第三章 A
今回長いです。
気長に読んでくれたら嬉しいな。
それとPOVが二ヶ月で七万越えてもうすぐ十万いくかって勢いです。
どうやってPOVとかユニーク見れるか今まで分からなかったw
あんまり期待してなかったから、すごく嬉しいぜ!
黒々した凶器の波が山道を埋め尽くし、大地を蛇のように畝って進軍していた。
タイラント領のちょうど南西にあるエスミリア領。そのドラクロー砦からさらに飛竜や翼石竜など、航空騎士隊が飛びたっていく。
おびただしいほどの兵がすぐそこに迫るタイラント討伐戦の準備にとりかかっていた。
兵が持つ旗は紅蓮に輝く竜の紋章。ローベル家由来の炎竜の紋章だった。
ドラクロー砦から真北にあるギド平原、そこにリンドブルム(陸戦用騎竜)を中心とした竜騎兵部隊が五千。長槍を装備して一列に並んでいる。
そこから左翼に竜人と魔人の援軍を足した混成部隊一万。魔法攻撃や補助魔法を唱える魔道士の軍勢だ。
右翼には血と肉に飢えたオークたち約一万。今にも突撃しそうな勢いで、雄叫びをあげている。
その後方には飛竜部隊が続々と集結中であり、ニアたちの本陣もそこに位置している。
合計約三万もの兵員が投入されたことになる。
対するタイラント軍は多く見積もっても約三千。守りに硬い地竜の系譜の兵たちとは言え、十倍もの戦力で攻められれば一溜まりもあるまい。
どうやらエリスはイシュタルたちと合流したようで、士気が上がっているようだが、この大軍を相手にどれほどのことができるというのか。
ニアは真正面に位置するタイタン・ディスラッケン山脈を睨んだ。
タイラント領南部にあるエルイラ山と合流するように小高い山々が連なっている山脈だ。
小癪にも士気が上がっているうちに兵たちを前線投入したようで、その山脈の頂上付近に敵の砦が見えた。
山の木々で作ったのか、丸太を並べて矢よけにし、即席の投石機まで用意している。兵員はおよそ五百ほどか。ちらほらと弓を構えた兵士たちが警備しているのが見えた。
恐らくは山には様々な罠も仕掛けていることであろう。
ゴルドの部下たちを斥候にやっているが、ほとんどが帰ってこない。捕まったか、殺されたか。どちらにせよ、攻めるには相応の犠牲を覚悟せねばならんだろう。
目は敵陣に向けたまま、ニアは隣にいるゴルドに話かけた。
「ゴルド、戦女神はまだ来ないのか?」
「へぇ、なんでも竜たちがタイラント領に着いたってことで、そいつらの様子を見てくるって言ってやした」
「ちっ、あの馬鹿女神。こっちは戦争始めるにしても、あいつの合図がいるっていうのに」
ニアは口汚く、女神を罵った。
そう、人間界で戦争を行うにあたって、天界が決めたルールがある。
戦女神の正式な許しがあって、やっと戦争が始められるのだ。リューネが「はじめ!」と言った瞬間に、両軍がぶつかりあうのが常であったが、最近はやや時間をおいて奇襲やら夜襲やらをかけることも可能になってきた。
とにかく戦女神は正々堂々という無駄な仁義感を戦争に持ち込んでおり、ニアたちのように相手の裏をかいた戦法が取りたいなら、なるべく戦女神に見つからないよう準備しておくことが必要になる。
捕虜の扱いももちろん天界で法律があり、虐殺や陵辱は禁止。
オークたちのように本能で動いている者たちが率先してその法を破りがちであり、ニアはこの豚人間たちをどうやって纏めるかが問題になっていた。
「獣人ども、早く暴れたくてうずうずしているな。これ以上戦を先延ばしにしたら、あいつらが暴走しかねない」
「おれたちゃ普通に娼館に通えやすが、あいつら獣人に抱かれるのは娼婦でも嫌がって。近隣の村の女たち攫ってきてやがるんですよ、こっそり隠れてね」
「それくらいで済んでいるのなら僥倖だ。奴隷や娼婦たちに金を回せ。十分な金さえ払えば獣人にだって股を開くような連中だ」
