出会い2
「ちょっ……帰れないって何よ……!」
退屈でぬるま湯に浸かるような日々だったけれど、それなりに愛せていた。少なくとも、あの母よりは。
私が声を張り上げてもピクリとも動かない爺さん……おそらく神官にようやく違和感を覚える。
咄嗟にあたりを見渡すと、いつの間にか騎士たちが周りを囲んでいた。
(くっそ、油断したわ。いくら焦ってるからって)
もう一度振り返ると神官の手には手枷のようなもの。
真っ白で繊細な模様とは裏腹に付いている鎖のゴツさが異様だとしか言いようがない。
「神よ、貴方は何も考えなくて良いのです。我らのためにお力をおかしください。さぁ……!」
ようやく気がついた。
(こいつら、イカれてたのね。)
笑顔のまま、ジジイが振りかぶる。
咄嗟に後ろに飛んだ、と思った。
「えっ?」
想像の5倍体が軽い。その分、後ろで構えていた騎士たちの上空を飛び抜けてしまった。
「あぁ、やはり貴方様は神だ。来ていただきますよ、何としても。」
爺さんの瞳は弓なりに歪められているものの、空虚なガラス玉のようだったことに今更気がついた。
騎士たちがガチャガチャとけたたましい音を立てて振り向く。身なりだけが整えられていて、訓練も特にされているわけではない。訓練された騎士がこんなにもモタモタした動きなわけが無い。
「はっ……!孤児院育ちなめないでよ。ルールの無いとこじゃぁ弱いもんから淘汰されてくんだからぁ!」
神官ジジイは騎士に思いっきり回し蹴り食らわした私にやれやれと言ったふうにため息をつく。
「神よ……力をお貸し給え……」
ジジイの持っていた手枷に一瞬、大きな黒いモヤが掛かる。
なんだそれ、と言いそうになった瞬間。
『お逃げなんし!わっちの言う通りに、さぁ!!』
その言葉に弾かれるように走った。窓ガラスを蹴破り、初めて私のいた場所が4階であったことに気がついた。