第一章 B
不定期更新です。
ある程度プロットができたので、あとは心の赴くまま書いていきます。
今回はすこしシリアス。
フランベルジュ帝国は、アトランティス大陸最大の領地を誇る大国である。
獣人と純人族の国の北東に位置し、雄大なギレ山脈を越え、広大なガルラ穀倉地帯を抜けると帝都メナスがある。
メナスとは古代言語で『脅威』を意味する。
これは古代人がつけた名称で、五万年前に独立してできたこの竜人族の国は、竜の血を引いているというだけで多民族にとって脅威に見えたのだろう。その証拠に何回も多種族に侵略されており、かなりの回数その王朝を変更していた。
リリアナの竜化によって崩壊した城の周りには、深い堀が張り巡らされており、その城下には敵を侵入させないよう迷路になっている地区も見受けられる。帝都メナスの上流階級都市部には北海へと繋がるルイン川が流れており、倭国の商人たちとの公益拠点ということもあって、商売が非常に盛んだ。
その上流階級都市に、炎竜の名を冠するフランベルジュ帝国元右将軍ニア・ローベルの反乱軍がやってきた。
壊れた城の代わりに、貴族街で政務を取り仕切るつもりなのだ。
民衆は続々と長蛇の列を作り、都市に入ってくる兵士たちを憎々しげに見守っていた。
それはそうだろう。戦帰りの兵士なんてのは気が立っていて、平穏な生活を望む民にとって危険以外の何者でもないのだから。それに帝都の民衆はこれまで必死に獣人の国から祖国を守ってきたフランベルジュ皇家に恩を感じている。反乱軍のようなただの功名心で戦をしかけた野蛮人たちを、民衆はいたく嫌っていたのだ。
旧時代からある石畳の上を、今度は大きな馬車が通り過ぎて行く。
いや、馬車というよりは、巨大な牢屋を馬が運んでいるようなものだった。
牢屋の中には反乱軍によって捕らえられた将軍クラスの比較的高貴な身分の者たちが乗せられていた。
その後ろを縄をかけられた敗残兵たちがぞろぞろ歩いてついていく。
その周りを陸上用騎竜に乗った反乱軍の兵士たちが囲んでいた。
「―――っ、あれは!?」
民衆の一人が指をさした。
「い、イシュタル様……」
「ああ、姫様。おいたわしい……」
より警備が堅固な馬車が路上をカタカタと走っていく。
その牢屋の大きな格子窓から、民衆が慕うイシュタル・フランベルジュの横顔が見えたのだ。
彼女の足には逃走できないよう枷が付けられ、魔法がかけられた首輪を嵌められており、まるで奴隷のような扱いであった。
敗北すれば全て失うのがこの世の定めであるが、まだ十七の少女を虜囚のごとく辱めるニアに、民衆の反感が一気に高まったのは事実だった。
が―――。
「ん? 何見てやがる? 皇女の前にお前たちから処刑してやろうか」
禿頭の大男、ニアの副官であるゴルド・ファレスが大剣を振り回して威嚇してきた。
南洋の魔人族との海戦で活躍した傭兵あがりの竜人である。
勝てっこない。
竜人であり本能的にどちらの力が上か敏感にわかる民衆たちに、反乱軍の横行を止める術などなかった。
しかし、民衆がさらに驚くべきことがあった。
なんと鼻息荒くその後ろに獣人たちが姿を表したのだ。
「お、オークだ……」
「どうして、獣人族と反乱軍が一緒にいるんだよ!」
民衆の疑問は当然だった。
本来ニア・ローベルたち帝国騎士団は、はるか南、獣人族の国からやってくる略奪者である、あのオークたちから民衆を守る存在なのだ。
「……伝統まで裏切ったのか、反乱軍のやつら」
「オークどもと手を結びやがった……」
帝都の民衆たちは絶望に涙を流す者まで現れた。
オークを人間の里に入れて、無事に済んだ試しがない。
男や子供は殺され、女は犯される。オークの理性なき侵略に滅んだ村はたくさんあるのだ。
オークは獣人の国ディレイニアの北部にある山間部に広く生息しているが、その知能は人間の子供レベル。