「へぇ、気前のいいこって。ったく、オークは力だけなら五種族の中で一番ですが、軍として統率なんてとてもできやせんね」
「奴らは所詮捨駒だ。前線で喜んで突撃して死んでくれる」
「ちゃんと突っ込んでくれたらいいんですがねえ。あいつら放っておくと同士討ちまではじめやがる」
「…………あと少しの辛抱だ。ここで油断するわけにはいかないのでな」
イシュタルと竜たちがタイラント兵たちを率い挙兵したという報が各地を巡って、あちらこちらの領土で反抗の兆しが出ている。一度裏切っておきながら諸侯は今だに皇族というものに忠義を感じているらしい。まったく愚かなことだ。
そいつらのおさえに反乱軍の大半を割いている現状では、ディレイニア国から続々と援軍に現れるオークたちの群れは心強い。
臭い獣でも、馬鹿と刃物は使いようである。
「で、戦争が始まったら、大将はどうするんで? このまま全軍突撃で終了ですかい」
「ああ。それが王道だろうな」
「うへぇ、あの罠だらけの山を登っていくんですかい。そりゃきつそうだな」
「城攻めとは本来そういうものだ」
山頂に砦を構えるタイラント軍は少数ながら、かなり防御の硬い布陣をひいている。
攻撃には守備の側よりもおよそ三倍の力が必要なのだ。
優れた策略家がよく王道や正道というものは読みやすく罠に嵌めやすいと思っている。しかし、それはある意味間違っている。
なぜ王道などと呼ばれているかというと、その方法が一番優れているからこそだ。
奇兵をもって大軍を制すというのは、いかにも英雄叙事詩として格好良く映るが、奇兵は正道をもって封ずるという言葉もある。
奇兵戦術はよく戦力を小出しにしてしまいがちだが、これは戦争で一番してはいけない愚策で、ほとんどの歴史で各個撃破されている。
一極集中。
戦力は油断なく容赦なく、全力で敵軍にぶつける。
それが最上の戦術なのだ。
「戦女神が戻りしだい総攻撃に入るぞ。準備をしておけ」
「へい。で、―――帝都での召還の件で報告がありやして……」
ゴルドが声を潜めて、本陣の将軍たちに聞かれないよう気を配った。
ニアも鋭い瞳にさらに冷たい光を宿らせた。
今帝都で実験していること、それは竜を召還することであった。
「皆の者、少々この場を外してもらいたい」
「は、はぁ。ですが、まだ陣構築が済んでおりません。我々がここを離れては……」
今は休憩時間とは言え、ここで部隊長らを本陣から遠ざけるのはよろしくない。
居並ぶ将校たちも戸惑うような視線をこちらに向けてきた。
「いいか。二度は言わない。今すぐここから出て行け!」
「はっ、ははぁ!」
ニアが一喝すると、額に汗した将兵が全員本陣から退出していった。
彼らにすれば正式な将である自分たちよりも、傭兵からの成り上がり者であるゴルドを重用するニアが許せないのであろう。不満がありありと顔に浮かんでいた。
戦争が始まる前に、部下に不信感を与えるのはまずい。
だが、ゴルドの情報の重要性はトップクラスで、ニアの今後の進退をも決するものであったのだ。
「邪魔者は消えた。結界も張ったから安心しろ」
「へい。ああ、俺はああいう堅苦しい連中が大嫌いでね。すかっとするぜ」
「無駄話はいいから、さっさと話せ」
「へへへ。こりゃ失礼」
ゴルドは全く反省した様子がない。
これもいつものことだが、緊迫した空気でこの男の飄々とした姿がニアにはひどく癇に障った。
「おおっと、そうかっかしなさんな。……召還は失敗。どうやら魔力不足らしいですぜ」
「魔力不足? 帝国自慢の魔道士百人の魔力だぞ。それでもか」
「へい、竜二匹を召還して平気な面してたあの姫さんの魔力が異常なんでしょう」
「イシュタルめ。まさかこれほどまでとは……」
ニアの奥歯からがりっと音がする。
知らず、強く噛みしめていたらしく、血の味がした。
