護衛依頼4
結局買い出しの必要無くなったので、ルゥナから旅に必要な知識をある程度教えてもらう事が出来た。まず、この世界の距離についてだが、大人が1歩大股で歩く距離を1メートルと呼ぶそうだ。人によって違うような気がするが、あくまで目安みたいだ。そもそも、地図自体が測量とかしてないのでアバウトだしな。そして、1000歩分が1キロメートル。時間も24時間だし、1時間は60分だ。一週間は7日間だし1年間は365日である。この辺は、絶対に地球人が広めたと思われる。この星の1日の自転速度とか、恒星の公転周期とかがたまたま一緒だったのか?
「それじゃあ、そろそろ向こうのパーティの宿に行くか」
「ちなみに、私の事は内緒にしてよね。この街を出るまでは、私はアキラ以外の誰も信用しないわ。私の隠密を見抜ける冒険者はそうそういないだろうけど、用心はしておいた方がいいからね。そうねぇ、人形の振りでもしてアキラの荷物にでも入れておいて」
重要なものはルゥナのストレージに入れているが、対外的にはアイテムボックスを使っている様に見せる事になっている。Eランクでは持っている新人は少ないが、全くいないわけでは無い。金額も、容量が少ないものなら金貨2枚(20万円)くらいで買えるみたいだからな。
ちなみに、ルゥナのストレージをアイテムボックス換算したら少なく見積もっても白金貨10枚(1億円)以上するらしい。そりゃあ、狙われるわな。商人にとっては、容量もそうだけど商品をバレずに持ち運びできるなんて喉から手が出るほど欲しいものだろう。まあ、ルゥナはそれを暗殺に使ってたみたいだが。暗器とか持ち運び放題だしな。
「ここがそうだな」
「安そうな宿ですねー。僕、アキラの泊ってる宿の方がマシな方だと思わなかったよ」
シルフィがそういうのも仕方がないくらいぼろい宿だった。木造はともかく、年季が入りすぎていて築50年くらい経っているんじゃないか?って感じだ。俺の宿はリンドールさんがお詫びに紹介してくれた所で、ついでに1日分の宿代が支払われている状態だった。つまり、ランクとしては中から上の間くらいの宿だったのだろう。
宿についた時間を、街にある時計を見て確認する。まだ5分前くらいだったが、ちょうどトマスさん達が帰ってくるのに居合わせた。
「よぉ、来たか。こいつらが俺のパーティ仲間だ」
「よろしく、水魔法使いのリーンよ」
「私は回復術師のアリスです」
「俺は盾使いのジョズだ」
「改めて、俺がこのパーティのリーダーで、戦士のトマスだ。宿の前じゃ目立つ。中に入って話をしよう。宿の主人にはあらかじめ伝えてあるから、食堂兼酒場の隅の席を使っていいと言われている」
「よろしくお願いします。Eランクで精霊・・・魔法使いのアキラです」
精霊使いと精霊魔法使いの区別が良く分からないので、分かりやすい様に精霊魔法使いを名乗る事にした。冒険者は、自分の職業を伝えるのがマナーである。
「へぇ、珍しい職業ね。ちなみに、どの属性の魔法が使えるのかしら?」
リーンさんが話しかけてくるが、それをトマスさんは「やれやれ」と言った顔で止める。
「おい、リーン。魔法が大好きなのは知ってるが、宿に入ってからにしてくれよ」
「あら、そうよね。ごめんなさい。つい、気になってしまって」
「夕食も兼ねるんだろう? 俺はもう腹減ってきたぞ。早く行こうぜ」
ジョズが他のパーティを急かす。そして、予約してある席に座ると、すぐに飲み物だけ運ばれてきた。トマスさんとジョズさん、リーンさんの前にはビールのようなものが。アリスさんと俺の前には果実を絞ったものと思われるジュースが置かれる。
「それじゃあ、まずは乾杯だ。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
いつもそういうノリなのか、トマスさんのパーティは慣れたように乾杯して飲み物を飲んでいる。俺も、とりあえず乾杯してジュースに口をつける。おっ、これはリンゴジュースに近い味だな。
「それじゃあ、護衛クエストの打ち合わせを始める。出発は明日の朝7時。だから、その前に門の前に集合する事になる。アキラくんは知らないかもしれないから言っておくが、門のところで出発証明みたいな確認がある。そこで冒険者証を渡せば、もうこの街に滞在していない事の証明になる。これは、Cランク以上の冒険者には緊急依頼等で招集がかかるから、滞在者を確認するためのものだ。だからDランク以下の冒険者には必須では無いが、慣れておいた方が良いだろう」
「そうですね。少し早めに行ってやっておく事にします」
