乙女ゲームの登場人物
「私は魔力過多症を患っています。幼き頃は身体の中の魔力を上手く循環する事が出来ず、何度も死にかけました。運良く今まで生きながらえ、こっそり冒険者を装いながら魔物討伐で身体の中の溢れた魔力を放出しながら現行を保ってます。
しかし、放出しても年々身体の中で暴れだす魔力が抑えきれず、いつ魔力暴発を起こし死に至るか分からない状態になっているところに、モーニュ草で作る薬が魔力過多症にも有効だという話を聞きました。
だがモーニュ草はなかなか手に入らず。
ここの魔の森で見かけたことがあるという冒険者の話を頼りに採りに来たところ、探し出せず魔物に追われてしまい、そこをラバンティ辺境伯令嬢に助けて頂いたというわけです」
我が家の応接室にて、父であるユクラディアス、母レイラ、兄ダンテ、ミーシャ、第一王子のシオンライト、ユージュラスは応接セットのソファに座り、家令のセバスのみドア近くに控えていた。
丁寧な物腰で自らの事を説明し、モーニュ草の必要性を示してくれたシオンライト第一王子は改めてモーニュ草を分けてほしいことを伝えてきた。
(うーん、確かこの隠れキャラって、ヒロインが第二王子を攻略した後に王宮に入って、そこで離宮で今にも魔力過多で暴発しそうな第一王子を見つけて聖なる力で治すって設定じゃなかったっけ?
おそらくモーニュ草が手に入らなかったんだろう設定なのに、今ここで渡しちゃっていいのかな? いや、あるのに渡さないなんて、そんな不敬は許されないし、苦しみは少しでも早く取り除いてあげたいって思うけどさ)
一人悶々と考え込んでいたミーシャに父は
「どうしたミーシャ? モーニュ草、今は育ってないのか?」
と、声をかけてきた。
扱いにくい魔の森の植物は、実はミーシャ一人で管理している。下手に瘴気を吸ってはすぐに内臓がやられ、最悪死に至らしめるのだ。
しかし、ミーシャはどういうわけか瘴気に当てられても全くの健康体。魔族か⁉︎ って小さい時には兄によく揶揄われたけど、すぐに反撃してやった。
というわけで、魔の森の温室内になんの植物が育ってるのかはミーシャしか知らない。
よく分からないものを育ててるのに、この両親も兄も全く動じておらず、辺境伯邸の使用人や騎士団員、領民ですら文句を言わない。みんなミーシャを心から信じてる証拠であり、その信頼を裏切らないようにミーシャもみんなの気持ちに応えてきたつもりだ。
「ありますよ。モーニュ草。もちろんお分けいたします。ただ扱いが難しいので、専門の薬師の方にすぐに渡して薬の生成に取り掛かって貰わないと枯れて効果がなくなります。
また、モーニュ草からも微量の瘴気を発していますので、専門家に渡すまでは専用の包みからは決して出さないようお気をつけ下さい」
本当はミーシャも、薬の生成は錬金術で出来るのだが、これは家族内での秘密であり、いくら王子といえど簡単に言うわけにはいかない。
(へたに色んな加護持ちやら、スキルがある事を知られたら、今度は王家自身から取り込まれかねないものね。私はあくまでモブに徹するわ)
前世の乙女ゲーム
〈ミラクルガール・ラブアタック〉
通称ミラアタの攻略対象者は全部で6人。
アトラン王国第二の王子であるダミアン・フォン・アトラン、宰相の嫡男であるミゼル・イングット侯爵令息、教皇の嫡男であるアズレン・マルコルー、騎士団長の次男のオルガ・バイスニー伯爵令息。
そして第二王子を攻略した時のみに現れる、隠れ攻略対象の第一王子であるシオンライト・フォン・アトランと、この国で二家しかないうちの一つの公爵家の嫡男、ユージュラス・アルトリス公爵令息。
そしてヒロインはリセラ・カールトン男爵令嬢で、のちに聖なる力に目覚め、聖女となる。
ゆくゆくはユージュラスの公爵家に養女として迎え入れられるが、ユージュラスは第二王子攻略後以外は隠れ攻略対象とはならない。
ちなみにミーシャの元婚約者のダラオは、ただの当て馬だ。多分あの後はヒロインにあまり相手にされていないだろう。
(婚約破棄騒動で全過失の責任を負い、面目も財産もほぼない状態だからね。まぁ、自業自得だけど)
学園では、たまに前期の終わりにあった婚約破棄騒動のせいで、チラチラと好奇の眼差しを受ける事もあるが、夏期休暇があったおかげでだいぶん噂も収まったようだ。まぁ、あの騒動でミーシャの両親の恐ろしさを目の当たりにした高位貴族や官僚達のおかげでもあるのだが。
比較的静かな学園生活を送れそうだと、気分を新たにしたミーシャは、乙女ゲームの成り行きをこっそり満喫しようと考えていた。