⑦ほぼ毎日投稿完遂のための、最大の壁
前回は、自分のほぼ毎日投稿完遂のためのスケジュールと注意事項について筆記したが、当然にして予定外というものはしょっちゅう存在し、スケジュールどおりにいかないこともままあった。
例えば、怪我や病気。
執筆が困難になるほどの大怪我はしなかったが、病気は軽いものに罹患するだけでも執筆のための体力を大きく削がれ、続きを書きたくても書けないような状態に追い込まれてしまう。
コロナは今に至るまで一度も発症していないが、インフルエンザは一回かかってしまった。あれは症状がマシになるまでの丸二日間、まったく執筆に手を付けられなかった。
例えば、執筆以外の趣味による時間泥棒。
執筆は楽しいが、やはり時には執筆以外の趣味の情熱の方が強く燃え上がり、たとえ連載執筆のスケジュールが逼迫していても、別の趣味を優先してしまう。
テレビゲームやスマホゲームで良質なストーリーに触れると、それが連載の続きを構想するためのヒントになることもあったので、それを良いことに「これは連載のため……連載のため……」と、スケジュールギリギリまで執筆を放棄してゲームに没頭したことも頻繁にあった。
以上の二つも、ほぼ毎日投稿を完遂するうえで極めて厄介な強敵だった。
だが……その二つをも上回る最凶、最大の「壁」が存在し、しばしば自分の前に立ちはだかったのである。
その「壁」の名は……。
母「息子ー。旅行するやでー」
俺「えっ」
……その壁の名は、「母親の旅行に付き合うこと」だった。
よりにもよってと言うべきか、ここ最近になって母親が旅行趣味に目覚めた。我ら子供たちがみな良い大人になり、子育ての時期が終わって、自分の趣味を優先する精神的余裕が生まれたからだろうか。
旅行するということは、当然ながら家を数日間空けるということ。
自分は旅先で執筆などできないので、その数日間、執筆は全く進まなくなる。
「いやいや、旅先でもスマホを使って執筆できるでしょ?」とおっしゃられる方もおられるだろうが、自分はスマホでの文字入力が苦手なのだ。とにかく疲れる。パソコンのキーボードをカタカタ打つより三倍は疲れる気がする。筆もあまり乗らない気がする。なので極力、スマホでの執筆はやりたくない。
「だったら、旅先に執筆用のノートパソコンを持って行って、寝る前にでも書けばいいじゃん」とご提案なさる方もいらっしゃるかもだが、それも少し問題がある。
自分は母親と二人暮らしであり、母親には「自分がネットで小説を書いていること」は打ち明けていない。なんなら自分がけっこうなオタクであることも隠している。ゲームが好きなだけの無趣味な人間のフリをしている。
母はオタク趣味について、強く否定こそしない人だが、あまり理解がある人でもないため、執筆はできればこのまま知られることなく秘密の趣味にしておきたい。
結局は自分のワガママで自分自身を二重三重に縛るような形になっているのが原因だが、とにかく以上の理由によって、旅行中は執筆が完全にストップしてしまっていた。
対策としては、もうただひたすら単純に「旅行で執筆が遅れることを考慮して、その分のストックを旅行出発前に書いておく」のが常だった。
言うまでもない事だが、旅行は連休の間に行なうものなので、自分にとって最大の執筆チャンスである休日が丸二日、丸三日も潰されてしまうのは最大級の痛手。仕事から帰ったら旅行に備えて、寝る時間ギリギリまで執筆するというデスマーチが続くことになる。
「そこまで言うなら、母親に断りを入れて、旅行とか行かなければ良かったじゃん」というご意見もあるかもしれない。
ごもっともである。
ごもっともであるのだが。
だって……やっぱり旅行って楽しいし……。
普段は目にすることがない景色、街並み。
その土地に伝わる昔話や、珍しい食べ物。
飛行機で空から地上を見下ろしたり、旅先ならではのアクティビティに興じたり。
こういった知見を得ることは単純に楽しいし、創作においても新しい知識が増えるのは執筆の役に立つ。実際に役に立った、活用できた知識はまだ少ないかもだが、旅行の最中においても良い刺激になり、連載への意欲が湧いてくるのは確かだ。
それに、前々々回……④でも書いたが、人生は有限だ。
母親と仲良く旅行できる機会だって、あと何回あるか分かったものではない。母親は身内でワイワイするのが好きな人なので「一人で旅行するくらいなら行かない」などとおっしゃられるし、自分も息子として、その気持ちは汲んであげたい。
結果としてほぼ毎日投稿を達成できた自分が言うのも何だが、結局のところ、やはり大事なのは連載よりリアルの生活だと自分は思っている。余裕ある生活こそ、より良い作品を生み出す。
もしも自分の身体が、執筆が困難なほど負傷したり病魔に蝕まれたりした時。または、過度なストレスになるほど執筆が嫌になってしまった時。あるいは、母親が日常生活において他者の介護を必要とするような状況に陥ってしまった時。
そういう時は、迷わず毎日投稿を諦めて現実を優先させる。そういうつもりで、この四年半の連載をずっと続けてきた。
これからはもっと余裕のある生活を心がけ、余裕のある投稿を行ないたい。
そういう意味でも、正直なところ、やっぱりもう毎日投稿に追われる日々はこりごりだ。
しかしながら、あんまりのんびりしていると、今度は人生における作品執筆のための時間が減っていく。こういうのは「まだ余裕がある。まだ余裕」とか思っていると、あっという間に危険水域まで迫っているから油断ならない。
難しいね。
勤務時間はそのままに、一日が48時間とかあればいいのに。
ほぼ毎日投稿完遂のための最大の「壁」などと書いたが、壁とは本来、乗り越えるためのものではない。
その壁は本当に乗り越える必要があるのかどうか、時には足を止めてゆっくり考えてみるのも大切かもしれない。連載の日々のなかで、何度もそう思わされた。
最後に、旅行にまつわるちょっとした余談。
件の自分の連載作品は、現実の地球を舞台にしているので、エピソードごとに主人公たちが訪れる地域を設定する際に、実際の街や施設などをグーグルマップで調べてモデルにして、作中に登場させることが多かった。
そして、つい先日、自分は母親と沖縄旅行に行ったのだが、この連載で登場させたホテルのモデルにさせていただいた某ホテルに立ち寄る機会があったのだ。
執筆している際には「立派なホテルだけど、きっと自分の人生で訪れることは一度も無いのだろう」などと思っていただけに、立ち寄ると知った時にはそりゃあもう大きな衝撃だった。
宿泊はせずに、食事のためだけに立ち寄ったのだが、作中で登場させたロビーなどを拝見することはできた。自分が百パーセント想像で書いたロビーとは構造も彩りも全く違っていて、面白さと申し訳なさが同時に湧いてきた。
意外にも、これが自分の人生で初めての「聖地巡礼」だった。