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⑧承認欲求の向こう側

 自分も平凡な人間なので、当然にして承認欲求なるものは持ち合わせている。


 小説家になろうにおいて、たびたび作者たちの頭と心を悩ませる承認欲求。自分の作品がこんなにも評価されないのはおかしいとか、自分の作品が人気取りのためだけに大量生産されたなろうテンプレなんかに負けるのはおかしいとか、自分の作品に感想やレビューも一切来ないのはおかしいとか。


 自分も、そういう感情に悩まされたことがあった。


 書籍化だとか、ランキングだとか、そこまでの夢は見ない。

 けれど、誰か一人だけでも「面白い作品ですね」と言ってもらえるくらいは、夢を見てもいいじゃないか。


 そんな風に思っていただけに、なーんにも褒めてもらえない日々はなかなかに(こた)えた。


 一時期は「こんなに自分の作品が見向きされないのは、なろうテンプレばかり読んでいる読者が悪い! テンプレなんて面白くない! この世が憎い!」なんて思って、なろうテンプレを敵視していた時期もあった。具体的にテンプレのどこが悪くて、どこが面白くないのかも大して把握することなく、思考停止気味に。


 すると恐ろしいことに、今度はなろうテンプレ以外の、なろう小説ですらない普通の漫画本などにも憎しみを向け始めたのだ。「どうしてこの漫画たちは、書籍になって世に出てくることができたのだろう。自分も漫画が書ければ少しは違ったのかな」などといった調子で。


 ネット小説大賞なるものがあると知った時には「きっと様々なジャンルの作品が覇を競い合うんだ」とワクワクしたが、上位入賞作品のほとんどがテンプレ作品だったと知った時には、自分の中の何かが一気に冷めた感覚があった。


 このままでは心がダメになる、と我が事ながら思った。

 それからは余計なことを考えず、とりあえずひたすら書こうと決意した。


 すると、あら不思議。

 半年ほど経つと、フッ……と、これまでの執着が消えたのだ。


 あれだけ毎日確認していたアクセス解析も。

 誰にも作品を褒めてもらえないのも。 

 そんな拙作を嘲笑(あざわら)うかのように人気を集めるテンプレ作品も。


 それら全てが、不思議なくらい気にならなくなった。

 さすがに百パーセント完全に、とはいかないが、それでも最盛期の十パーセントくらいには抑えられたと思う。


 何かを悟ったのかもしれない。

 あるいは、このサイトに慣れただけなのだろう。

 それとも、ただ単に諦めたのか。


 評価はもらえなくて当たり前。

 ブクマは付かなくて当たり前。

 ご感想もレビューも、いただけないのが当たり前。


 今、主流なのはテンプレ作品。

 それが自分にとってはどれだけ奇怪でも、世論はそうなのだ。

 だったら、人気がある方に人が流れていくのは当たり前。


 勝手に正道(テンプレ)を外れたのはこちらの方だ。

 だったら、せめて最後まで格好良く、外道(マイナー)を突っ走ってやろうじゃないか。


 たしか、当時はそのようなことを思った。

 若い不良みたいなこと思ってるな当時の自分。


 こういった、読者様からの評価などを気にせず執筆を続けられる価値観を、自分は「悟りを開いた」とか「承認欲求の向こう側」などと勝手に呼称している。


「向こう側」への行き方は、きっと人それぞれだと思う。


「自分の作品が好きすぎて、書くのが楽しすぎて、いつの間にかポイントやブクマなんか気にならなくなっていた」という人もいるだろう。


「他の作者様のエッセイとか読んだけど、やっぱり皆も同じような苦労をしてるんだな……。俺ばかりがクヨクヨしちゃいられないな」と考えた人もいるだろう。


「俺は大宇宙の真理に気づいてしまった! 読者から評価ポイントをもらいすぎると、幸福量保存の法則に(のっと)って、三年以内に地球に巨大隕石が激突する確率が八十パーセント以上も高まる! 俺もうポイントいらない!」と思い至った人もいるだろう。ウソつけ絶対いねぇよそんな奴。


 こんな風に書いたが、自分は、ポイントを追い求め続ける作者様が悪だと言うつもりもない。


 ポイントを求め続け、ランキングの高みを目指し続け、書籍化などを目指し続ける作者様は、つまりそれだけ、自分自身の夢に対して本気ということだ。


 なろうテンプレ作品を量産していると言っても、いったいどんなテンプレ作品なら読者の人気を獲得できるか、きっと自分の想像を絶するくらいにテンプレ作品について研究しているのだろう。


 出版社ごとの取り扱うジャンルの好みの調査とか、ツイッター(現X)などで積極的に宣伝活動しているだとか、執筆以外の努力も欠かしていないに違いない。違いないよね?


 相変わらず自分はなろうテンプレ作品があまり好きになれないのだが、夢を叶えるために本気でテンプレ作品に向かい合っている人は応援したいし、テンプレ作品が本気で大好きなんだという人を馬鹿にしたくもない。


 誰かの本気を、自分は笑わない。

 この考えに至った時、自分は「向こう側」の、さらに向こう側へ行けた気がした。


 ……うーん。

 しかし、アレだな。


 毎日投稿を通して、やれ「人生は有限」だとか、やれ「自分磨き」だとか、やれ「悟りを開いた」だとか……。


 皆さんも思っているでしょうが、自分からも言わせてくれ。

 俺は修験者か何かか!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 承認欲求はあって当然です。 でも、そこにばかり価値を見出す(認めてもらうことばかりに執着する)のは、何よりまず不健康ですよね。 いい感じにその辺から突き抜けている筆者様の言葉が、読んでいて…
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