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第二章 B

どんどん更新していくぜ!

しかし少し待って欲しい。

今回結構お色気シーンがあるんだ。

R-16とは言わないが、R-12くらいかなw

楽しんで頂ければこれ幸い。

 サイファーたちはたまに休憩をとりながら山道をただひたすら登っていく。昼食は歩きながらイシュタルが作ったサンドイッチを食べた。

 やがて日が暮れて真っ暗になる前に野営の準備をすることにした。

 鬱蒼とした周囲を覆う森の木々が広がり、少し奥へ分け入ると小川が流れていた。少し開けた場所であり魔物の気配もなかった為、石を積み焚き火を作ることにした。

 今日は天気もよくちょうど満月で、天を流れる星々がよく見えた。

 川には灯蛍あかりぼたるが生息していたのか、無数の緑色の粒子が空に向かって一直線に伸びていた。

 魔界では絶対に目にできない幻想的な光景である。 


「やはり人間界は美しいな。こんなに綺麗なものを俺は見たことがない」


 川で顔を洗いながら感動するサイファー。朝がくれば日が昇る。夜がくれば日が沈む。それだけのことが新鮮だった。虫がコロコロ音を鳴らし、自然の夜風が気持ちいい。なにより目に映る全てが色彩豊かだった。

 魔界では全てのものが黒か紫といった毒毒しい色で覆われている。黒い空、紫の瘴気混じりの空気、汚染された灰色の土壌などなど。

 人間界と魔界の不公平さがまざまざと感じられた。

 元々人魔戦争に負けた竜たちをこれ以上繁殖させないよう、住みにくい大陸を神が創造し、そこへ封印したのだと言う。

 サイファーは人間界にばかりえこ贔屓する神に対して凄まじい怒りを覚えた。

 しかしイシュタルはこともなげに答える。


「こんなもの、ちょっと田舎の方に行ったらよく見られるわよ。魔界にだって星空くらいあるでしょう?」


「あるにはあるが……。そもそも魔界に朝は来ない。ずっと夜だ」


「え? 嘘よ、そんなの」


「本当だ。魔界の空は一面真っ黒で日が差さない。月や星を見るのもこれが生まれて初めてだ」


「へ~。噂には聞いてたけど凄い所なのね」


「む……」

 

 安楽的に魔界の感想を言うイシュタルに、少々腹がたった。

 人間は自分がどれだけ恵まれているかわかっていない。

 暖かい気候、輝く日光、綺麗で新鮮な水。

 息とし生ける者が必要とする全てのものを、人間は容易く手に入れられるのだ。

 魔界はそんな甘い所ではない。

 生きる為にはずっと戦い、勝利していかなければ全て失う。

 本来竜は戦闘を好むが、同族殺しを好んでしたいと思っているわけではない。

 必要な食糧を得るための領土を確保するために、日々殺しあっているのだ。

 サイファーは思わず彼女の頭を叩いてしまった。


「痛っ、何するのよ!」


「お前の頭が可愛くてつい叩いてしまった」


 嘘でまかせである。

 しかし誉められてうれしいのかイシュタルに笑みが浮かぶ。


「え? 可愛い……」


「ああ、可愛いなお前は」


 イシュタルの顔がぼっと赤くなる。


「って、それどんな言い訳よ!」


「ちっ、騙されなかったか」


「待ちなさい、サイファー! どこ行くのよっ」


 サイファーはかんかんになって怒るイシュタルから逃げるようにして、しばらく夜の森を散歩する。

 薄暗く苔がまばらに生えた川原を下っていく。成長すると魔物になる犬蛙いぬがえるや角ウサギがピョンピョン跳ねて通り過ぎていったが無視してやった。退治してやっても良かったが、サイファーの機嫌はすこぶる良かった。月光の漏れさす光が水に反射してきらめている。水底まで透き通っており、飲んでみるとすごく甘く美味しかった。

 

 サイファーの顔に子供っぽい笑みが浮かぶ。

 

