表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

第二章 A

第一部 二章スタート。

これから起承転結で言う承ですね。

がんばって書いていこう。

 大軍がぶつかりあった。

 カザ・ルー平原が揺れる。

 鉄鎧に身を包み、リンドヴルム(陸上用騎竜)を駆る騎士たちが、襲い来るオークを撃退していた。

 ディレイニア山間部から来る獣人たちの群れは精強であり、命知らずの体力馬鹿ばかりである。飛竜の火炎が頭上から降ってくるも、その侵攻を止めるまでにはいたらない。

 何千何万という矢が戦場に降り注ぎ、断末魔が津波となって空に響き渡った。

 基本オークたちの攻撃は数に頼った特攻であり、自慢の肉体を使用した肉弾戦のみである。

 よって帝国の騎士はなるべくオークたちから離れて遠距離からの攻撃を選択する。

 弓や投石機である程度バラケさせた後、竜に乗って突撃をかけるのだ。

 しかしその戦法もあるていどの兵力と練度があってこそできる兵法である。

 次々と送られてくるオークの援軍。豊富な財を持つ反乱軍のバックアップ。

 対してタイラント領守備兵の貯蓄は限られている。

 苦し戦いはここ数年ずっと続いていた。

 正午の天高く昇る太陽。熱くぎらついた日光が大地を照らし、兵士たちの汗まみれの顔を赤く染める。

 乱戦では勝者も敗者も余韻は無く、討ちとった敵の死体をそのままに、また新たなる戦場へとその身を投げうつ。

 ただただ己の正義と、守るべきもののために。


「全員突撃! 豚どもを一匹たりとも逃すな!」」


 戦場を愛用の騎竜に跨って駆け抜ける一人の女戦士がいた。

 絹のような金髪を後ろで束ねてポニーテイルにし、軽量化したプレートを胸にあて、宝弓タイタンを手に持っている。

 その後ろには彼女を守るように大型竜騎兵が数十名と従っている。

 エリス・タイラント。

 フランベルジュ帝国公爵家である名門タイラント家の令嬢であり、現在ニアたち反乱軍に反逆する唯一の貴族だ。

 エリスは十八歳とイシュタルと歳が近く、古くからの幼馴染であり、親友でもある。 

 将来エリスはイシュタルの右腕となって、フランベルジュ帝国を支えていこうと誓っていたのだ。

 しかし、その願いはほんの数年で悪夢へと変わっていく。

 皇帝ギルフォードの死によって各地で反乱が起こり、ニアがそのリーダーとなってしまった。

 イベリナ山の総力戦で敗れ、それからは帝国軍の敗戦続き。

 そしてエイギス砦の戦いで、エリスの父トラファルガー・タイラントが戦死してしまう。彼女の上に二人いた兄も幾度の戦場で行方不明になってしまい、もはや生存は諦めている。

 本来戦場に立つのは男と決まっているフランベルジュの慣習だが、エリスは得意の弓を武器に残存する帝国兵を纏め上げ、ここタイラントの領土でニアに反旗を翻したのだ。

 ここで降伏するという選択肢はあったが、それでは何のために父や兄が死んだのか分からない。命のやり取りは騎士の本分。それで敵方を恨むつもりはないが、ニアは国賊である。豊かなフランベルジュの土地を獣人に売払おうとしている。このままではエリスが守ろうとする民衆さえも食い物にされかねなかった。

 そして何より、イシュタルがまだ頑張っている。 

 帝都を包囲され一度反乱軍に捕縛されたという連絡があって、エリスは絶望しかけたが、その彼女がなぜか竜を味方につけ、ここタイラント領へ向かってきているそうだ。

 こんな所でいじけている暇はなかった。


「はぁっ!」


 エリスは背の矢筒から一瞬で三本もの矢を取り出し、連続で、しかも正確に敵へ放っていく。

 騎竜の扱いもうまかった。

 敵軍の進路を予測しつつ、竜の手綱を握って、右に左に華麗に方向転換できていた。

 エリスの手から放たれた矢は真っ直ぐにオークのリーダー格の頭を次々と討ち抜き、敵軍は散り散りになって烏合の衆へと変わっていく。

 オークには群れのボスがいて、そいつを倒してしまえば、敵は統率をとれる者がおらず、自然瓦解していくのだ。

 そこへエリスの後ろに付き従っていた重戦士部隊が圧殺をしかける。

 