「そして、俺達の目的地はガーベラテトラの街だ。この街からおよそ100キロくら離れた場所にある。大体、順調にいけば3日から4日で着くだろう」
ルゥナにあらかじめ距離の事を聞いておいてよかったな。無駄な時間をかけさせなくて済んだ。そして、100キロを3日から4日で行くって事は、一日あたり30キロちょっとか? それって、どんなもんなんだろうか。普通に歩けば、時速3キロくらいだろうから、1日10時間歩くのか? 確認しておいた方がいいか。
「すいません、それは1日30キロくらい歩くって事ですか?」
「ほぉ、計算は出来る様だな。そうだ、1日30キロくらいになる。ただ、これは事前に依頼主から聞いておいたことだが、街の近くは一緒に馬車に乗って移動していいそうだ。まあ、荷物が積んである隙間に乗るだけだから、乗り心地が良いとは限らんが。そして、道が悪くなったら徒歩だな。ついでに、森や見晴らしの悪い場所は徒歩で警戒しながらになる。なに、心配するな。今回は街道を通るから、それなりに人通りもあるし、山賊なんかは出ないからな。じゃないと、護衛がDランクパーティ一つなんて事は無いいだろう」
基本的に、危険な場所は複数の商人が示し合わせ、それぞれに冒険者を雇って複数パーティの護衛にして移動するそうだ。商人一人で複数のパーティを雇ったり、高ランクの冒険者を雇うと赤字になるかららしい。ちなみに、Bランク冒険者一人雇う方がDランクパーティを雇うよりも依頼料が高いというのはルゥナ談だ。ただ、今回は依頼主の方が提示した依頼料に対して応募する形になるので、例えBランクパーティでも同額でも雇えるが、まず金額的に受けるパーティは皆無だろう。
「分かりました。俺の役目は何ですか?」
「Eランクの帯同者は、依頼料が固定で銀貨1枚だ。距離が遠くても近くても同じだな。結局、冒険者として学ぶための場という事だな。だから、アキラくんは自分が出来る事をやってくれればいい。やったらダメな事は、その都度教えてあげるから」
「ねぇねぇ、もういいでしょ? アキラくんはどんな魔法が使えるの?」
トマスさんの話が終わりそうだと感じたのか、リーンさんが食い気味に俺に質問してくる。少し酒に酔ったからか、体を寄せてきて顔が近い。
「リーンは魔法バカだからな」
「魔法バカは無いでしょ。魔法使いとして当然のことよ。基本的に魔法使いは自分の系統の魔法しか使えないけど、精霊魔法使いは契約した精霊で使える魔法が変わるじゃない。もし、複数契約すれば複数の属性の魔法が使えるのよ? それも、魔力切れなんて無いし」
「分かった、分かったから。アキラくん、よかったらでいいからリーンに教えてあげてくれるかい?」
使える魔法の種類は、人によっては隠す事もあるらしい。もし、対人で戦う事があった場合、自分の使える魔法の種類が知られていたらその時点で不利になるからな。ポケモンバトルみたいに。
「えっと、俺が使えるのは樹魔法です。今のところ、使えるのはツリーバインドだけですけどね」
事前に、俺の使える精霊魔法を樹魔法と言う事にしてある。実際、シルフィは森の精霊だから間違ってはいない。ただ、実際には低級精霊魔法のツリーバインド以外に、よく分からない魔法をいくつか使えるだけだ。木をよけさせたり、木にうろを作ったりする精霊魔法なんて知らないとリンドールさんも言っていたからな。
「ツリーバインドかぁ。それじゃあ、あまり戦力にならない感じかな? でも、Eランクってことは一応魔物を狩ったことはあるんでしょ?」
「はい。ただ、精霊魔法だけじゃなくて罠とかも駆使して倒しました」
これも事前に考えておいた事だ。相手が止まっていない限り、発生の遅いツリーバインドに当たる事はほとんど無いからな。
「そっかぁ。じゃあ、実力は普通にある感じ?」
「どうでしょうか? 俺は、今まで他人が戦ったところを見た事ありませんし、戦闘経験もほとんどありませんから」
「まあ、Dランクになるまでは進んで魔物を狩る冒険者も少ないから仕方ないよ。その辺は、俺達が先輩らしく見せてやるって事で」
「だな。大抵は、何事も起きずに終わるんだがな。がははっ」
ジョズさんは、赤い顔をしながら大笑いしている。どうやら笑い上戸の様だ。
「怪我をしても私が治してあげるから、戦いに参加しても大丈夫ですよ」
アリスさんが優し気に微笑みながらそう言ってくれる。後でルゥナに聞いたところ、回復術師は回復を使わないと経験を積めないそうで、俺が怪我する事を期待しているんだろうとの事だった。くっ、優しいお姉さんだと思ったのに!