ニアは魔人と竜人のハーフである。自分の魔力や魔術というものに、プライドを持っており、竜人最強の魔術師として自己を見ていた。
だが、そんな自分にだって、竜二匹を召還するなどといった化物級の魔力はない。
フランベルジュの皇族の血統が持つ莫大な魔力にニアは嫉妬したのだ。
「……ろせ」
「はい? 今なんて言いやした?」
「……帝都住民を千人ほど殺せと言ったのだ。竜召還儀式の生贄に捧げる」
「ちょっ、大将! それは……」
ゴルドほどの卑劣で鬼畜な男が珍しく狼狽えていた。
それを見てニアは面白がり、多少自分の溜飲を下げる。
「お前ほどの男が何を怯える? 何を躊躇する?」
魔力というものは科学的にはこのアトランティス大陸にある魔粒子という原子にも似た粒を体内に取り込むことで生成するものである。
竜の系譜の者は魔力を外に解放し、魔法という形で放出することができない。
魔術公式という魔力で描く術式をもって、やっと外に魔法を具現化することが可能になるのだ。
しかし、この公式は難解であり、一般庶民が学習するなんてことはほとんど不可能。
なので自然魔力は彼らの長い人生の中で大半は使われず蓄積されていることになる。
その莫大な魔力を千人もの竜人から絞りとろうと言うのだ。
「はははは。どうだ、簡単であろう? 一般市民を手にかけるのが嫌ならばスラムにいる者たちや奴隷を狩って集めるがいい」
「……恐ろしい人だな、あんた。俺もイッちまってるが、大将、あんたはさらにその上をいってるよ」
「くくく。今更恐ろしくなったか」
「へっ、これくらいでビビってちゃ傭兵なんてできやせんよ。わかりやした。帝都の民千人、殺すよう俺の部下に指示を出しやすよ」
「それでいい」
ニアは満足そうに笑った。
この身は竜人と魔人との間で常に揺れ動いてきた。
迫害され虐げられ、その結果、我が心に残ったものは一つだけ。
―――憎悪だ。
その頃、同時期のこと。
魔界―――魔大陸の東海岸沿いにあるアビスデス城。
真っ黒に塗られた外装は暗い空と同化し、薄い瘴気の光を帯びて禍々しく聳え立っていた。
その尖塔にある一番豪奢な作りの真っ赤な扉の部屋。
人間界から死界を隔て、遠く離れたこの場所で一つの事件がおこることとなった。
「サイファー様はお留守なのかしらね。……いえ、それどころか魔界から気配が消えていますわ。あらあら、これはどういうことかしら」
漆黒のドレスに、漆黒の羽。
全身暗黒色に包まれながらも、彼女の肌は魔界の大地にあってさらに純白に輝いていた。
体中からどす黒い魔力が溢れ、彼女を中心に渦を巻いている。凄まじい魔力だ。
圧倒的な禍々しき黒と、穢れなき純白。
魔界の姫君が持つこのコントラストが、見るもの全てを引き付ける美しさを放っていた。
この少女の名はフェンリル・カリウス。年齢610歳でもう成竜のはずだが、どこかぽわぽわした感じのお嬢様。
次期黒竜王である父ジルクと同じく、黒竜である母マリネから生まれた純血の黒竜だった。
竜の中で他種の血が混ざっていない竜は純血と呼ばれ、大変希少な存在だった。
竜は近年滅びの危機を迎えており、雄が全然できず雌ばかりが生まれたり、純血の竜がほとんどと言っていいほど生まれなくなっている。
魔界の環境がさらに悪化してきて、竜の遺伝情報がおかしくなるほどの瘴気が充満してきており、食糧の質も落ちて、雄雌共に子を育める状態ではなくなってきたことも原因の一つだ。
魔界には今二つの勢力がぶつかり合い、数少ない竜の同胞を殺している。それは出来る限り新鮮な食糧を手に入れて、汚染されていない土地を見つける為のことだった。
一つは雷竜ベルーフ一族を中心とする魔大陸エービルロア西側を征服する者たち。雷竜と海竜、それから他にも炎竜やら地竜が仲間についている連合軍だ。
