⑨あの連載で書きたかったこと、やりたかったこと
今回は、件の拙作「太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~」について、あれやこれや語りたいと思う。
未読の方はネタバレ注意。読了済みの方、別に読む気も無いのでネタバレ上等な方はこのままお進みください。一応、未読勢の方々のために、ネタバレには配慮して話を進めるつもりですが。
まず、そもそもの作品のコンセプトとしては「現実世界の地球を舞台に、何か大きな物語をやりたい」というものだった。
たしか、当時の自分はゲームの「Fate/GrandOrder」とか「地球防衛軍5」とかにハマり、「現実の地球を舞台にしても、これほどまでに世界全土を巻き込んだ物語って作れるんだ」と感銘を受け、自分も同じような物語を書いてみたいと思うようになった。
そう考えた時、まず構想を練ったのが物語の中で主軸になる敵キャラ、マモノだった。
どうせなら「異世界から転移してきた」とか「現代社会の影に隠れて生きてきた怪物」といったありがちな設定じゃなくて、もうちょっと捻った設定にしようと考えて、今のマモノの設定になった。
マモノの設定が決まると、そこからさらに様々な設定が固まっていった。マモノ災害勃発の動機とか、それに立ち向かう主人公の設定とか。
このあたりで、とりあえず見切り発車気味に連載を開始したと記憶している。どうして誰も当時の自分を止めてくれなかったんだ。もうちょっと丁寧に練るべきだったよ設定を。
主人公が不死身能力持ちというのは、良い面と悪い面が両方あった。
良い面といえば、とにかく死なないので、敵キャラの大技や特殊能力のデモンストレーション役にもってこいであるという点だ。やはり敵キャラの強さを分かりやすく伝えるには、敵キャラの攻撃を誰かに直撃してもらって、その威力を読者の皆様に伝えるのが一番。
拙作の主人公サイドキャラは、ほぼ全員が耐久力そのものは常人並み。
だからこそ、常人並みの耐久力だけど死なない主人公は、やられ役に最適だった。うーん鬼畜作者。
悪い面といえば、とにかく死なないので、主人公のピンチを演出しにくいことだった。
主人公の最も大きくて分かりやすいピンチと言えば、ずばり命の危機だ。
だがしかし、ウチの主人公は死なないのだ。これでは命の危機も何もあったものではない。
だから、色々と工夫せざるを得なかった。
主人公ではなく仲間の方を危険に晒したり、その仲間を主人公が助けられない状況に持っていったり、そう簡単には復活できないように制限を設けたり。うーん鬼畜作者。
主人公のピンチは本当に描きにくくて、作品全体を通してちゃんとメリハリのある展開にできるか常に不安だったが、今はまぁそれなりに良い感じに収まったのではないかと思っている。
それからしばらく執筆を続けて、やがてなろうテンプレ作品に意識を向け始める。
向こうは、主にチートスキルでキャラクターの強さを盛り付けていくのが主流だ。それは基本的に、こちらで描いている現実世界の異能力アクションには無いものだ。
だから、向こうに無いものを、こちらの主軸にしていこうと思った。
超能力や特異体質、各種格闘技に銃火器、精神のオーラで武装する不思議拳法。
特に心掛けたのが、まっとうに人としての強さを書くことだった。
テンプレ作品では、地道な鍛錬はあまり意味を成さない。
強いスキルが一つあれば、もう技能などは必要ない。
レベルを上げるために必要なのは筋トレや組手ではなくモンスター退治だ。
逆に自分の作品ではスキルもレベルも無いので、強くなりたければ地道に鍛えるしかないし、格闘マンガさながらの武術・術理のような極めて高度な戦闘テクニックも要求される。
しかしその分、鍛えた人間はしっかりと強くなるということがハッキリと分かるように書いた。その強さの方向性がいくらか非現実的に寄っていたとしても、むしろ現実の地球を舞台にしているからこそ「非常識な強さ」として演出できたのではないかと思う。(個人の感想)
世界観においても、敵味方双方における登場人物たちの強さにおいても「テンプレ作品でなくとも、現実の地球が舞台でもこれだけやれるんだぞ」といった意識が常にあったと感じている。
……前回の⑧で色々と偉そうに語っていたけど、自分本当にテンプレ作品への執着を断ち切れているのだろうか。
ラスボスは、連載開始時は「可愛い路線」で止めておこうか、それとも「格好良い路線」まで突っ走ろうか、まだしっかりと決まっていなかったのだが、途中で「格好良い路線」に決定した。
「格好良い路線」のラスボスに決定してから、本格的にラスボスの設定周りを固め始めて、気が付けばSFさながらの壮大な物語になっていた。第二章が終わるまで、まだ「可愛い路線」をラスボスにして物語を終える路線も存在していた。
主人公である日下部日向のキャラ付けは、かなり悩んだ。
なにしろ、書けば書くほど、作者たる自分に似る。
なんとなく喋り方も似ているし、ゲーム好きなところなんてそのまんまだ。「今のままの自分でいいのか」という漠然とした悩みがあるのも共通しているし、飯もよく食べる。
自分は、主人公が作者に似るのが嫌だった。
自分は別に、自分が書いた物語の中で主人公ごっこをしたいわけではない。
自分の作品の主人公は、その主人公らしい人格を持って、自分とは無関係の一人の登場人物として生きてほしかった。
今でも日向は、自分に似てしまっていると思っている。
日向は物語の中で肉体的にも精神的にも成長したが、作者たる自分もそうなりたいという成功願望の表れではないかと感じている。
ただ、自分と同じような性質をしたあの少年が、激闘の日々を乗り越えて、あれほどたくましく成長したのは素直に喜ばしかったし、祝福した。
そもそも、自分は「主人公が作者たる自分に似ること」は嫌っているが、だからといって主人公を務めた日向が嫌いかどうかと言えば別問題。
正義感が強く、時おりコミカルで、自分に似通った性質を持つあの少年は、とても活き活きとしていて動かしやすかった。彼が主人公だったからこそ、自分はあれだけ連載を続けられたのかもしれない。
連載を続ける中で最も楽しかったことと言えば、やはり物語の節目となる重要なシーンを書くことだった。
作中の重要な真実を語る時。
前から顔見せしていた大ボスとの決戦に挑む時。
毎回と言っていいほど「遂にこの場面を書く時が来た!」と興奮していた。
夥しい数のエピソードを書いて、これまでにいったい何話ほど書いてきたのか振り返ってみるのが好きだった。
そういえば、自分には「この連載が完結した時、1700エピソード全てが収められた目次ページをスクロールして、これまでの軌跡を眺める」という密かな夢があった。先日のなろうリニューアルより以前だからこその夢だった。
その目次の様式が変更されて、今では一ページにつき百話ごとで区切られている。自分の夢は潰えた。
夢を潰されただけでなく、指定のページに一気にジャンプする機能なども無いので、たとえば1001話~1100話が収められたページに移動したい場合、最初のページから「次へ>」を九回クリックしなければならない。多い。単純に不便である。
こんな仕様に誰がした。
許さない。
許さないぞ天の介。
1000話以上もある拙作がイレギュラーなだけだというのは十分承知しているが、こんな形で不便を被っているユーザーもいるということは憶えていってください。
話が逸れた。
とはいえ、そろそろ中断するにはちょうどいい文量でもある。
話の続きは、次回に持ち越そう。
そして次回が、このエッセイの最終回になるだろう。