「槍構えっ。いくぞ、圧殺!」


 体中を鉄の棘がついた鎧を纏い、その両手には3メートルもある大槍をかつぎ、まさしく鉄の壁として敵を刺し貫いていく。

 エリスの弓で撹乱し、重騎士でトドメを刺す。


『ぎゃぁぁぁァァ!!』


 己の欲望に忠実なオークでは、この連携を突破することなどできようはずがなかった。

 豚のような引き攣った悲鳴を上げて、押しつぶされるオークたち。


「逃がすな、追え!」


 指揮の経験の浅いエリスだったが、その姿はさすが堂に入っていた。


 と、そこへ。


「ガハハハハ! やりますな、エリス殿。わしも負けてはおれませんぞ!」


 白髪隻眼の老騎士がワイバーンから飛び降りてきたのだ。

 着地と同時にエリスに飛びかかってきたオーク二匹を、一瞬で微塵に切り刻む。

 さらにその剣風は止まることなく、周囲にいる敵を一気に全て切り裂いてしまった。恐るべき剣の腕である。

 その達人は鎧を付けず上半身裸の筋骨隆々とした老人だった。左目に大きく切り裂かれた痕が生々しく残っているが、眼帯はしていない。

 二刀流なのかその両手には一本づつ剣が握られ、いずれも返り血でドロドロになっている。


「クロムウェル卿! 助太刀感謝致します」


「なんの。獣人が攻めてきとるのに、わしだけただ隠居してはおれんよ!」


 クロムウェル・ドラグーン。

 ギルフォード陛下から世界一の竜騎士の地位、ドラグーンの称号を得た竜人最強の男である。

 元々タイラント領の農民だったのだが、傭兵になり、騎士隊長にまで出世した超成り上がり爺であった。

 400歳を超えた時分から隠居していたのだが、ニアが反乱したと聞いて現役に復帰してくれたのだ。

 しかし竜人最強も寄る年波には勝てないのか、荒い息を吐いている。


「それにしても、ニアの奴め。獣人たちと手を結んで、各地で暴れさせておるようじゃの」


「……ええ。今帝国中でオークや狼人が暴れまわっているそうです」


 エリスは弓の握を強く握りしめた。

 彼女はタイラント領を攻め滅ぼす為、日夜送られてくる反乱軍を相手取っている為、各領土に散らばっている獣人を討伐することができないでいるのだ。騎士がまず守るべきはまず民である。それなのにエリスは自領の民しか救えないでいる。この現状に忸怩たる思いを抱えていた。

 

「純人族からの援軍はどうなっているんでしょう?」


「倭国は無理でしょうなぁ。何と言ったか、ケンポウ9ジョウとかいう法律がありまして、他国に兵を出すのはいかんそうです」


「アナトリアは?」


「わかりませぬ。交渉に行ったグレン殿は戻らずじまいでして。一体どこで何をしているのやら」


「……そうですか。イシュタル、殿下だけが頼りみたいですね」


「そうですな。ですがわしは、あの姫様ならなんとかしてくださると、そう信じておりますのじゃ」 


「ふふ。私もです」


 エリスは戦場にいながら手で口元を覆い、優雅に笑った。

 戦い始めて早一年間。

 それでも三つ子の魂百まで、彼女の公爵令嬢としての上品さは少しも損なわれていなかった。

 エリスもイシュタルなら何とかしてくれると信じていた。子供の頃から勇気があり、引っ込み思案のエリスを引っ張てくれた一歳年下の皇女。彼女が竜を連れてもうすぐここへやってくる。久しぶりに親友に会えると思うと、戦場で凍った心が暖かくなる気分がした。