もう一つがフェンリルの同族黒竜を中心とする東側を征服する竜族。主な仲間は魔竜と甲龍。戦力的には雷竜に少し劣っていた。
今現在は休戦中。
なんでも雷竜王カインが発情期を迎え、その子サイファーはどこか旅に出てしまったとか聞いている。
王含め王子、国のトップが全て不在なこの状況は、黒竜一族にとって奇襲のチャンスである。事実フェンリル自身もモンスター勢十万を連れて活火山まで進軍していた途中だったのに、いきなりアークの停戦命令が出てひどく驚いたものだった。
それにしても、不思議なのはサイファーだ。
フェンリルの羽はありとあらゆる影につながっており、魔力を通した探知機となっている。要するに影のあるところにあるものなら何でも把握できる能力が備わっているのだ。
魔界のような真っ暗な大陸で、フェンリルに見つけられないものはない。
だが―――サイファーらしき人物の影や形、魔力すら微量も見つけることができないなんて。
と、ここでいきなりフェンリルの集中を破る声が聞こえた。
「―――お前も気づいたか?」
「……っ、お爺様! もう、ノックしてくださいっていつも言ってますのに」
フェンリルの前に現われたのは、彼女と同じく漆黒のマントと漆黒のスーツに身を包んだ老人だった。
顎と口には豊かな白い髭を蓄えており、銀色の髪はオールバックにしてなでつけている。
老貴族。
その理想のあり方を体現したかのような男。しかし口調はひどく乱雑で盗賊のような喋り方だったが。
いつの間にか黒竜王アークが扉を開けて入ってきていたのだ。
サイファーを見つけるため必死になって遠くの影を探っていたため、近くにある異変に気付かなかった。
アーク・カリウス。
過去数千年にわたって黒竜一族を率いてきた老成竜。雷竜王であるカインが現れるまで竜内で最強だった男で、その政治手腕や智謀でも飛び抜けた実力を持っている。
「ぐははは。お転婆娘がいよいよ色気づきおったか。その女らしさをあのガキにも見せてやればよい。すぐにお前に惚れよるわ」
「ガキだなんて。サイファー様はもう立派な成竜でしてよ」
「わしに言わせりゃ、あいつもまだまだケツの青いガキンチョさ」
「……まあ、ケツだなんてお下品ですわ。でも、そのガキンチョに大切な孫娘を嫁に出すつもりなのですね、お爺様は」
フェンリルは口調だけ拗ねたように言ってみたが、その実何も怒ってなどなくただの戯れのつもりだった。
竜の王族の姫として生まれ贅沢をしてきた以上、自分の結婚相手に注文をつけるなど愚の骨頂。それにサイファーという雷竜王子が彼女は嫌いだなんてとんでもなく、むしろ年下なのに好感の持てる好青年だと思っている。
孫娘の心中を良く分かっているのか、アークもまた白い髭をこすりながら豪快に笑った。
「ぐはははは! 気に入らぬならお前が一端の男に育ててやれ。男を堕落されるのも女であり、出世させるのもまた女だ。腕の見せどころじゃぞ」
「わたくし夫で苦労するのは御免ですわよ」
「ふふん。婆さんと同じことを言いよるな。……まあ、安心しろ。あのガキなら幸せにしてくれるだろうさ」
と、途端遠い目をしてニヤリと口角を吊り上げるアーク。
目が鋭く尖り、体中から漆黒色の魔力が溢れ、老人の体からは信じられないほど大きな翼が現われた。
頭から巨大な角が出て、犬歯が牙として口から飛び出す。
興奮しているのだ。アーク・カリウスが、黒竜王としての冷静な自分の祖父が、戦闘本能をむき出してにしている。
フェンリルはアークの真っ赤な血のように染まった瞳を見てウットリとする。やはり竜は本能の赴くまま、戦闘行為に耽り、血と暴力に酔う姿がたまらなく素敵だ。
サイファーなどは嫌戦的な指導者らしいが、そこだけはフェンリルと考え方が違っている。
結婚したならそこらへんを突き詰めて議論してみたい。
「あのガキ、何十年か前だったな。初陣のくせにわしとタイマンはりやがってな」
