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転移して奴隷にされたけど、見えない塊を拾ったので逃げる事が出来ました  作者: 斉藤一


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Side:リンドール

「ギルドマスター、居るか?」


「おや、ガブルさん。どうしました? 入ってきてもいいですよ」


解体兼素材買取の職員であるガブルさんが、わざわざ私に会いに来るなんて珍しい。いつもは、素材以外に興味が無いというのに。


「これを見てくれ。さっき買い取ったばかりの素材だ」


「ああ、キラーディアの角ですよね。何か問題がありましたか?」


ガブルさんがキラーディアの角の先を指示したので見てみます。


「・・・欠けていますね。もしかして、品質が悪くて買取価格を上乗せして欲しいというお願いに腹を立てたとか・・・?」


「いや、買取価格は言われた通り上乗せしておいた。それに、この程度の欠けなら研げば問題ない」


「それが問題でないなら、それこそどうしたんです?」


「キラーディアの角は鉄よりも硬く、岩なんかも貫くことが出来る事から、冒険者に槍の素材として人気なのは知っているよな?」


「ええ、当然です。私だって元冒険者なのですから」


「この欠けは、欠けてから日が経っていない。傷口が真新しいからな」


「それは、戦闘か何かで欠けたんじゃないですか? それこそ、キラーディア同士で戦う事もありますし、欠け自体は珍しいことでは無いでしょう?」


「まあ、確かにそう言われればそうかもしれねぇ。だったら、こっちはどうだ?」


ガブルさんは、今度は角の付け根の方を指差す。そこには、綺麗に切断された跡があった。


「・・・綺麗に切断されていますね」


「ああ。普通の冒険者なら、角が硬すぎて普通のナイフじゃ切れないから、頭蓋骨の方を砕いて角を持ってくる。だというのに、これは綺麗に切断されているんだ」


「ま、まあ、オリハルコンのナイフやアダマンタイトのナイフなら切れますよね?」


「ああ、切れるな。で、これを持ち込んだ奴はそれを持っているのか?」


アキラくんは、ナイフどころか布を一枚着ただけのほぼ裸状態だ。てっきり、精霊の力を借りてキラーディアを倒したのだとばかり思っていましたが、それではこの切り口の説明がつきませんね。


「持っていませんね。それどころか、それを補わせるために倉庫へ向かって貰ったのですから」


「だよな。だから俺の方で見繕っておいた。剣は人気で在庫が無かったから、使いやすいショートスピアを渡しておいたし、防具は皮の鎧を渡しておいた。そんな奴が、どうやってキラーディアを倒して綺麗に素材を持ってこれたんだ?」


「彼には、精霊がついているんですよ。だから、その力を借りたんだと思います」


「なんだ、ギルドマスターと同じ精霊魔法使いか。だったら、おかしくはないか」


「・・・そうですね。私のホワールウィンドなら、これと同様に風の刃で綺麗に切断できますし」


「そうかそうか、だったら、俺の気にし過ぎだったようだ。てっきり、盗品か何かかと思ってよ。じゃあ、残りの素材を持ってくるらしいから、倉庫に戻るわ」


ガブルさんが部屋を出て行ったあと、私は再びアキラ君について考えさせられた。


「あの時、精霊を怒らせたお詫びとして、わざと初級精霊魔法のツリーバインドを食らってあげましたが、あれではキラーディアを捕獲するのは不可能です。正直、私の素の力でもあの蔓を力づくでちぎる事は可能でしたし、危なければそれこそホワールウィンドが風の刃で蔓を切って助けてくれたでしょう」


ホワールウィンドが、ウンウンと頷いている。やはり、私がわざと受けたと分かっていたのでしょう。これでも、元Aランクの冒険者ですからね。例え油断していても、あの程度の速度の攻撃は躱せます。


「では、実はあの精霊にまだ秘密があるのか、精霊の力で無いとしたら、残りはエーテルとかいうスキルですかね・・・? あれについては、全く見当もつかないスキルでしたし、アキラ君も特に何も言わなかったので気にしないようにしていたのですが、そうなると気になりますね。精霊に触れられる事にも関係するのでしょうか?」


いくら考えても分かりませんね。


「どう思いますか? シルフィ。あなたと同じ名前を持つ、彼と一緒に居た精霊は」


私が虚空に話しかけると、緑色の髪をした少女が現れる。私が契約する精霊の一人で、風の中級精霊です。やはり、中級精霊は精霊視を使っていても、本気で隠れられると見えませんね。


「それ、私に聞く? だったら、あの場で聞けばよかったんじゃん」


「彼のスキルを見る限り、精霊視自体はそれほど珍しくありません。精霊の存在を本気で信じる者にはまれに覚える事が出来ますからね。特に、彼の生まれ故郷の日本では、異世界には必ず精霊が居ると思われている節がありますからね。そして、魔力操作。これもそれほど珍しくありません。魔法使いは必ず使えますからね。ただ、魔力の存在しない異世界の生まれである彼が最初から覚えているのは珍しいかもしれませんが。魔力が無い世界で、魔力を練る練習でもしていたんでしょうかね?」


「知らないよ! で、聞かなかった理由は?」


「エーテルの不明さと、あの精霊の不自然さです。シルフィと言えば、風の精霊じゃないですか? なぜあの精霊は森の精霊などと自称しているんです? 実際、低級ではありますが木の精霊魔法を使えましたし」


「知るか! だから、あいつに聞けよ!」


おっと、シルフィが怒ってしまいましたね。確かに、シルフィの言う通りなので仕方ありませんが。


「こほん。聞いても恐らく答えてくれないと思ったからですよ。だから、あなたにお願いしたいのですよ。彼を秘かに見張って貰えませんか? あなたの隠密の技術なら可能でしょう?」


「最初っからそう言えば良かったんじゃん。さっそく、行ってくるよ。あんたがギルドマスターとやらになってから、冒険も何も無くて暇だったんだよね。いい暇つぶしになりそうだ!」


シルフィはそう言うと、アキラ君が来るであろう倉庫へ向かったようですね。一応、会話は聞いていたようで安心しました。


「さて、私は彼のランクを速やかに上げる準備でもしますか」


彼は確実に高ランクの冒険者になるはずです。私の冒険者の勘がそう告げていますから。



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