 噂に聞く竜がどんな性格なのか知らないが、イシュタルを助けてくれた竜だ。人魔戦争で聞くような悪逆非道な魔王ではないのだろう。

 好色らしいが、英雄色を好むと言うし。

 でも、無理矢理襲ってくるような竜ならどうしよう。


 エリスは基本何でも頭でまず考え、未来を想像して動くタイプである。

 

 まだ見ぬ竜への恐怖や期待なども人一倍大きかった。 


「まずはイシュタル殿下を無事にタイラントまでお連れする。全てはそこからですね」


 エリスが気を取り直し、逃げたオークたちの追撃を急がせようと指示を出そうするところに、一匹のリンドヴルムが駆けてくる。

 その上には真っ赤な髪をしたエルフが一人騎乗していた。

  

「お嬢様。タイラントへ侵攻してきたオークたちはこれであらかた片づけることができました。作物に被害が出たようですが、民への被害はありません」


「アベル、お疲れ様です。前線の指揮はあなたに任せっきりですね。本来ならば私がしなければならないのに……」


「いえ、お嬢様はタイラント家の大事な身。戦場で剣を振るうなど俺に任せておけばよろしいのです」 

 

 アベル・ドルストン。

 タイラント家に雇われた家庭教師&医師である。

 長寿のエルフは様々な分野で膨大な知識を蓄えており、エリスが赤ん坊の頃からの魔法や弓の師匠でもあった。

 エルフには性の概念が乏しいと言われているが、端正な顔立ちは女と見紛うほどの美しさで、微笑を浮かべるその顔は真っ白で染み一つない。

 しかし侮るなかれ。

 アベルはもうすでに千年以上生きているハイエルフであり、全ての武道や魔法に通じる達人でもあるのだ。 

  

「お嬢様、お怪我はありませんか? ああっ、スカートのはしに返り血が! おのれっ、糞豚ども! ディレイニアまで追いかけて皆殺しにしてくれるぞ!」


「あ、アベル。おち、落ち着いて」


「ガッハッハッハッハ! アベル殿は相変わらずエリス殿に甘々ですのぉ!」


「当たり前です。基本タイラント家の教育は俺が全て任されておりましたのでね。お嬢様は俺の娘も同然なんです! クロムウェル卿はご子息がおられないから俺の気持ちがわからないのです!」   


「あ、アベル~。クロムウェル卿と喧嘩しないでぇ」


 エリスが真っ赤になってうつむく。

 タイラント家の子供は全てアベルによって教育を受けてきた。

 父も兄も、全てアベルの愛弟子であった。

 よって、アベルが今のタイラント家の親だと言っても過言ではない。エリスも彼にオシメを変えてもらったことがあるらしい。もちろん覚えていないが……。


「それでお嬢様、これからの方針はやはりイシュタル殿下を……」


 話しが変わって、アベルが難しそうな顔をしてうつむく。

 アベルはもはや滅びかけのフランベルジュ帝国など捨てて、純人族の国へ亡命することを望んでいるようだった。

 名門貴族であり、美しいエリスならば、純人族の国でも嫁の貰い手などいくらでもいるだろうと、彼女の幸せを考えてのことだろうが、エリスの中にその選択肢はなかった。

 反対にエリスは迷わず答えた。


「ええ。皇女殿下を旗頭に兵を集め、逆臣ニア・ローベルを討ちます」


「しかし、そのためにお嬢様が危ない目に……」


「構いません。ここで逃げるくらいなら死を選びます」


「そんなっ!」


 アベルの必死の説得だったが、エリスにもう迷いはなかった。

 元々気弱な少女だが、頑として首を横に振る。

 

「もうよさんか、アベル殿。我々爺がとやかく言っても、若いもんはどこまでも前だけ見て突き進むもんじゃ。その邪魔をしてはならん」


「誰が爺ぃですか! 俺はまだ1728歳です! それよりも、お嬢様に戦いは似合いません! どうしてもと言うのなら、やはり俺が先頭に立ちますので―――」 

 

