2契約目:召喚
本当に酷い有様だった。『自然災害で被災しました』なんてレベルではなかった。ついさっきまでの平凡の日常はもうそこにはなかった。
「日々樹…は…どこだ…?」
身体中痛いが探さなくてはならない、自分の大切な友人を。見つけなければ。だが、気づいてしまった。出来ればその現実から目を背けていたかった。あまりにも残酷な現実。心臓の鼓動が早まる。
「う…そ…だろ」
下を見ながら、そんな言葉がポツリと出た。確かに鶴見日々樹はそこに存在していた。いや、存在を証明してくれた。自分を突き飛ばし助けてくれた、片腕を伸ばした日々樹の『影』が、地面にくっきりと残っていた。
「……」
ポツポツと雨が降り始めた。
「ハハハ」
乾いた笑いが出た。なぜ笑ったのか自分でも分からない。理解もできない。
「あはははははぁあああああああああああああああああああああああ」
笑いと発狂混じりの声が響いき涙が溢れる。
(何故彼はこんな目に合わなければいけなかったのか?ナゼ、彼は……。)
ナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダ
気づけば歩いていた。多分すごく虚ろな目をしながら、歩き続けていた。どこに行くかも自分では分かっていなかった。もう何も考えられない。歩き続けることで何とか意識を保ち続けていた状態だった。いつの間にか雨も強くなっていた。
動物の帰省本能なのだろうか?気がつけば自宅の前についてた。
「ハハハ…帰ってきちまったよ…」
自宅は無傷とまではいかないが雨風こそ凌げそうなくらいには形をを保っていた。中に入ると家の中はぐちゃぐちゃになっていた。当たり前だ、街があんなになってたのに形を保ってるのが奇跡なくらいだ。思い出すだけで吐き気がするし、絶望感が襲いかかってくる。でも、それよりも段々と怒りの感情が湧いてくる。
──────何が天使だ…
──────何が神だ…
──────何が救ってくれる存在だ…
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
その瞬間、足元に魔法陣の様なものが現れた。慌てて後ろへ下がると魔法陣の中から黒い影が出てきた。黒いモヤのようだったが真っ黒く触れればそのまま吸い込まれそうな感じがした。
その黒い影は人のような形をしているが気配が人間とはまるで違うのを肌で感じた。
「な、なんだ?」
いきなりのことで腰が抜けてしまった。上手く力が入らないため逃げることが出来ない。
『我を呼んだのは貴様か?』
黒い影は質問をしてきた。
「は?」
空気が変わったのが分かった。すごく重苦しい空気が周りを取り囲んだ感じがした。だが、当然呼んだ覚えはなかった。
「い、いや、呼びました…」
咄嗟に嘘をついてしまったが、あのままだと恐らく殺されていた気がした。本当に肌がピリつくなんてことがあるのかと感じていた。
黒い影が近ずき、顔の目の前にきた。
『ふむ、顔を観るに偶然に近い形か…』
『まぁよい。貴様の願いはなんだ?何を望む?』
黒い影は問いかけてくる。
──────願い…
──────望むもの…
──────俺が望むのは…
「…復讐したい…」
「俺から全てを奪った奴に!!!!」
心の奥底から思ったことを言った。だが、この黒い影ならこの願いを聞き入れてくれる気がした。
『ククク…』
『貴様面白いな!!!』
黒い影はゆらゆら揺れ始めた。まるで腹を抱えて笑っているようだった。
『貴様が望むのはあの神の使いへの復讐か!?』
笑いながら黒い影が問いかけてきた。
「…少し違う」
『?』
「そいつらも斃すが、そいつらの主にだ」
『さらに愉快だな!貴様!』
黒い影は興奮気味に言ってきた。黒い影が突然ピタッと動きを止め、再び顔に近ずいてきた。
『…貴様の名前は?』
「音桐 創…」
『創…貴様の願いを叶えるために、貴様は何を差し出す?』
この言葉を聞いた瞬間、音桐が召喚したのは悪魔だと分かった。だが後悔は全くしてなかった。それどころか、音桐は笑っていた。
「全てやる…」
「この復讐が終わったらあんたに俺の全てをやる!」
「だから力を貸せ!悪魔!!!!」
『いいだろう。音桐 創』
『貴様との契約ここに結ばれた』
音桐は悪魔との契約が結ばれた。だが、音桐自身に『後悔』なんて感情が一切なかった。むしろ、これでやっと自分から全てを奪った者への復讐ができると少し興奮していた。
ちょっと短いですけどここまでです。次回は音桐君に悪魔さんが職場紹介をします!