 いきなり服を脱ぎだして、ジャンプ。

 川に全裸で飛び込んだのだ。

 魔界には綺麗な水など存在しないので、魔力で浄化してから飲まなくてはならない貴重なものだ。


「はっはっは! 気持ちがいいなぁ」


 サイファーはざぶざぶと泳いで、げらげら笑う。

 こんなに贅沢して水遊びしたのは生まれて初めてだった。

 

「やはり人間界は素晴らしい。……ますます欲しくなってしまったじゃないか」


 水から上がり頭を振る。

 飛沫が周囲に広がって、サイファーの金の髪が風に揺れた。

 濡れた髪を指でかきあげて現われたその顔は少年のものではなく、本来の竜としての貪欲で傲慢な面も見え隠れしている。

 武力で攻め取るのは簡単そうだった。だが、恐らく天界が許しはしまい。

 さすがのサイファーも天使兵百万の軍勢を相手には勝ち目がない。さて、どうしたものか。

 と―――、その時だった。

 この付近に自分以外の、禍々しい気配がしたのだ。


「そこにいるのは誰だ!」

 

「ハァハァハァ……。サイファー様の全裸。……ゴクリ。すごく……大きいです」


 そこにいたのは木陰で鼻息を荒くするリリアナ嬢だった。


「ひぃっ」


 なんという肉食系の瞳。

 サイファーはなぜか恐怖を感じ、自分の股間を隠してしまった。

 思わず悲鳴をあげそうになる。

 これでは男女反対だろう。

 

「ああっ、サイファー様の魔剣グラムが隠れてしまいました。残念です」


「リリィ。少しは恥らいを持とう」


「恥らい? なんですか、それ。食べられるんですか」


「幼い頃のお前はもっと純真無垢だっただろう! 何がお前をそんなにした!」


 五百年ほど幼馴染をしているが、これほど積極的というか、変態的なリリィは初めてだった。

 今だに全裸のサイファーに、白い頬を赤く染めたまま近づいてくる。


「ふふふ。生まれてからずっとわたしの夢はサイファー様のお嫁さんになることでしたよ」


「その気持ちはすごく嬉しいんだが、そう急ぐことでもないだろう」


「いいえ、もうこれ以上、リリィは待てません」


 違和感を感じ服を着ようと後ずさるが、リリィの動きの方が早くいつの間にかもう懐に飛び込まれていた。

 逃げられないよう腰に手を回され、抱きついてくる。

 まずい。体術でサイファーはリリィ勝てないのだ。

 

「!?」


 さすがのサイファ―も不意打ちを食らってしまって、無理矢理引き離すわけにもいかずアタフタしてしまう。

 その隙にリリィは馬乗りになり、全裸のサイファ―を押さえ込みの態勢に入る。女の力と思って侮ってはならない。ちゃんとサイファーの体を抱き込んで、うまく力が入らないような態勢に持ち込んでいた。

 二人はしばらく無言で見つめ合う。

 リリィはサイファーの体を好き放題触ってくる。


「ふふふ。最近あまり構ってもらえなかったので、すごく楽しいです。サイファー様ってばあんなイシュタル(混血)ばかり可愛がって、気にかけて。結構嫉妬してたんですよ、私」 


 恐ろしく甘い囁きだった。

 サイファーの身体をまるで愛撫するように撫で回し、唇を耳に近づけてくる。

 顔の距離がひどく近い。 

 このままキスされてもおかしくなかった。

 お互いの息が混じり合って、より淫靡な空気が流れる。


「オヤジから竜の女は案外嫉妬深いと聞いていたが、お前もそうだったんだな。それよりな、まだお前成人してないし俺も発情してないから、こういう行為はやっぱりもっと後にした方がいいと思うんだが」


「雄の竜を興奮させて無理矢理発情状態にするのも雌竜めりゅうの楽しみの一つですよ。大体普段堂々としているあなた様がこんなことでオドオドしている方がおかしいのです。やはり童貞はさっさと卒業しなければ良い王にはなれません。わたしのことは気になさらずに。もう私の身体は成熟しております」


「お、お前のオヤジさんから成竜になるまでは手を出さないでくれって、涙ながらに頼まれてるんだよ。それにそう簡単に竜が発情するわけが―――」


 そう口に出したところで、なんと唇を塞がれた。

 さらに彼女の舌が侵入してくる。

 舌がぬろぬろと、サイファーの口の中を這い回る感触がダイレクトに脳に伝わってくる。

  