「私なら平気。あなたこそこの国の人間ではないのだから、無理にこんな勝ち目の低い戦に付き合わずともいいのよ」


「そんなわけには参りませぬ! 俺は別にフランベルジュなどどうなっても構いませんが、タイラント家の発展こそ我が使命と考えております。お嬢様の花嫁姿を見るまでは、絶対にこの地を離れませんとも!」


 意気込み苦悶するアベル。

 しかし、そんな彼を隻眼の老人が豪快にその背を張って笑い飛ばした。


「ガハハハハ! まぁ、なるようになるわい! とにかく姫様を待とうではないか」


 この『なるようになるわい!』というのが、この老人の口癖みたいだった。

 実に豪快なクロムウェルらしい言葉だ。

 エリスもつられて笑みをもらす。


「そうですね。グレン宰相閣下ももうすぐ帰ってきてくれますよ。……きっと」


「はぁ……。仕方ないですねぇ」


 クロムウェルの豪快な笑い声が平原に響き、エリスは苦笑いを浮かべる。

 アベルはただため息をついていた。

 タイラント家の兵はおよそ二千。五万近い兵力を持つニアたちや、さらに増え続けているオーク猟兵団には遠く及ばない。

 しかし、彼らはイシュタルにとって、最後の砦。

 暗い影が覆わんとするフランベルジュに残る最後の光なのかもしれない。


   


                 ☆☆☆ 




『ではイシュタル様、私は先にタイラント領にまで行っております。サイファー様、リリィ様、どうかイシュタル様をお守りください』


 そう言って、イシュタルの騎竜であるワイバーンが空高く飛んでいく。

 さすがに騎竜連れでの旅は、敵に見つかるリスクが大きいから、別行動することに決めたのだ。

 帝都大脱出から半日、バーンの傷が治ってからの主発だった。

 ここはエルイラ山道。

 山と森の中を突っ切る道なので、木以外何もない殺風景な風景だった。

 目的のタイラント邸まではあと二日はかかるだろう。その間は街もなく、野宿するしかないだろう。

 イシュタルは歩きながら、側を歩く二人の竜の姿を盗み見る。


「まさか魔力切れで人間形態に戻るなんて思わなかったな」


「人間界は魔界よりも魔力が薄いですから。定期的に魔力を補充しなくてはいけませんね」


「人間殺して魔力吸い上げるわけにはいかんよなぁ、やっぱり」


「私はそれでも構いませんが、サイファー様はお優しいですからね」


 というように、何でもないような会話を繰り広げている。

 どうやら彼らは幼馴染であり、主従の関係のようで、かなり親密に感じる。

 

(む……、なぜかあいつらを見てると苛々するわ)


 イシュタルは知らずサイファー方を睨んでしまう。

 思えばこの男は随分と自分に無礼な言動をされちゃったような気がする。いや、気がするどころではなく、実際にされている。

 初対面から裸を見られ、あまつさえ「おっぱいでかいなぁ」などと、真顔で感想を言われた。

 さらに、地下牢でニアと相対していた時も。

 

『その女をからかうのも苦しめるのも笑わせるのも全て俺の特権だ。お前の言う通り竜は傲慢な生き物でな。一度自分のものになったものを他人にくれてやるのは度し難く腹が立つんだよ』


 こんなことを言われた。


(わ、私のことを、じ、自分のものって……。それって俺の女扱いってことよね。そんなこと男の人に言われたの初めて……じゃなくてっ! なんて無礼な男なの! 私は一国の皇女なのよ!) 


 確かにニアの暴行からかばってくれた時は格好良かった。

 帝都を破壊し尽くすかもしれない悪竜だったが、真剣にお願いすれば聞いてくれるし、ちょっとしたところで優しさも見せてくれる。

 パーティーでこちらの権力に擦り寄ってくるただ顔がいいだけの男とは違う。

 荒々しくも優しい、まるでイシュタルの父、ギルフォードの若い頃のようだった。


(って、これじゃあまるで私が恋する乙女みたいじゃない!)