神から力の代わりにその理性の大半を奪われた、生まれながらのバーサーカーである。
容姿は豚のような鼻の潰れた顔に、体中を覆う黒い獣毛が生えている。
筋骨は隆々としており獣のよう、なにより不潔で汚らしかった。
「売国奴……」
「始祖竜よ。どうか我らに救いを……」
ニア・ローベルら反乱軍に向けられる怨嗟の声は、この日夜が明けても聞こえてきた。
☆☆☆
貴族屋敷、ローベル家の客間でのこと。
「えらい嫌われようだな、お前。近々暗殺されるんじゃないか?」
このサイファーの問に答えたのは、反乱軍のリーダーその人だった。
「いえ、ご心配なく。暗殺対策はちゃんと練っておりますので、この館の警備は万全ですよ」
「ふんっ。リスクを承知で行動を起こしているのか。そのこすいところは評価してやる。確かにイシュタルなんかよりはお前の方が王に向いているのかもな」
サイファーたちが連れてこられた場所は、上流階級都市のかつてローベル家の別荘であった館だった。
魔界にある雷竜の本拠地、ギレスガンの居城にはない、人間族ならではの細工が館の隅々に施され、たくさんの美術品で溢れた内装。
様々な絵画や東洋の壺などが飾られており、とても財が豊富な家柄なのだろうと予想がついた。
その立派な館で、竜であるサイファーら二人の待遇は、さらに特別なものだった。
人間界はとても実りが豊かなのか、竜でも食べきれないようなフルコースの食事。
それにかなり古い年代物のワインが大盤振る舞いで何本も並べられた。
魔界には日がささず植物があまり育たない。よって農業は廃れており、これほどの贅沢な食事は王族でも味わえないのだ。
「いやぁ、まぶしい太陽! うまい飯! 最高だな、人間界!」
改めて人間界の良さを噛み締めるサイファーだった。
自然、もてなしてくれるニアにも『混血(竜人)なのに、中々気がきくな』と、気分が寛大になっていった。
ここらへん、接待をするニアの戦略上の勝利と言っていいだろう。
竜であるサイファーたちをうまく利用したい、という欲望がまる見えの策ではあったが。
「ほう。サイファー様のお父様は今まさに発情期であると? 竜人にもマスト(発情期)に近い名残はありますが、竜ほどひどくはありません。普段我ら男の竜人はマストを精神力でコントロールしておりますし、市販の薬で性衝動を和らげるものがありますので」
「なに! それは是非とも試してみたいものだ」
竜の世界と人間の世界の違いには驚かされた。
「ここから東の純人族の国は、フランベルジュ帝国よりも技術が発展しておりましてな。そういった薬や、機械とかいうカラクリまで幅広く売っているのです」
「ほう。ここらへんを観光し終えたらそこへ行くとするか」
今更ながら死界によって人間界と断絶された自分の故郷が妬ましい。
人間と貿易できれば、魔界ももっと発展するのではないだろうか。
「サイファー様は人間界へ観光に来られたのですよね? 宜しければわたしが案内しますが」
「おお、よきにはからえ~」
ニア・ローベルは反乱軍の長なんて立場の輩なので、もっと強面のオッサンかと思ったら、意外に渋めの中年オヤジでサイファーががっかりしていた。盗賊の親分みたいないかにも雑魚っぽいのを期待していたのだ。それどころか別に体を鍛えているわけではなく、眼鏡をかけた魔法使いっぽい出で立ちで、軍を率いるよりは本でも読んでいたほうがよほど絵になるだろう。
「わたしは戦いではあまり矢面には出ず、軍師として皆を率いておりますので……」
「ふーん。それで騎士を名乗れるものなのか」
「剣技ならばイシュタル皇女が一番なのでしょうが、魔法ならばわたしが一番でしょうね」
「魔法使いか。竜人にしては珍しいな」
竜は強力なブレスが使えるかわりに、魔法が一切使えない。まあ、その代わり魔法を一切無効化するほど固い皮膚を持っているわけだが。
