれないけど、少し気になるところだ。
街道がでこぼこし始めたあたりで、俺達は荷台から降りて歩く。1日30キロはきつそうだと思ったが、すでに10キロほどは荷台で移動を終えているし、馬の休憩も兼ねてそこそも休みもあった。
「アキラくん、どうだ? 歩けそうか?」
「はい。なんとか大丈夫です」
「まあ、うちで一番歩くのが大変なのは、重装備のジョズだからな。そのジョズよりも遅かったら、鍛え直しだ」
「ふん、新人に負けるような体力はしとらんぞ」
俺は、実はエーテルを体の補助として動かしているので、実はほとんど疲れない。むしろ、ジョズさんに合わせるために遅くしているくらいだ。それを言うとプライドを傷つけそうなので、俺が一番遅い様に、つらそうな演技をしておく。
辺りが暗くなりはじめたあたりで、モンドさんがトマスさんに声をかける。
「そろそろ、暗くなりそうです。野営の準備をしましょうか」
「分かりました。じゃあ、俺達は薪を探してきます」
街道の近くには森がある。モンドさんの護衛としてリーンさんとアリスさんを残して、ジョズさんとトマスさんは森で薪を探しに行くようだ。どっちを参考にすればいいのか、リーンさんい聞いてみるか。
「俺は、どっちを見たらいいですか?」
「そうねぇ、重要なのはどちらかと言ったら薪拾いの方かしら。拾う木はどれでもいいわけじゃ無いし、もしかしたら小動物を狩れるかもしれないし。こっちはこっちで、あたしは使った水の補充をするだけだし、アリスも料理の準備くらいだしね。テントは今、先に建てちゃうから」
「分かりました。俺もテント張りを手伝います」
トマスさん達のテントは、4人まで入れる大きさのテントらしい。実際は、野営の交代があるので3人分あれば十分だが、それだと窮屈だから多少はゆとりがあるようだ。モンドさんは一人用のテントを自分で用意するようで、そちらは手伝う必要が無い。そして今回、俺はまだテントを持っていない事になっている。それをトマスさん達に話す。
「まさか、テントが買えなかったなんてな」
「すみません、街でカツアゲに遭いまして・・・。俺はその辺で寝ますから大丈夫です」
「そりゃあ、災難だったな。だったら、今回だけは俺達のテントを一緒に使っていいぞ? 本来は自分で用意するのが当たり前だが、アキラなら信用できる。だが、アリスとリーンに手を出すなよ?」
「あ、当たり前じゃないですか! それに、アリスさんもリーンさんもお二人の事が好きですよね?」
「はははっ、リーンはジョズの事が好きだからな。アリスは・・・俺のことが好きだったらいいな・・・」
「トマス、きっとアリスはお前のことが好きだって。じゃないと、一緒に旅なんてしないだろう?」
「そうかなぁ・・・」
どうやら、アリスさんはまだトマスさんに告白していないようだ。俺が見た感じ、アリスさんはトマスさんの事を結構気にしている様に見えるんだけど。
そして、トマスさん達のテントに一緒に泊まらせてもらえる事になった。女性と一緒に寝るなんて母親以外は初めてだが、冒険者としてはパーティで寝る事は普通の事みたいなので、特に俺のことは意識されて無いようだ。まあ、当然か。ただ、信用されていなかった場合は寝袋を渡されて外で寝させられていた模様。それに、俺の見た目が他の人たちよりも子供に見える事も理由になっているようだ。
「大丈夫? ルゥナ」
「大丈夫よ。ただ、もう少し私の休憩の頻度を上げて欲しいわ。いくら耐え忍ぶのに慣れているとはいえ、好きで耐える訳じゃ無いもの」
「分かったよ」
ルゥナをみんなに見つからないように休ませるのは結構気を使う。さすがのルゥナも飲まず食わずでずっと居るわけにはいかないし、トイレだって必要だ。普通の人よりも我慢できるらしいが、我慢はあくまで我慢なのだ。やらなくていいならしたく無いに決まっている。これは、俺が新人らしく休憩をせがむしかないな。ただ、行程を遅らせるわけにはいかないからほどほどに、だけど。