 イシュタルは真っ赤になったり、首を振ったり、一人で大忙しであった。


「何やってんだ、こいつは?」


「……モテモテですね、サイファー様。さすが雷竜王子。いっそ死にますか?」


「なぜいきなり死刑宣告!?」


 竜の二人がじっとこちらを見ているのに気づいたイシュタルは、ようやく自分の妄想をストップさせた。

 「う、ううんっ」と咳払いを一つして、真っ赤な顔で先を行く。


「って、あなたたち。いつまでそんな格好でいるつもりなのよ?」


 が、今更になって、サイファーたちの服装の華美さが気になってしまった。

 魔界でしかとれない高級な絹で作ったような見事な細工を施された衣装のようだった。

 これではいつ盗賊に襲われてもおかしくない。

  

「ん? 何か問題でもあるのか?」


「ありまくりよ。もう少し落ち着いた服持ってないの?」


「しかし、これは雷竜の王族である証だ。おいそれと脱ぐわけにはいかない。そんなに変なのか、この衣装は?」


 サイファーが真面目な顔で己の格好を確かめる。

 イシュタルはため息をついてしまった。

 サイファーは「俺、貴族! よろしくっ!」と歩きながら公言しているような服装なのだ。

 なにせ黒のジャケットスーツに、真っ赤な血のような外套を羽織っている。

 リリィも同じく派手な白のブレザーにスカート。

 こちらは黒い外套を羽織っていた。


「私たちは逃亡者なのよ。いつ追っ手が来てもおかしくない立場なのに、そんな目立格好してどうするのよ!」


「仕方ないだろう。これしか着衣は持ってないのだから。お前こそよくそんなもの持っていたな」


「旅の準備くらいしてから行動するわよ」


「ほう。気がまわるな。えらいえらい」 


「え? ふふん、あなたたちとは心構えってもんが違うのよ」


 サイファーはふざけてだが、褒められたのが嬉しくて、イシュタルは鼻を高くする。

 今のイシュタルはバーンの荷物袋に入ってあった平民の衣装。茶色い皮の服を着ていた。

 皇女としての高貴さは隠せないが、今では美しい平民くらいには化けている。

 

「褒められて嬉しいんですか、このおっぱいお化け。簡単に尻尾を振って情けない」


 と、これはリリアナだった。物凄く悔しそうな顔でイシュタルを睨んでいる。

 リリアナはサイファーの部下であり秘書でもある。本来こういった細々とした役割は彼女がこなし、サイファーに忠告する義務があったのだ。

 リリィはその仕事をイシュタルにとられたことになる。

 その女竜の怒りの表情に、イシュタルはなぜか優越感を感じてしまう。


「ふふふ。貧乳が何かほざいてるけど、聞こえないわね~」


「私の乳は大きい方ですが、何か?」


「あら、ごめんなさい。あまりに中途半端なんで目に入りませんでしたわ」


「ははは。いい度胸ですね。死になさい」


「何よ。竜に変身できないあなたなんか怖くもなんともないわ」


 リリィはイシュタルに竜化して戦いを挑んだが、その影響で後二日は竜化できないらしい。

 人間界の慣れない空気で、魔力不足なのだ。

 

「竜化できない竜なんて少し強いくらいの竜人と同じでしょ」


「へぇ、―――そう思いますか?」


 瞬間、リリィの身体が翻った。


「え? ちょっ」


 右足を軸に回転し、強烈な回し蹴りがイシュタルの顔面を狙う。

 踵がイシュタルの頬を少し凪いだ。


「あっ、危ないわねぇ!」


 驚異的な反射神経で避けたイシュタル。

 それをサイファーがにやにやしながら眺めていた。


「俺たちはこれでも五百年ほど生きてるんだ。人間形態になっても生き残れるよう、一通りの武術は極めているぞ」


「なにそれっ、聞いてないわよ!」


 リリィの凄まじい早さのラッシュを避けながら、イシュタルも反撃を加えていく。

 拳と拳がぶつかり合って激しい音がなる。

 リリィは本当に強かった。今まで戦ってきた女の中で、一番とも言えるほど。

 しかしなぜか、サイファーの隣にいるこの女に負けたくなかった。


(このっ、本気でいくわよ!)