その血を引く竜人も最初は魔法が一切使えなかったのだが、ある時竜人が魔術式という魔力で描く魔法の公式のようなものを発明し、それから竜人でも魔法が使えるようになったのだ。
魔人族などは魔術式がなくとも、体内の魔力で魔法を自由に使いこなせるが、竜人にとって魔法は魔術式がなければ成しえない奇跡だった。
「…………」
リリィは反乱軍なんてものに興味はなく、ひたすら館の調度品をぶらぶらと眺めていた。
特に置き時計が気に入ったようで、じっと振り子が揺れる様子を見つめている。
「……リリアナ様。気に入ったのなら、差し上げますが」
「いえ、いりません。竜には時間の概念が乏しいので、物珍しかっただけです」
「あー、確かに魔界には昼も夜もないからな」
サイファーが何気なく言った言葉だったが、ニアはそれをとても興味深そうに聞いていた。
おべっかばかりの野郎だったが、魔界の話には興味が本当にあるのか、瞳を子供のように輝かせていた。
「良ければ魔界のお話などをお聞かせ願えないでしょうか。我ら竜人と言えども、今まで一人も魔界に行って帰ってきた者はおりませんので」
「つまらん場所だぞ。一日中真っ暗で、雨は滅多に降らない。魔物がそこら中に巣を作っていて、縄張り争いをしている不毛の地だ」
魔界にも種族同士の領土争いは頻発しており、いつもそこら中で戦争をしていた。
竜族を頂点に、百を超える魔物の種類がおり、弱肉強食の掟の元、戦いながら生きている。
「それはなんとも過酷な場所ですな。人間界に住む我らでは到底住める環境ではなさそうだ」
「ああ、人間が観光するには不向きな場所だな。弱い者は瘴気混じりの空気を吸ってお陀仏だ」
「残念ですね。一度竜の故郷をこの目で見てみたかったのですが……」
その時だった。
「―――面談中、申し訳ありません!」
反乱軍下士官がいきなり扉を乱暴に開いて入ってきたのだ。
ニアは「食事中に失礼」と一言詫びて、兵士を奥に呼ぶ。
「何事ですか?」
「そ、それが……イシュタルを地下牢に放り込んだのですが、暴れてしまって手に負えないのです」
「ふぅ……、あの方も困ったものだ。始祖竜レアスの系譜にあたる者がなんと往生際の悪い」
「腐っても皇女です。あの方の魔力は半端ではありません。いつ牢を壊されるか……。それと、なにやら独り言をぶつぶつ呟いて。なんだか気味が悪いんです」
兵士がぶるりと体を震わせた。
「わかりました。わたしが行って彼女の魔力を完全に封印しましょう」
「お願いします」
兵士が心底頼み込むように、ニアに礼を言って去っていた。
ニアはサイファーとリリアナに頭を下げる。
「申し訳ありません。お二人はこのままお食事をお続けください。わたしは少し野暮用ができましたので……」
しかし、サイファーは首を縦にはふらなかった。
「いや、俺も行こう」
「「サイファー様?」」
リリアナとニアの声が重なった。
リリアナとしては『あんな女に何の用だ?』という気持ちで、ニアにすれば『面倒くさいことになりそうだ』という気持ちなのだろう。
どちらも良い顔はしていなかった。
「なに。食後の暇つぶしだ。それにあの女はこの俺に無礼を働いた。一度その面を改めて見ておきたくなってな」
「は、はぁ。それぐらいでしたら構いませんが……」
ニアが怪訝そうな顔でまじまじとこちらを見てくる。
竜と言っても色欲には弱いのか、というような表情だ。
「捕虜への性的暴行は禁止されております。まさかとは思いますが……」
「馬鹿が。発情期でもないのに、そんな簡単に俺が色気に酔うか!」
「そ、そうですか。申し訳ありません」
リリアナは『サイファー様はいい女に弱いですから……』とため息をついていた。
「くくく、リリィ。あいつは俺の記念すべき初めての生贄だぞ。言わば俺の所有物だ。せいぜい好き放題遊ばせてもらうさ」
サイファーは酷薄そうな、竜としての暴君の顔を見せた。
