本物の聖女?
様々な感情を持ちながら、聖女の結界の再設置に期待を寄せて見守る観衆であったが、祈りを始めてから1時間は過ぎた頃だろうか。少しずつ辺りがざわめき始めた。
「ちょっと祈りが長くない?」
「まだ結界は完成してないのかな?」
「なんか、更に結界が薄らいだような気がするのは、気のせいか?」
周りがざわめき始めた頃、リセラは密かに焦っていた。
(全然結界魔法が発動しない! 何故? 前は少しでも何とか出来たのに! 前に使ってからは全然使用してなかったから魔力もしっかり溜まってるのに、何故使えないのよ!
ここで結界魔法が使えなかったら、私はどうなるの⁉︎
早く! 使えるようにしてよ神様!
私はこの世界のヒロインなんでしょう⁉︎)
リセラの様子を隣で見ていたシオンは不審な表情をしながらも、リセラに問いかける。
「聖女殿、いかがした? 汗が凄いようだが、具合でも?」
シオンの問いかけにリセラは必死になって
「だ、大丈夫ですわ。もうすぐ終わります」
と、祈りを続けている。
しかしリセラの必死の祈りも虚しく、全然結界魔法が発動せず。
周りの観衆たちが困惑と、不安に包まれている中、大聖堂内に、凶報がもたらされた。
「大変です! いよいよ結界が消滅し始め、王国の北の地域より、魔物が入り込んできたとの知らせが届きました!」
日頃より結界消滅を危惧して、王国の各辺境地に領地を持つ貴族らは、常に警戒を行なっており、万が一に備えて魔物と戦う準備をしていた。
そして今回は、その内の北に領地を持つ辺境伯家からの知らせで、応援要請が来たのだ。
「なんと! すぐに北へ応援部隊を送れ!
聖女殿! 結界はまだか! 早くしないと北だけでなく、各地域からも魔物が入り込んでくる! 一刻の猶予も残されていないのだ!
早く結界で王国を覆ってくれ!」
陛下が指示を出しながらリセラに頼む。
しかし、リセラは青い顔をしながら震えだした。
「聖女殿⁈ どうされた? 具合が悪いようだが、今は頑張ってほしい! あなたに全てが掛かっているんだ!」
シオンはリセラを支えながら、懇願した。
しかし、リセラは震えるばかりで、一向に返答せず、祈りもやめてしまう。
シオンは、何とかリセラに結界魔法を展開してもらおうと、祈りを続けてもらうよう説得するが、リセラは顔を横に振りながら、泣き出してしまった。
「む、むり。全然結界魔法が発動しないの。私には荷が重かったのよ~!」
リセラは一向に泣き止む様子もなく、その場に居た全員が、結界が無くなってしまうという事態に、恐怖を感じた。
泣きやまないリセラに埒が明かないと感じたシオンは、意を決して叫んだ。
「ミーシャ! 頼む! 代わりに結界を!
国を、民を助けてくれ!」
王太子の言葉に、大半の者が不思議そうにミーシャに注目したが、少数のミーシャの力を知っている者は、ハッとした表情でミーシャを見た。
「……やってみます」
そういうと、ミーシャは静かに大聖堂の像の前に立ち、覚悟を決めたように、一度大きく息を吸い込む。
そして静かに目を瞑り、自分を中心に徐々に周りに広がるように、結界を張り巡らせていった。
やがて、それはどんどん広がり、30分を経過する頃には、国全体を覆う、分厚い壁のような結界が展開されていた。
さすがに国全体を覆う力を使ったミーシャは、張り終わった頃に意識を失いかけ、倒れそうになったが、素早くシオンが駆け寄り、ミーシャの身体を支えた。
「ミーシャ! 大丈夫か!?」
シオンの腕の中でミーシャは、疲れた様子はあるも、意識はしっかりしており、笑顔で頷く。
シオンはミーシャの様子を見て、ホッとした。
「ミーシャ、お疲れ様。そして、本当にありがとう。やはり君は聖女の力を持ってたんだね」
シオンは、優しくミーシャを支えながら、笑って言った。
「実際にやった事がなかったから、自信がなかったのです。だから、上手く出来て本当に良かった……。
聖女の力と持ち上げられるのが嫌で、今まで隠してて、不安にさせてごめんなさい」
ミーシャは、少しバツが悪そうにしながら、シオンに胸の内を語った。
「君が、不安に思うのも分かるし、目立たず静かに過ごしたいっていう思いを前から持っていたのも知ってるよ。
だからこんな形でこの力を使わせてしまって、本当にすまなかった。
これからは出来るだけ君の思いを尊重していくつもりだ。
だからこそ、隠し事は2人の間ではなしにしよう。僕たちは婚約者同士で、いずれは結婚するんだからね」
シオンに優しく言われて、ミーシャの顔は真っ赤に茹で上がる。
(ちょっ! なんてキザな台詞をサラッと言ってるの! 流石は隠れ攻略対象ね!)
などとミーシャは心の中で叫んでいた。
その様子をティナや、アズレン、ユーリも見ていた。
「そんな力があったなんて、全然知らなかったわ! ミーシャ、凄すぎるわよ!」
「本物の聖女は、ミーシャ嬢……
リセラはやっぱり違ったんだ……」
ティナは感激し、アズレンは呆然としている。
「まぁ! これって、転生チートなのかしら? ヒロインじゃなく、ミーシャ様に授かったのね。うふふ♪」
と、ユーリは、小声で笑った。
そして周りの観衆たちは、今見た出来事が信じられない思いでいたが、次の報告で、一気に実感した。




