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その日は忘れない。忘れたくても忘れられない。何が神だ。何が天使だ。何が救ってくれる存在だ───。
オレハオマエタチヲ
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
『お──、何──む───?』
黒い影が見える。男か女かも分からないが確かになにかいる。何を言ってるかよく分からない。
『?????』──────
目が覚めた。なんてことの無い普通の日、普通の朝。
「ふあぁー」
大きなあくびが出てしまった。正直まだ寝ていたいが、大学の講義があるし起きなければならない。
「アラームより先に起きるなんて、珍しいこともあるんだな」
携帯の画面を見ながらそんなこと言いつつ支度を始める。
(『早起きは三文の徳』って言うし、なんかいい事あるかもな)
そんなことを思いつつカーテンを開けると朝日が眩しい。そして暑い!何より暑い!8月の上旬だがまだ朝だ。
「まだ7時だってのになんでこんな暑いんだよ」
文句も言いつつ洗面所へ向かい、意識を目覚めさせる。朝ごはんの支度をしながらテレビをつけるとちょうど天気予報がやっていた。
『───本日は全国的に晴れですが、積乱雲が発生しやすく各地でゲリラ豪雨が起こりやすいです!外出の際はお気を付けて〜!気温ですが…』
「本当に毎日毎日、暑いねー」
独り言のようにつぶやきつつパンを食べる。
再び洗面所で身支度をしテレビの時間を見れば1時間も経ってる。
「普段より早いけど大学に行いてみるか…」
「行ってくるよ父さん、母さん」
テレビを消し、テレビ台の横に飾られた写真を見ながら、荷物を持って部屋を出る。玄関の扉を開け外に出る。やっぱり外は暑い。
──────────運命の時間まで残り4時間59分
大学の講義室の中は素晴らしい、エアコンが効いてる。
(なんて良いんだ!文明の利器というのは!)
なんて思ってると後ろから声をかけられる。
「よー今日も今日とて暑いなー」
声をかけてきたのは友人の 鶴見 日々樹だった。こいつとは大学で出会った自分の数少ない友達だ。頭が良くて友達思いでスポーツ万能、オマケにイケメン彼女持ちときた。
「おーイケメンが来なすった」
「なんだよ、機嫌が悪いのか?」
「この暑さなら気分は良くはならねーだろ」
「それもそうだな!」
笑いながら他愛のない会話をしていたら講義が始まった。
「はい、講義始めるぞー」
「本日は1年でやった旧約聖書と新約聖書の─────」
本当に変わらない普通の日だ。
「───本日の講義はここまで」
あっという間の一限だった。それだけ集中していたということなんだろう。
「おーい、この後暇か?」
日々樹は講義が終わるなり聞いてくる。
「あーこの後講義ないし帰ろうかと思ってたよ」
「月末に発表会あるし今日の講義内容をまとめたいし」
「ならそれ手伝うから付き合ってくれよ」
「愛の告白か?」
「違うわ」
「いい感じの定食屋ができたんだ!」
「行くのは構わんが並んで待つようなら帰るからな」
「よし決定!」
「昼まで時間あるしどっかで作業しなきゃだな」
荷物をまとめ、講義室を後にする。
──────────運命の時間まで残り2時間19分
カフェテリアで作業することにした。
カフェテリアも素晴らしい。エアコンがとても効いてる。
2人分の席を確保し、座り、机には先程の講義をまとめたノートを広げた。
2人で講義内容の確認をしながら自分なりにまとめていく
「そういえば、さっきの講義どうだった?」
俺はふと日々樹に尋ねてみた。
「まーやっぱ興味深い講義内容だな」
「天使や悪魔が本当に居たかもしれないんだから歴史って不思議だよな!」
少年がまるで恐竜を見てみたいようなキラキラな瞳で言ってくる日々樹。
「会ってみたいよなー」
(そんな某パークみたい再現出来るわけじゃないんだから)
と心の中でツッコミを入れておく。でも正直会ってみたいって言うのはわかる。
「悪魔召喚なんてやるなよ?」
目を輝かせてる日々樹に言う。
「やらねーよ!てかなんで悪魔側なんだよ!どうせならかわいい天使の召喚をするね!」
「お前は彼女がいるんだから悪魔を召喚してバランスを保て」
「それに天使は神の使いだ。召喚に応じるものじゃない」
「知ってるよ!これでも神学部4年生だし!」