反対にリリィはツンとしてこちらを向かない。
「……どうぞ、サイファー様のお好きなように。どうなろうと私は知りませんよ」
「そう拗ねるなよ」
「ぷんぷん」
「いや、可愛いけれども。お前の表現は古くないか?」
「五百年近く生きていますので……」
「もうお婆ちゃんだな」
「殺しますよ?」
「すみませんでした!」
実際サイファーはあのイシュタルという少女がどうなるのか気にはなっていた。
恐らく処刑されるのだろうが、あんないい女簡単に殺すようではつまらん。
所詮会ったばかりの混血の女だが、ニアがいらんというのであれば、魔界に連れ帰ってメイドとして飼うのも一興くらいの考えだった。
あくまで人間界観光のお土産的な。それか、ペットとしての感覚であった。
基本優しく紳士的であると自称しようが。
良くも悪くもサイファーは竜。
魔物の王族。
略して魔王。
人間に対しての情など欠片くらいしか持っていなかった。
そう、まだこの時は……。
☆☆☆
サイファーとニアが歓談していた時。
イシュタルは密かに脱出計画を練っていた。
腕には重い枷、首には封印の呪の輪をつけられ、満足に力を使えなくされていた。
牢の中は意外にも綺麗に整えられており、ベッドもトイレも掃除されていた。
だが、凶器になるものや、牢の破壊に使えるようなものは一切撤去されており、門前には兵が三人。
これでは逃げ出すことは絶望的に近かった。
だが―――。
「ふんっ、っせいやぁ!」
イシュタルは諦めなかった。
「でやぁ! とう!」
なんと固い堅牢な鉄格子に向かって、なけなしの魔力と力でもって蹴りをいれる。
美しいドレス姿で、お姫様的にありえない掛け声を上げながら突進する姿は、とてもシュールであった。
しかし、兵士たちは気が気ではない。
「こら! やめろ!」
「牢が壊れるっ!」
竜人族フランベルジュの血を引く最後の皇女はありえないほど強かった。
首輪によって大幅に力を吸収された状態で、なお普通の竜人の二倍ほどの強さを誇る。
「ふぅ、疲れた……」
格子に僅かひびを入れると、イシュタルはパタリとベッドに倒れ込んだ。
力を使い果たしだのだ。
「ちっ、ビビらせやがって……」
「おい! 早くニア様呼んでこいよ! あのお転婆の力をさらに封印してもらわないと、もう牢がもたねぇ!」
「化物か、この女」
見張りの三人の兵士たちが好き放題言い、ニアを呼びに駆けていく。
イシュタルはそれを全く無視していた。
こんなところで無駄な力を使いたくはなかった。
と、その時だった。
『―――姫。相変わらず無茶ばかりしておられるようですね』
格子窓の外から、バサバサという、大きな鳥が羽ばたくような音が聞こえてきた。
『本当にお久しぶりです』
いきなりイシュタルが耳にしたその声は、心の中だけで聞ける念話の類。
恐らく普通の人間ではないのだろうが、イシュタルはこの声の主に覚えがあった。
「バーンさん!」
イシュタルが喜びを爆発させて、格子窓に飛びついて外を覗く。
すると―――。
『大きくなられましたね。見違えるようです』
滑らかな緑の皮膚に、トカゲのような尻尾。
呼吸と一緒に、口から炎を吐く獣。
大きな竜……。
いや、巨大な雌のワイバーンが、五メートルはありそうな翼を横に広げ、優雅に空を舞っていたのだ。
「バーンさんも久しぶり。元気そうね」
『ええ、この通りですよ。しかし、……五年のうちに帝国も随分荒れましたね』
「ごめんね。この国をこんなにしちゃって……」
『姫のせいではありませんよ。全てはニア・ローベルの……あの売国奴のせいです』
イシュタルがバーンさんと呼んでいるのは、このワイバーンに彼女がつけた愛称だった。
ワイバーンとは竜の亜種であり、高い知能を持ちながらも人間に変身できないものを言う。
サイファーら本物の竜はワイバーンのことを、雑種、劣等竜などと酷い呼び方をしているが、竜人にとって彼らは友人と一緒であった。