(―――どこで覚えた、こんな技!? そ、それに、こ、股間に手を持ってくるな! そこは逆鱗がっ) 


 人間形態でも逆鱗の名残は残っている。そこを触られて力が抜けていく。

 雌竜が雄の竜を興奮させることができるというのは本当なのだろう。何か特殊なフェロモンでも出ているのか。

 だんだんと身体が熱くなり、目がちかちかと明滅し始める。息が荒くなり、理性が遠のきはじめる。

 

「わ、私も初めてなのです。どうですか? 気持ちいいですか、サイファー様……」


 ぼんやりとした視界でリリィを見つめる。

 彼女はものすごく恥ずかしそうに、顔を赤くして上目遣いでこちらを見ていた。


「今更恥ずかしがってるのかよ。そんなに真っ赤になるくらいなら、やめればいいだろう」


「ここまできてやめれるわけないでしょう。女は度胸です!」  


 サイファーの喉を侵すかのように、濃厚なキスを繰り返すリリアナ。

 夢中になってサイファーの舌を絡めとり、唾液を交換する。

 どこまでも貪欲で積極的になれる竜の女だが、やはり恥ずかしいのか顔は火を噴いたようであった。 


(マズイ……。本当に……発情して、しまう)


 サイファーの目が真っ赤に染まり、股間のサイファー自身がどんどん大きくなっていく。

 背中から尻尾と翼が生えて、擬人化が一時的に半分解除される。

 本格的な発情状態へ移行する合図だ。


 しかし、その直後だった。

 それまで静かだった森がざわざわと蠢き始める。

 これは人間の気配だ。

 それもかなりの数。十人はいる。どうやら囲まれているようだった。


 そして、野営のテントの方から激しい剣戟と、燃え立つ木々の音が聞こえてきた。

 恐らくイシュタルと敵が派手に魔法でも使って戦闘しているのだろう。


「やれやれ……。離れろ、リリィ。戦うぞ」


「ちっ、もう少しでチェリーをいただけたのに……」


 発情状態だったサイファーも身の危険を感じ、正常な判断を取り戻してきていた。

 激しく悔しがるリリィ。

 一世一代の女の勝負だったのだろう。

 瞳には悔し涙がにじんでおり、邪魔された恨みを込めて敵の方を睨んでいる。

 

「後で続きをしましょう」


「無理矢理発情させるようなやり方はやめてくれ……」


 一旦発情すれば竜は百年は盛ることになる。女と見れば見境がなくなるような、そんな自分にはなりたくなかった。

 サイファーは服を着ながら大きなため息をついた。 




                 ☆☆☆ 




 襲撃者は大胆だった。

 サイファーたちが竜に変身できないことを見ぬいているらしく、何の恐れもなく立ち向かってくる。

 襲撃者の中には獣人オークもいるのか、森の中から豚の鳴き声のような声が聞こえてきた。

 獣人と竜人の混成部隊。十中八九ニアの追っ手だろう。

 ガサっと頭上の木々が揺れたと思ったら、なんと敵が大量に降ってくる。


「死ねぇぇ!」


「これで俺は竜殺しの英雄になれるんだ!」


 竜の首をとった者はどの国でも英雄としてもてはやされる。

 竜を神のように奉っているフランベルジュの国では竜殺しを禁忌としているが、竜の血や肉を食べると不老不死になれると評判で、偽物のワイバーンの肉だとて闇市にて高値で取引されている。