「ええ。有名ですわよ。お爺様に手傷を負わせたんでしょ」
サイファーが竜族の中で実力が認められるようになったのは、今から56年前のミレドミアスの戦いだ。政治家戦略家として次期雷竜王子の名前で通っていたサイファーがあの初陣で一気に武将としてもデビューしたのだ。
死界と魔界の狭間の海域であるミレドミアスで、単身サイファーは殿をつとめ、黒竜一族の配下である魔物数万を相手に戦い続けた。
そこでアークとサイファーは一騎打ちに望んだのだ。
まあ、結果は当然のことながら黒竜王の勝利。まるで歯が立たなかったと言うが、アークは首を横に振って答える。
「あのガキ、ブレスこそまだひょろひょろの豆鉄砲みたいなもんだったが、わしの攻撃を掻い潜りなんと思いっきり噛みついてきおった。ぐははははは! この黒竜王相手にじゃぞ! ほんに良い度胸であったわ!」
「ふふふ。その話は何回も聞いておりますわ。でも噛みつくなんて野蛮だわ。竜の攻撃はやっぱりブレスでしょ」
「あのガキンチョもそう思っていたらしい。盛んに雷撃を撃ってきおったが、当たらなければ意味がない。それならばと潔く接近戦を挑んだんだろう。ありゃあ良い判断だったと思うぞ」
「うーん、お爺様相手に噛みつくなんて正気を疑いますわ。……でも、一度攻撃をくわえただけで、えらく評価が上がっていますわね。そんなに痛かったんですの?」
「うんにゃ、蚊に噛まれたようなもんだった」
「あ、あらそうなの。ならどうして……?」
―――どうしてわたくしを彼の嫁にしようと思ったのか?
これは一度祖父に真剣に尋ねてみたかった質問の一つだ。
確かに黒竜一族と雷竜一族を結びつける意味において、この婚儀は非常に外交として意味がある。
だが、この祖父は元々雷竜殲滅もしくは征服論者だったのだ。カインとは犬猿の仲で、会うたびに殺し合いしそうなくらいであったと聞く。
それがカインがセフィラという身元不明の雌の竜を娶って、サイファーを産んだあたりからなぜかその態度が軟化してきた。
サイファーとフェンリルの弟であるオルグが親友として一緒に遊んでいた時も、それを何も言わず黙認していた。
そしてミレドミアス戦争の後、すぐにフェンリルとサイファーの結婚を推し進め始めたのだ。
「あの時は突然だったから聞かなかったけど。ねえ、どうしてなんですの?」
「……簡単だ。あいつがわしよりも強くなるからだ」
「え? まあ、そりゃあお爺様はもうお歳だもの。いつかはきっとサイファー様に追い抜かれるでしょうね」
「そういう意味じゃねぇ」
アークは戸惑うフェンリルは眼中にはないようで、その目はどこか遠くを見つめている。
何か謀略や竜族全体のことを考えている時に、よくああいう目をしていたことを思い出す。
「あいつはあと百年もすりゃあきっと俺よりも強くなってるさ」
「まさか! ありえませんわ」
「いいや、十分ありえる話さ」
フェンリルはあまりのことに呆然としてしまう。
竜とは大抵の場合は強さというものは年功序列制で決まっている。幼生体から成竜になって力が倍増して、さらに千年単位で体が大きくなっていき、魔力も増大していくのだ。
たまにカインのような天才が現れるが、それでもある程度の年月がなければ竜は成長しないようできている。
それなのに……。
「あのガキの才能は半端じゃねぇ。サボってたんなら知らねぇが、あの頃から鍛錬を続けてたら間違いなく強くなっているはずだ。あいつはな、自分よりもレベルの高い強い奴と戦うたびに、跳ね上がるように実力を上げやがる。多分血の成せる技なんだろうがな」
「血の……?」
「おう。だからフェンよ。さっさとあのガキを誘惑して発情させちまえ」
「…………」
いきなりのアークの開けっぴろげな発言に、フェンリルはほわほわした笑顔のまま凍りつく。
