野外演習
学園の朝は、賑やかだ。特に第二王子を筆頭に、リセラを中心とした取り巻き軍団が大きな顔で闊歩している。
しかし最近のリセラは、事ある毎にシオンを気にかけるため、第二王子ダミアンとは反目しあっているとか。
シオン曰く、一方的にダミアンに睨まれているだけらしいのだが。
「リセラ。もうすぐ野外演習があるだろう。組は違えど同じ班になれるよう学園に話をつけておいた。当日は安心して臨むといいよ」
ダミアン王子がリセラにそう伝えているところが目に入った。
(特権乱用では?)
と、聞いていた周りはみんなそう思っていただろうが、それを指摘する者はいない。
仲間内で組んでくれたほうが、関わりを持たなくていいと周りも判断したようだ。
「嬉しい! ダミアン様、ありがとうございます! 攻撃魔法が苦手なので、一緒懸命、頑張ってダミアン様の防御をしますね!」
溢れんばかりの笑顔でダミアンの腕に抱きついたリセラは、ちょうど通りかかったユーリに気がつくと、ダミアンには見えないようにしながら、口元を歪め、優越感に浸るようにニヤッと笑った。
もちろんそんな状況に反応するでもなく、黙って通り過ぎていこうとするユーリを見て、
「きゃ! ごめんなさい! ユーリ様! お願いだから睨まないで下さい! 怖いです!」
と、大声で周りに聞こえるようにリセラが叫んだ。
「おい! ユーリ! リセラが怯えているだろう! 何故お前はいつもリセラを虐めるんだ!」
ダミアン王子がユーリを責め始め、その周りにいた他の攻略対象者のミゼルや、アズレン、オルガがリセラを守るように囲んだ。
「何もしておりません。虐めた覚えも睨んだ覚えもございません」
と、毅然した態度でユーリは反論したが、もちろん聞き入れようとはせず。
「リセラから色々聞いてるぞ! しらばっくれるのも大概にするんだな!
とにかくリセラに何かしたら、許さない事を覚えておくんだな!」
そう言って、リセラを庇うようにしながら取り巻き集団は学園内に入っていった。
「……大丈夫ですか? ユーリ様。お約束すぎる展開に吃驚して、お力になれず申し訳ありません」
ミーシャがユーリに話しかけると、ユーリは溜息を吐きながら微笑んだ。
「いくら関わらないように気を付けていても、あちらがほっておいてくれなさそう。
あのヒロイン、演技力は確かだわ。今後も十分気をつけないとね」
と、小声で自分を引き締めるように言った。
── 野外演習
それは、来たる時に備えて少しでも魔物退治に慣れておくように、魔物がいる森に入り、実践で学んでいく授業だ。
もちろん学生が行うため、結界をすり抜けて生きていけるくらい動物並みの弱者の魔物しかいない森で行うのだが。
そして、ゲーム内ではこの野外演習でヒロインは聖なる力に目覚めることになる。
「ミーシャ嬢、今日はよろしく頼む」
笑顔で話しかけてきたのはシオンだ。
ミーシャは野外演習でシオンと同じ班に組み分けられていた。
(ここにも特権を利用した人の匂いがする)
と、ジト目で見てしまった事は許してほしい。
ユージュラスは一応控えているが、授業の一環である為、討伐には参加しない。
あくまで学生だけで臨むことになるのだ。
学年毎に行われる演習は、今日は二年生の日だ。そして、ゲーム内ではヒロインが通常ではいないはずの凶悪な魔物に襲われそうになった時、聖なる力に目覚め、魔物を浄化し消滅させる。
そして、凶悪な魔物が現れたことで、結界に限界がきていることを改めて認識し、聖女と認定されたヒロインが国中に結界を張り直すことになる。
のちに、現れるはずのない凶悪な魔物は、リセラを狙った悪役令嬢のユーリが仕組んだ罠であったと判明し、王都に凶悪な魔物を引き入れた事や聖女となったリセラの命を狙った罪で断罪されるのだが。
(今にして思えば、ツッコミどころ満載の内容だけど、実際のユーリ様はそんな事しないし……。凶悪な魔物が出なかったら、ヒロインは力に目覚めないのでは?
いざとなったら、リセラをうちの領地に連れて行って魔の森に、放り込んでやろうか。そうすれば力に目覚める?
いやいや、これは却って私がリセラの命を狙った事になっちゃう展開では⁈ )
ヒロインが聖なる力に目覚めなければ、聖女の役目が自分に降りかかる可能性に気付き、一人ミーシャは焦っていた。