 英雄としての座と一攫千金を夢見て竜に挑む輩は吐いて捨てるほどに存在していた。

 彼らがサイファーを見る目も欲に汚れきっており、下劣な本性が丸わかりだった。


「大人しく死ねぇっ!」


「うざい!」


 サイファーは襲い来る敵を、一人一人素手で殴り飛ばしていく。

 傭兵に混じって暗殺者がいるのか、集団にまぎれての死角からの刃物の攻撃が微妙に鬱陶しい。

 サイファーは木陰からいきなり出てきた覆面の男を蹴倒して、その拳を顔面に叩きつけた。仮面が割れ頭が飛び散る。

 その脳漿と血を浴びながら、敵の長剣を奪った。


『オバエ、ゴロズー!』


 と、声になっていない喚き声が近づいてくる。

 今度はオークが真正面から槍を構えて突撃してきていた。森の不安定な闇の中、中々のスピードだった。

 しかし、動きが直線的すぎて狙いが丸わかりである。豚のような毛むくじゃらの巨体は格好の的でもあった。

 肉弾戦が得意な獣人であろうと、サイファーにとっては児戯に等しい。


「雑魚がっ!」


 余裕の笑みを絶やさずに、槍をよけて軽く剣を振るう。それだけでオークの身体を胸から両断できた。

 そして返す刃で降ってくる矢をたたき落とす。

 森の奥から何本ものひらめく刃が見える。今度は長槍を武器に数十人が壁となり、サイファーを貫かんと突進してきた。

 サイファーは切断したばかりのオークの下半身を右手でむんずと掴むと、そいつを盾に逆にこちらから突っ込んでやる。


「どぉりゃぁぁ!」


「ぐあああああああああ!!」


 敵の隊列が乱れ、あたりに悲鳴がとどろいた。

 サイファーは背中から翼を取り出して放電現象を巻き起こし、背後から来る敵を威圧する。

 我ながらすさまじい力である。

 竜は自身の魔力を具現化し、外に放出するような器用な力を使えない。さきほどの放電をニアなどは魔法と思っているが全然違う。雷竜の翼には電気を溜め込む装置のような役割も担っていて、その一分を解放しただけだ。

 ―――竜は魔法を使えない。

 しかし、その代わりに体内で魔力を循環させ、その放出による熱量を筋肉を動かすエネルギーに変換できる技術を持っていた。 

 竜人も同じことができるが、竜とは利用できる魔力の桁が違う。

 平均的な竜人の体内にある魔力が100とすれば、竜はざっと10000は保有していることになる。


「サイファー様。イシュタルが苦戦しているようです。ただの混血にこの数はきついのかと」


 隣で戦っているリリィが、目を細めて森の奥を見ていた。

 (面倒くさいな)という顔を隠そうともしていない。

 サイファーは苦笑いを浮かべて背後へ剣を振るった。

 バタリと音がして暗殺者の一人が真っ二つになった.

 

「しゃーない。助けにいくぞ」


「えー」


「おい」


「……了解」


 リリィは隣で小型の双剣を操っている。まるでワルツを踊るように敵を切り刻んで行く。リリィはサイファーの護衛だが、本来は殲滅戦が得意な攻撃特化型の竜だ。素早い動きで敵を翻弄し、手に持つ刃で一掃する。実は言うと雷竜の女の中で人間形態時に一番体術がうまいのはリリィであった。さすがのサイファーも彼女に接近戦で組み付かれたら勝てないであろう。

 リリィはそれぐらい凶悪な才能と腕前を持っていた。

 二人でどんどん敵を蹴散らしながら前へ前へと進んでいく。

 一方―――。

 

「ぐ……、数が多い。あの馬鹿竜二匹はどこ行ったのよ!」 

 

 皇女であり膨大な魔力を体に宿すイシュタルであろうと、その身は竜人であり女であった。

 数十人ばかり片付けたところで、体力が尽きてしまっている。

 サイファ―は周囲を火で囲まれた絶対絶命のピンチの中にイシュタルを発見した。

 敵は十人。覆面の傭兵三人とオークが七匹。

 

「げっへっへっへ。竜は殺せって言われてるけど、皇女は捕まえるだけでいいんだよな」


「じゅるり。少しくらいの役得はあってもいいよな」


「取り押さえろ。俺たち全員でまわしてやらぁ」


『ぶひっ、ぶひひひひひ!』


 さすが汚いことでも平気でやる傭兵だ。下衆なことを恥ずかしげもなく口にする。

 オークなどはじめから理性などなく、女と見るや涎を垂らして腰を動かしている。

 