 イシュタルは持ち前の強大な魔力を力に変換して、拳を突き出す。

 リリィも手加減ができないのか、こちらを殺しても構わないくらいの攻撃を繰り出してくる。


 お互い負けるのは死ぬほど嫌だった。


 だがそこで―――。


「ほら、そこまでにしとけ」


 サイファーが拳をぶつけ合う二人の足を一瞬で払ったのだ。

 

「ぐえっ」


「はわっ」 

 

 もんどり打って転がるイシュタルとリリィ。

 慌ててぶつけた鼻がどちらも赤くなっていた。

 

「なにするのよ!」


「ひどいです、サイファー様。ドMの私でも怒りますよ」


 勝負を邪魔された怒りでサイファーに詰め寄る。

 しかし、追っ手が迫っている現状を見て、愚かなことをしているのがどっちかは丸わかりだった。


「さっさと行くぞ。ただでさえ面倒くさいのに、お前のたっての願いで付き合ってやってるんだ。俺に面倒をかけるな」


 イシュタルの顔がまた真っ赤に染まって「あなたが仕切らないで!」と怒鳴り、やれやれとサイファーにため息をつかせる。

 この竜はもう既にイシュタルを自分のもののように扱っている。

 その態度に何様なのだと怒鳴りたい気持ちもあるが、どこか複雑な言いようのない不思議な気持ちもあって、彼女の心をかき乱してくる。


「べ、別に怒らなくたっていいじゃない……」


「あ? 聞こえなかった。もう一度言え―――ぶへっ!」


 サイファーの整った顔がキスするほど間近に接近してきて、さらに真っ赤になって驚くイシュタル。

 思わず殴り飛ばしてしまった。

 

「っ顔が近いのよ!?」


「お、お前……。本気で殴りやがったな」


「な、なによ。竜なんだから別に平気でしょ」


「人間形態時には普通にダメージくらうんだよ!」

  

 故意ではないにしろ誤って手を出してしまったイシュタルに呆れたのか、サイファーが彼女を無視してどんどん先に進んでしまう。

 ちょっとそのことで悲しくなるイシュタル。

 しかしそこですかさず、リリィがにやりと笑って……。


「ざまぁ(笑)」


「ウザイわねぇ、あなた……」

 

 サイファーがぼうっと歩き、後ろを女が二人が姦しく追いかけてくる。

 旅の一向は木々の中を悠々と歩いていく。

 目的地であるタイラント領の関所まであと僅か。

 しかし、その後ろにはニアが放った追っ手が迫っていた。




登場人物がまた増えました。

増やしすぎるとぐちゃぐちゃになるので、自重します。


一応登場人物紹介

主人公 サイファー

年齢 526だいたい

種族 純血の雷竜 

色 黒竜

身長 91レーレ(182センチくらい)

体重 7フィーゴ(70キロ)

レベル 31(しかし竜になればほとんど最強クラス)

雷竜王子であるので雷を操れる。

傲慢な性格で気に入った女の子を少し苛めるSな性格です。

究極のジャイアニズム。「お前はもう俺のもの」

これでモテるのだからイケメンは得ですね。

作者としてはこれからもっと成長して、女の子には優しくなって欲しいです。


ヒロイン1 リリアナ

年齢 490歳くらい(竜はあまり時間の概念が薄い。ちなみに500歳で一人前)

種族 雷竜と海竜のハーフ

色 白竜

身長 84レーレ(168センチ)

体重 秘密

BWH 82 52 84

レベル 28

サイファーの秘書。

銀髪クールなお姉さんって感じのキャラ。

ドMで少し変態なところもあるけど、作者のお気に入りキャラw

ヒロイン2であるイシュタルとはライバルですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