祖父の下ネタ発言はいつものことだが、これはあまりにも酷過ぎるだろう。
というか、自分の孫娘に対して、よくもこんなことが言えたものだと呆れてしまう。
「あのガキも竜であることには違いない。まあ多少特別な血筋だが、発情させれば百発くらい犯らにゃおさまらんだろう。ぐはははは! そんで胤をつけてもらって、わしに曾孫を抱かせんかい」
「……っ、最低ですわ! お爺様とはもう二度と口を聞いてあげません!」
「ぐははははは! まだまだお前もガキだのう! あの小僧とお似合いじゃ!」
「もう! 知りません!」
フェンリルが祖父の顔を見るのも恥ずかしくて、奥の部屋へ篭ろうとする。
扉を締めて、魔力による鍵もかける。
しかし、扉を挟んでまだ祖父の馬鹿笑いが聞こえてきた。
「~~~~~~~~~っ」
いらいらしてフェンリルはベッドの中へ飛び込んで、耳をふさぐ。
しかし、その一瞬前に祖父の口から意外なことが聞こえてきた。
「―――あのガキは恐らく今人間界だ」
「え?」
フェンリルは慌てて飛び起きて祖父の声に耳を傾ける。
人間界……。
魔界にはない太陽が頭上にあり、緑輝く美しい所らしい。
そこに、自分の婚約者―――サイファーが召還されて旅行に行っているという。
(―――そんなっ、わたくしもぜひ行ってみたい!)
「こっちからは結界が邪魔で会いにいけねぇ」
「う……忌々しいですわね」
おのれ、天界の神々め。
竜をこの汚い魔界に閉じ込めて、人間にだけ優しくして。
サイファーがあのお付きの下女、リリアナと一緒に数百年後帰って来るまで、自分は魔界で留守番かと思うと泣きそうになった。
いつの間にかサイファーのことが大好きになっていた彼女は、リリアナと人間界へ嫉妬の炎が燃えていた。
いっそのこと、魔界から死界の結界へ総攻撃をかけてみようか。
あれも所詮大神が残り僅かな寿命を割いて張っているもので、竜全ての強力なブレスに耐えられるか今はもう分からないくらいに衰えていた。
「だが、一つだけ方法がある」
「っ、それは一体なんですの?」
「誰かは知らねぇが、また俺たちを召還しようって輩がいやがるらしい。死界の南東の海の祠に行ってみな。そこに何箇所か招聘の門が現れるらしいからよ」
アークの言葉は半分聞こえていなかった。
一瞬でフェンリルは寝室の窓から飛び出し、準備もそこそこに竜の姿に変身して西にある死海へ向かって翼を広げる。
ここに黒竜一族が姫、フェンリル・カリウスが人間界へと降り立とうとしていた。
それもニアたちの側の召還によって。
竜と人間が互いに接点を持とうとしていた。
それを止めだてする神はもう力尽きようとしている。
世界が再び、竜と人間の間で揺れに揺れようとしていた。
ハーレムとはただ男を女で囲んでうはうはするものではない。
後宮は後宮なりにひどい権力争いがあり、女は女で戦っている。
だがしかしラノベでそういった生々しいものを表現するのはいかがなものか。
といったような友人の論評はおいといて、人物紹介いきましょう。
フェンリル・アーク
年齢 610歳
種族 黒竜
色 漆黒竜 真っ黒です。暗闇の中ですと見分けつかないくらい
身長 173
体重 秘密 「調べたりしたら殺しますわよ」
BWH 90 56 88
レベル 35
漆黒姫のあだ名を持つ女の子。女性の竜の中ではこの娘が一番強いのかな。
影を自由に操れて、諜報関係なら抜群の能力を持ってますね。
結構身長が高くスタイル抜群です。リリィとは魔界の頃から喧嘩友達。将来どちらがサイファーの正妻の座につくか競走中。
かなり普段はボーっとしているお嬢様キャラなんですが、結構残酷な面もお持ちで戦いが大好き。人間に対してなんの感情も持ってない。多分無礼を働いたらぷちっと殺されるんじゃないですか。まあ、嫌いな奴にはかなり残酷な姫様なので。




