聖女とは
ダミアン達は王都に帰還後、すぐに陛下にリセラの力の発現について詳細を伝えた。
そしてリセラは陛下の指示のもと、教会にて聖なる力の一つである治癒魔法を発動し、確認出来た事で正式に聖女と認定を受けた。
聖女の出現は300年以来ということもあり、王都はお祝いムードで沸いていた。
聖女歓迎パレードも催され、一目聖女を見ようと各地域から王都に人々が押し寄せ、大層な賑わいだ。聖女グッズもすぐに売り出され、誰もが聖女誕生を祝った。
しかし学園では、リセラが聖女であるということに戸惑いを見せる者、リセラの今までの行動を気にせず媚びる者など様々だ。
そんな中、ダミアン始めオルガやミゼルは、いかにも自分達の功績であるかのように、鼻高々とした振る舞いでリセラに付き従っていた。
学園に復帰していたミーシャは、遠目でその様子を眺め、これで自分は表に出ることがないと安心していた。
(だけど、やり方が気に入らないのよね。
絶対あのヒロイン、聖なる力を発現する為にわざと魔物のいるところにいって、オルガが襲われるように仕向けたはず。
ユーリ様がヒロインを狙わないからって、自作自演するなんて、本当に逆ザマァされる小説のお花畑ヒロインそのものじゃない)
前回の野外演習の時に出現したマンティコアも実は、ヒロインがゲーム知識を駆使して変態魔物収集家に近づき、闇ギルドから買い付ける際に安全なルートであると嘘の情報を伝えて、演習で使う森の中を運搬に使わせて、わざと檻から逃げ出せるように細工したのだろう。
影を使った使い魔に調べさせ、ヒロインが変態魔物収集家に近づいていたことを知った時、一連の流れを確信した。
しかし、いまだにその変態魔物収集家は捕まっておらず、リセラとの繋がりも判明していない。
リセラが聖女になった今となっては、もうあの変態魔物収集家が見つかったとしても、リセラとの繋がりは信じてもらえないか、闇に葬られるかになるだろう。
ヒロインに聖なる力が出現することを願っていたはずだったのに、なにか釈然としないミーシャであった。
その頃、リセラは浮かれていた。
今日は聖女誕生を祝って、王宮で舞踏会が開かれる。主賓であるリセラは、贅を凝らしたドレスをダミアンからプレゼントされ、ミゼルやオルガからも、宝石をふんだんに使用したアクセサリーや、ショールなど身に着ける物が贈られ、それらをつけて舞踏会に参加することにした。
本当はシオンにパートナーになってもらいたかったが、シオンに自分では役不足だと断られてしまい、パートナーに立候補してきたダミアンと共に参加するのは不本意ではあったが、それでも今までにない厚遇にリセラは満足していた。
(シオン様とはまだ親しくなれてないけど、これから少しずつお近づきになれば大丈夫よね。なんたって私は聖女。国を守る象徴ですもの。シオン様も私の存在の重要性に気づいて、きっと私を大切に思うはず。
あ、もしかして、パートナーを断ったのは、本当に自分では恐れ多いとか思ったからかしら? だったら気にしないで大丈夫だと教えてあげなきゃね)
リセラはそんな事を思いながら、ダミアンと共に舞踏会の会場となる大広間に入って行った。
大広間は煌めく豪華なシャンデリアが眩しく、色とりどりのドレスを着こなした貴婦人たちや、紳士たちで溢れかえっていた。
会場入りしたリセラとダミアンに一斉に視線が注がれ、リセラは一気に緊張するが、ダミアンが優しく
「僕が支えるから大丈夫だよ」
と、言ってくれたおかげで、何とか気を取り直す事が出来たようだ。
最後に陛下と王妃様が入場した。
陛下が舞踏会開幕の挨拶と共に、300年ぶりに聖女に認定されたリセラを、みんなの前で紹介する。
「では、ダミアンとリセラ嬢に、最初のダンスを披露してもらおう」
陛下の言葉を皮切りに、広場の中央までリセラとダミアンが移動して、ダンスを披露した。
~ヒロイン視点~
舞踏会は楽しかった。みんなから羨望や尊敬の眼差しを一心に受け、周り全てがキラキラと輝いて見えた。
でも最近は……。
なんか、思っていたのと違う気がする。
始めは聖女様聖女様って崇められていただけだったのに、舞踏会が終わったあと、教皇様から聖女の仕事を聞かされた。
教皇様曰く、聖女の最も重要な仕事は、国全体を覆う結界の修復だと。そして、その他にも、日々病で苦しんでいる人々を癒やし、怪我を治癒すること。時には魔物のスタンピード時は駆けつけ、魔物を聖なる力で一掃するなどなど。また、教会にて毎日神に祈りを捧げ、国の安寧を祈ることも必要であると説明された。
ふざけないでよ。そんなに色々をたった1人の聖女に押し付けるなんて! この国の人達は聖女に何でもかんでも押し付けるから、なかなか後任の聖女が現れないんじゃないの⁉︎
私は学園があるからと、学生の本分は学業であると力説し、なんとか週末にだけ聖女の仕事をするようにした。
そして、週末の1日で救護院の仕事に音を上げた。
何⁉︎ この患者の数は! だからふざけるんじゃないわよ! タダで病気や怪我を治してもらおうなんて、甘いのよ! 前世の日本でも病院行ったら治療費がかかるのよ! 何で聖女だからって、一人でこの人数を無料で治さなきゃなんないのよ。
決めた! 私が治療する人は、治療費を払ってもらうわ。こういう事はちゃんと決めておかないと、何でもかんでも聖女任せになってしまうもの。変な風潮は改善していかなきゃね。
そんな事を考えていた時、教皇様が、
「たった15人で音を上げるとは……。いにしえの聖女様は1日に100人以上治療していたと史書に記述されていたのに」
と、ぽつりと溢した。
うるさい! 自分は出来ないくせに文句だけ言うんじゃないわよ!
別の週末には、結界に小さな穴が空いており、このままでは広がって魔物が入り込んでくる恐れのある場所に連れていかれた。丸一日かけて馬車でその場所に行き、身体がクタクタになって休みたいのに、すぐに聖なる力を使って直してほしいと頼まれ、渋々行うも、なかなか修復されず。疲れているから力が出ないと、一旦休憩をもらって仮眠と食事を済ませたあと、再度力を使用したが、やっぱり修復出来ない。周りが疑心暗鬼になっているのを感じ、必死になってようやく修復出来たのに。
後ろで見ていた同行者の官僚の1人が
「ミーシャ嬢のほうが、よっぽど早く上手に修復出来るな……」
と、つぶやいた。
は?
聞いてないわよ? 何でここであのモブ女の名前が出るの?
えっ? あのモブ女、聖なる力が使えるの?
どこまでバグってんのよ! バグは早く消去しなきゃじゃない!
そう思うも、あのモブ女強いのよね。暗殺者雇って、狙っても返り打ちにされそう。
毒薬を使用する? いやいや、あの女、薬草にも強かったはず。きっと私より詳しいわ。
あぁ全然消去できないじゃない! どうすればいいの? あの女を利用して功績を私のものにする? いや、あの女気が強いって元側近のダラオが言ってたじゃない。思う通りに動くわけないよね。
なんでモブのくせに、こんなに手強いのかしら。シオン様もあの女の事を気にしてるし、そういえば最近はアズレンまであの女と一緒にいることがある。
何もかも思う通りにいかない。
でも大丈夫よね。私はヒロインなんだから。もっと聖なる力を使いこなして国中の結界を修復して、ゆくゆくはシオン様と結婚して王妃になるのよ!