「なに馬鹿言ってるのよ。あなたたちみたいなクズに犯されるくらいなら自害するわ。そこらへんの犬とでもやってなさい!」


「ちっ、可愛げのねぇ女だ! そこらへんきっちりと教育してやらねぇとなぁ」


『ブヒー! おで、オマエ、オカスー!』


 飛び掛ってくる男たち。


「私に触れるな!」


 イシュタルは突進してきたオークの顔面に蹴りを放ち、手に持つ長刀で腹を切り裂いた。

 しかし、傭兵たちはまだまだいる。じりじりとその包囲を縮めてきていた。

 よく戦っているが、多勢に無勢なのだろう。限界がもうそこまできていた。


「よし、いっせぇので、取り押さえるぞ」


「いっせぇの、っで!」


 このまま捕まえられる―――。

 しかし、その時であった。


「―――その女は俺のものだ。死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」


 サイファ―がやっと到着したのだ。

 イシュタルに触れようとしていた男たち全てを、その翼から放たれる雷で黒焦げにしていく。

 

「そんなおっぱいお化けならいくらでも差し上げますが……」

 

 そしてリリィがサイファ―に放たれる飛び道具の類を全て叩き落としていた。

 圧倒的な攻撃力でサイファ―が斬り進み、リリィが援護にまわって邪魔する者たちを殲滅していく。

 500年間主従で戦ってきた完璧なフォーメーションであった。


「~~っ。あなたたち、何やってたのよ! 気がついたら私一人しかいなくてっ。ずっと呼んでたのにー!」


「ああ。一人にして悪かったよ」


 サイファーに微妙に涙目になりながら殴りかかってくるイシュタル。

 よほど怖い思いでもしたのか。皇女と言ってもやはりただの女の子なのだな、とサイファーはニヤニヤ笑ってその攻撃を胸で受けとめていた。

 慰めるようにして頭を撫でてやる。


「ははは。よしよし、そんなに怖かったのか。俺が来たからにはもう安心だぞ」


「もう。馬鹿~」


 サイファーと抱き合っているような態勢にやっと恥ずかしくなったのか、イシュタルがぱっと離れる。

 その彼女の耳元にリリィが唇を近づけて。

 またさらに問題をややこしくするような発言をする。


「今までサイファー様とわたしが何をやっていたのか、知りたいですか? うぷぷ」


「―――っ。耳に息を吹きかけないで! って、……何してたのよ? べ、別にサイファーとあなたが何してたのかなんてあまり興味ないけど、聞くだけ聞いてやるわ」


「なんというツンデレ。まあいいでしょう。先程までわたしたちはチューをしていたのです。初チューです。しかもベロチューなのです」


「チューって?」


 イシュタルは不思議そうな顔で真面目に問い返した。

 本当に意味が理解できていないようだ。


「あれ? 人間界では通じないのですか。……改めて言うと恥ずかしいですね。キ、キスのことです」


「なっ、なんですってー!」


 イシュタルの瞳が嫉妬でなのか、怒りの炎が燃える。

 しかしなぜかその怒りをリリィに向けないで、サイファーに向けてくる。

 あくまでにこやかな笑みを見せながら、沈黙したままでこちらへ近づいてくる。

 正直怖い。


「…………」

 

「ぐほっ、痛い痛いっ! 無言の笑顔で腹を殴るな!」


 サイファーの固い腹筋をものともせず、脇腹を拳で殴ってくるイシュタル。

 まるで容赦のないスクリューのきいたパンチは、竜のサイファーとて十分にダメージをくらうほどであった。


「見つめ合うサイファー様とわたし。お互いの唇をまるで貪るように吸い合う。ああっ、思いだしただけでまた興奮してしまいます」


 ―――と、リリアナはまたも夢の世界に浸っているのか、好き放題なことを言い放ち続ける。

 

「…………(怒)」


 逆にイシュタルの拳が強くなっていく。「痛いって! ちょっ、マジでやめてっ。ぐはぁ!」サイファーは悲鳴をあげた。

 まだ敵は森にちらほら見られるこの状況で、隙だらけの三人組。


「なんとわたしとサイファ―様は、棒と穴を抜き差しするような関係に―――」


「って、ちょっと待て! それはお前の妄想だろうが! イシュタルさん、いえイシュタル様。俺たちちょっとキスをしたぐらいで、あとは何もしてないから。キスなんて家族とならいくらでもするだろう? それと一緒さ。HAHAHA! そう、あれはスキンシップ。フレンドなキスであって、ラブなキスじゃ―――」


「ふぅん。キスしたことは認めるんだ」


「ぐほっ。だから殴らないで!」


 竜人の女も嫉妬深かったのか!