胸を張って言う日々樹。
「まぁ色んなゲームとかで名前いっぱい出てきてるしその認識も分からないこともないけど」
「だろー?」
「っおし!12時過ぎてるしそろそろ行こうぜ」
スマホで時間を確認した日々樹が言ってきた。
「はいはい」
(あ〜さらばエアコンの効いた素晴らしい部屋よ)
──────────運命の時間まで残り48分
「確かにいい感じの定食屋があるがこれ」
地下に続く階段から見えた定食屋は確かにあったが学生向きというよりはデート…
「おい。まさかと思うがデートの下見じゃねーだろーなー?」
「ハハハ、ナニヲイッテルカワカランヨ」
「ハメたな貴様…」
「友達のよしみで頼むよ!」
肩を落としながらも店内へ足を進めてく─────
「確かにいいとこだな」
日々樹に言うと自慢げな顔で
「だろだろ!すばらいい所を見つけてしまったのよ!」
駅近、安くて美味い上に人が居なく静か。自慢げに言うのがわかる。
「んじゃ、会計よろしくな彼氏くん」
「まじかよ!まぁ今回はいいだろう付き合ってもらったし」
支払いを済ませてお店を出て階段を登ったとこで日々樹が突然
「でっけえ積乱雲だなー」
確かに東側に大きい積乱雲があったがなにか違和感があった。
「なーなんかおかしくねーかあの積乱雲」
と疑問に思った事を日々樹に振ってみた。
「うーん確かになんか白い扉みたいに見えるな!」
「いや、そんな小学生みた───」
突然なったラッパのような音。普通のラッパとは違うがなにかに例えるなら確かにラッパだと思う。どこから鳴ったか分からないがすごい近くでなったような感じだった。周囲の人達も自分の周りを見渡している。
「なんだ今の?」
どうやら日々樹にも聞こえていたようだ。
「近くで学生がラッパ吹いたんかな?」
自分でも分からないがそれしか答えられなかった。
「キャーーーーーーーーー」
近くに居た女性が空を指さしながら叫んでいた。2人で女性が指していた方向を見てみるとあの積乱雲の扉が開いており、その中からでかい1つの目玉がこちらを見ていた。なんの誇張もなく自分の全てを見られているような眼圧で見られていた。
「なんだありゃ」
独り言のようにつぶやく日々樹に俺は何も言えなかった。
目玉が少しづつ前進しているようで、どんどん近づいてくる。
恐怖で動きたいが動けなかった。いや、動くことを禁じられている方が感覚として近い。目玉が扉から出ると目玉の周りに純白の輪っかが2つ出てきた。その輪っかに目玉を生やしゆっくりと回転させ始めた。その異形な景色に腰を抜かすもの、呆然と立ち尽くすもの、嘔吐するもの、気を失うもの様々だった。
「まさか…天使が…来た…の…か?」
日々樹が振り絞るような声で問いかけてくる。
「あぁ…」
息を吐くように小さい声で答えた。
2人はわかっていた。講義で教えてもらったので天使の姿を。天使の階級の上から3番目に位置する『座天使』そのままだった。
呆気にとられているとすごく優しい声が辺りに響いた。
『神からの宣告によりあなたがたに危害を加えることになりました』
その瞬間眩しい光が自分を包んだ。当然手で顔を覆った。
「──ねーー!」
その声が一瞬聞こえたと同時に突き飛ばされた感覚と全身に痛みが走った。
分からなかった。
「ひ……き?」
頭を打ったのか意識が途切れた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「──っつう」
意識がかろうじて戻った。全身が痛い。頭から少し血が垂れるのが分かった。朦朧とする意識の中懸命に思い出す。
「おれは…定食屋の…階段で…」
「確か…眩しくて目閉じたら…」
徐々に思い出してきた。
「ッ!日々樹!!!」
無理やり体を起こして気がついたが、周りには瓦礫が散らばっていた。
後ろの定食屋は大きめの瓦礫が天井から落ちてきて中が潰れてる。
(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ)
全身の痛みに耐えながら階段を登っていくと、あまりにも酷かった。曇天の空。今にも大雨が降りそうな感じ。自分が知ってる街の景色ではなく、どこか知らない紛争地帯に飛ばされたのかと疑うほど、建物は倒壊し、火災が至る所で発生していた 。風に乗って血の匂いや、誰かが悲鳴をあげる声でいっぱいだった。
──────────運命の時間まで残り0秒