SIDE:風のシルフィ
あたしは、リンドールの言う通りアキラという人間を探した。風の探知魔法を使えば、どこに居るかなんてすぐに分かった。そもそも、この街からまだ出ていないみたいだし。
「居た居た。あれは、何か買いたいものでもあるのかな?」
街の中でも、露店の多い市場を歩いていた。そばには、森の精霊とかいうシルフィも居る。
「ただ見張るだけじゃ、暇なんだよな。ちょっとイタズラしちゃお」
あたしが本気で隠れれば、例え同族であっても簡単には見つけられない。精霊視でも見えないし。
「おっ、果物屋の横を通り過ぎそうだ。・・・エアショット」
あたしは手加減して魔法を使う。すると、アキラが通った瞬間、いくつかの果物が落下した。
「おい、兄ちゃん。落ちたもんは売りもんにならねぇんだよ。弁償してくれるんだろうなぁ?」
「えっ、俺はぶつかって無いですよ・・・?」
「兄ちゃん以外の誰が居るんだって言うんだ。風で落ちるようなもんじゃねぇしよ。ほら、衛兵を呼ばれたくなかったら弁償しろ」
「えっ、あっ、はい・・・。いくらでしょう・・・?」
アキラは布の袋を出して銅貨を何枚か渡してるね。それも、おどおどしながら、へこへこして。
「ぷふっ」
あの反応、あの動き、面白いね。これはクセになりそうだ。アキラは首をかしげながらも落ちた果物を受け取って歩いて行った。当然、あたしも後ろから着いて行く。
あっ、アキラの横を街の女性が通り過ぎそうだ。今度は、これにしようっと。
「フォローウィンド」
あたしは、女性のスカートを風で捲る。
「きゃあっ! ちょっとあなた! 私のスカートをめくるなんていい度胸してるじゃないの!」
「ええっ、俺ですか?」
「あんた以外居ないでしょ! どういうつもりなの? ちょっと衛兵の所まで来てくれる?」
「す、すいません・・・。お詫びとして、手持ちの全財産を払いますから許してください」
アキラは再び布の袋を出して、中身をすべて女性に渡したようね。ただ、何枚かの大銅貨と銅貨が数枚入っていただけだから大した金額じゃ無いけど。
「・・・まあいいわ。あんた以外の誰にも見られてないだろうし。ただ、次やったら許さないからね」
女性が怒りながら去った後、アキラはまた首をかしげながらも、服の袖から大銅貨を数枚出して布の袋に入れていた。
「ぷふふっ、なるほどね、そうやって隠してたんだ。じゃあ、そのお金も使って貰いましょうか」
あたしは、今度はチンピラっぽい男がアキラの横をすれ違ったのを見てチンピラの頭にエアショットを軽く撃つ。
「ってーな! 何しやがるんだ! ああん? 慰謝料を寄越せや! それとも、殴られたいのか?」
「ひっ、俺は何もしていません」
「俺の頭を殴っただろうが! お前以外、ここには誰も居ないだろ!」
「俺は、何もしてないよな、シルフィ?」
「あーん? 何、誰も居ない場所に話しかけてやがるんだ、気味わりいな。とりあえず、出すもん出してもらおうか」
チンピラは、アキラから布の袋をひったくると、中身も確認せずに立ち去って行った。
「ぷふふっ、楽しいね、これ」
「そこか! エーテル!」
アキラが私の方に向かって手のひらを広げる。何をしてるのかしら? と思ったのも束の間ですぐにあたしに何かが覆いかぶさった。すぐに脱出しようとしたけれど、逃げ場がなかった。
「なにこれ! エアショット! えっ、破けない! それなら、本気でやるわ。エアカッター! 嘘っ、これでも破れないの!? サイクロンは、ここじゃ使えないし・・・」
「やっぱり、ここに何か居るな」
アキラは、あたしにむかって手を伸ばしてくる。
「ちょっと、やめて、謝るから! きゃーっ!!」
あたしは、アキラの手に掴まる。当然、あたしの羽も掴まれてしまった。
「ひぐっ、ぐすん。あたしの羽は、ぐすっ、好きな人に最初に、ひんっ、触ってもらう、ぐすっ、はずだったのにぃ」
「あーあ、なーかした、なーかした。いーけないんだーいーけないんだー」
あっちのシルフィが、アキラに向かってそう言っているのが聞こえた。
「し、仕方ないだろ。見えない何かだったんだから。こんな場所に精霊が居るなんて思わないじゃ無いか」
「もぅ、放してよぉ。ひぐっ、ごめんなさいー、ぐすん」
「いや、まだ駄目だ。俺がどんな思いをしたと思っているんだ。イジメられ慣れているせいで、お金は体のそこら中に隠してあるから、取られたお金は大したこと無いけど、気分は良くないんだからな」
「ごめんなさいー、許してくださいー。それもこれも、そこの精霊がシルフィなんて言うのが悪いんだー」
あたしは、向こうのシルフィに責任転嫁する。羽を握られているこの格好を見られたからには、ただですませない。
「えー、僕の何が悪いって言うんだい?」
「シルフィと名乗っていることが、よ。シルフィっていうのはシルフ族って事なんだから、風の精霊以外が名乗るものじゃないわよ! そこの人間に例えれば、精霊、シルフィは人間、日本人って言うようなものよ!」
「でも、これが僕の名前だし、仕方ないじゃ無いか」
「はぁ? あんたのそれが真名だって? 嘘つくんじゃないわよ。真名を人に知られるって事は、自分のすべてを相手に委ねるって事よ? 契約時に相手に真名を知られていたら、契約破棄すらできなくなるんだからね!」
「そうなの? それは知らなかったなー。でも、僕の名前はシルフィだよ? 契約するつもりも無いから、別にいいじゃないですかー」
「呪いをかけられても知らないんだから! あっ、そうだ! あたしはリンドールの指示であんたたちを見張っていたの。だから、文句はリンドールに言ってちょうだい」
「・・・本当か? 嘘だったら、羽をむしるぞ?」
「ひっ、ひぐっ、うぐっ、うええーん。それだけは、やめてくださいー。それなら、殺されたほうがマシですぅ」
「あーあ、なーかした、なーかしたー。なかなかひどいこというねー。あのね、アキラ。精霊にとって羽は命よりも大事なんだよ? それをむしるだなんて、横で聞いてただけの僕でも鳥肌がたったね」
「そ、そうなのか? それは悪かったよ、ごめん・・・」
「うわーん。うえーん」
「仕方ない、放す、放すから泣き止んでくれよ。何もしないって。とりあえず、リンドールさんの所に行った方がいいかな・・・? 俺を日本人って知ってるみたいだし」
「そうだねー。この子の初めても奪っちゃったし? 場合によっては許されないかもねー」
「はぁ・・・。気が重いな。俺は悪くないはずなのに・・・」
「あたしも、ギルドマスターの部屋に、いたんだからぁ。ぐすん。うえーん。報告、してやるんだからぁ」
「・・・シルフィは俺の潔白を証明してくれるよな?」
「どうしよっかなー。僕もアキラに初めてを奪われたから、この子の味方をしたくなっちゃうなー」
「頼むから、今回だけは口添えを頼む・・・」
「仕方ないなぁ。その代わり、アキラの魔力を頂戴ー」
「分かったよ。じゃあ、リンドールさんの所へ向かうぞ」