彼らも祖に暴虐竜レアスを持ち、元々は同じ竜人と同じ系譜の竜なのだ。
竜人とは魔力を扱え怪力でのみ、特殊な人種と判断されるのではない。
竜人とは他の竜種と話ができ、その力を借りられる者のことを現代ではそう言うのだ。
『なんとかここから出られませんか? イシュタル様は明日には処刑されてしまうのでしょう』
「ええ。でも、私は絶対に諦めないから。バーンさんもどうかフランベルジュを見捨てないで、力をかして」
『もちろんです。私はイシュタル様の騎竜ですから』
バーンは長く突き出た二本の角を、忠誠を誓うようにイシュタルに向かって下げた。
これがイシュタルが竜騎士として認められている証拠でもあった。
『それよりも、噂で聞いたのですが。本当に竜族を、しかも二体も召喚したのですか?』
「ええ。……性格のすっごい悪い奴が出てきたわ」
イシュタルが顔をしかめて言った。
『はぁ……。よくご無事でしたね。竜は良くも悪くも皆支配者なのです。特にオスの竜はひどく傲慢で気性が荒い。気に入らない竜人なんて鼻息一つで消し炭にされます』
バーンが緑色の竜の皮膚を震わせて、怯えて見せた。
ワイバーンは竜にとっては下僕のようなもの。
絶対に逆らえない魔物の王であるからだ。
「そ、そんなに怖いの?」
『クラスによります。王族レベルの竜には絶対に逆らわないでください。彼らは生まれながらの暴君。魔王ですから……』
―――魔王。
魔界の王の意味であり、正式には魔竜王。十万年前に人魔戦争を起こした引き金になった理性を失った竜のことである。
人間族の半分が殺され、竜に奴隷にされた戦争が人魔戦争。
結果はかろうじて人間界の勝利。
神族の調停があったからこそ人類は助かったが、神族の援軍がなければきっと全滅していただろう。
竜族は竜人にとって神の使いとされているが、それでも恐怖の対象には違いなかった。
「う、うーん……。リリィって女は怖かったけど、サイファーって男の方はあんまり怖くなかったんだけど」
『見た目で判断しないでください。サイファー……。どこかで聞いたことがあるような……』
「え? あの優男、そんなに有名人だったの」
『たしか、死界の門でサイファーとか言う竜の噂を聞いたことが―――っ!? だれか来ます! 私はひとまず隠れますので』
そう言って、バーンは遥か上空に飛び去っていた。
「あっ、……行っちゃった」
少し心細げにイシュタルはつぶやいた。
バーンは初めて契約した彼女の騎竜であった。彼女ほど頼りになる存在はいない。
できれば今この時、ずっと一緒にいて欲しかったが、そんな甘えは許されない。
覚悟して、牢の格子ごしに、やってきた男を睨みつける。
「この裏切り者……」
そこには反乱軍のリーダー、ニア・ローベルの姿があった。
イシュタルは呪を込めるように、男を睨む。
「おやおや。皇族として失格のあなたにそんなことを言われる筋合いはありませんなぁ」
「あんな剣一本抜けないからって何よ! あなたが乱を起こす理由はただ一つ! その薄汚い征服欲からでしょうが! この、魔人族の手先め!」
実はこのニアという男。魔人族と竜人族のハーフだったのだ。
「愚かな女だな。相変わらず……」
「あなたには負けるけどね」
罵り合う二人。
しかし、そこに。
「ちっ、元気そうですね。……あの時殺しておけばよかった」
「まぁ落ち着け、リリィ。竜としての威厳はどうした」
「ええ、私は気にしてませんよ。所詮この女はペットのようなものですもの」
「そうそう」
「そして、サイファー様は私のペット……」
「うぉい!」
またも腹がたつほどの呑気そうな話をした竜族の二人が現れたのだった。
ヒロインはリリィ、イシュタル、他三人か、四人ほど女の子が出てきます。
ハーレムです。
そういうの嫌いな人ごめんなさい。