 サイファーは男女の機微には鋭い方で、なんとなくイシュタルがサイファーに好意を抱きつつあることはわかっていた。(モテる男はつらいなぁ)と一人心の中でにやついていたのである。

 しかし、イシュタルがここまでするとは予想外だった!


「お、おいおい。お前ら、俺たちナメてんのか? 俺たちゃ、泣く子も黙るスキュラ傭兵団だぞ! なにいちゃいちゃしてんだよ、あぁ?」

 

「そ、そうだそうだ。イケメンは死ねばいいんだ! 竜だからって女二人侍らせていい気になってんじゃねぇよ! 羨ましいだぞ、ごらぁ(マジ泣き)!」


 と、そこで襲撃者の何人かが、襲いかかってくる。

 皆竜が人間形態でも無類の強さを誇ることがわかってはいるようだが、それでも手柄を得たいという欲望に抗えず突っ込んでくる。

 正直サイファーにはこの上ない助けだった。

 この修羅場を早くなんとかしたかったからだ。


 しかし。


「「邪魔よ(です)!」」


 嫉妬に狂った女は強いのか。

 イシュタルは向かってくる傭兵やオークたちを次々と血祭りにあげていく。今までの苦戦が嘘のようだった。


「わたしの妄想を邪魔した罰です。死になさい」


 リリィがサイファーとの素敵妄想を邪魔された腹いせに虐殺していく。

 

「お父様もそうだったけど……。男なんて、男なんて、男なんてー!」


 得にイシュタルはひどかった。

 的確に男の急所(金的)ばかりを狙って剣を振るい、蹴りを放つ。

 ってか、イシュタルの親父、生前何をした!?


「敵ながら哀れな……」


 思わずサイファーは自分の股間を手で隠してしまうほどだった。

 二人の女が大の男たちをちぎっては投げちぎっては投げしている図は、なんとなくシュールであった。

 

「ぎゃ、ぎゃぁぁぁ!」


「こ、このままでは全滅してしまう! 退却しろ!」


『ぶ、ぶひぃぃぃぃ!』


 ものの数分で壊滅してしまう傭兵たち。

 オークには退却を命じるはずの群れのボスが死んでしまっており、あっという間に全滅してしまった。

 

「さぁ、サイファー。話の続きを聞かせてもらえるかしら?」


「いや、ちょっと落ち着こうイシュタル」


「サイファー様。キスの続きを今しましょう」


「お前はもう黙れ!」

 

 二人の女に迫られるサイファー。

 その迫力にタジタジになってしまう。

 このままでは竜の王子としての威厳は台なしだ。  

 竜の王族のオスはハーレムを作って、長い発情期に備える。事実サイファーの父親カインも1000人を超える妻を持っている。

 ――――リリィとイシュタル。

 たった二人の女も御せない甲斐性なしだと、後で父親に何と馬鹿にされるかわからない。人間界で女の扱いを学ぼうと切に考えるサイファーであった。


「「サイファー(様)!」」


「ま、待てっ、落ち着け!」


 こうしてニアから放たれた襲撃者を撃退したサイファーたち。

 しかし、当分サイファーの女難は続きそうだった。




やっちまったなw 

でもキスしかしてませんし。

これくらい大目に見てくださいよ。

さて次回も、待て、しかして希望してくれると嬉しいなぁ。


人物紹介


ヒロイン2

イシュタル

種族 竜人

年齢 十七歳(もうすぐ十八歳)

身長 84.5レーレ(169センチ)

体重 秘密

BWH 95 56 88

レベル 15


リリアナ曰く「おっぱいお化け」

おっぱい大きいツンデレです。

作者の大好物です、はい。おっぱいが嫌いな男がいるわけありません。

サイファーを好きになりかけ。自分では否定しつつも……。

フランベルジュ帝国の皇女であり、次期皇帝なのですが、中々苦労してます。




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