王子と父の攻防
ミーシャは、王都のタウンハウスに戻っていた。
両親は後処理と、王家や官僚たちが、どのような方法でミーシャの汚名をそそぐのかを見定めるため、今しばらくは王都に滞在するそうだ。
ミーシャも、しばらく噂が収まるまで学園は休み、両親とタウンハウスで過ごすことにした。
そして今、ラバンティのタウンハウスの応接室にて、いつにない緊張が走っている。
「ようこそお越しいただきました。王国の未来の太陽、シオンライト第一王子殿下にご挨拶申し上げます。この度はお力をお貸し頂き、恐悦至極に存じます」
「とんでもありません。ミーシャ嬢の一大事に、私が駆けつけるのは当然の事です」
父ユクラディアスと、シオンがにこやかに応対している。
なのに、この緊張感は何だろうか。
母のレイラは、終始笑顔で、どこかこの状況を楽しんでいるようにも見える。
「おや? 当然とは、どういった意味ですかな? ミーシャとは、ただの学友。しかも、王家の未来の象徴である第一王子殿下が、1人の女性に肩入れしたとあれば、無粋な詮索をする者も現れましょう。
今回の件は深く感謝致しますが、今後はお控え願いたい」
ユクラディアスは笑顔のまま、シオンを牽制した。
しかしシオンは動じず、笑顔のまま返す。
「無粋な詮索など気にしない方であると思っておりますが?
ミーシャ嬢は、私の命の恩人であると共に、とても大切な人だと思っております。力になるのは当然ですよ」
また当然と、にこやかに繰り返して言っているシオンに苦笑するしかない。
それを見てユクラディアスは、ますます渋い顔になる。
「シオンライト殿下。うちの娘を大切に思っていただけるのはありがたいのですが、うちとしては、今回の王家のやり方には、思うところがあるのです。
我が家は王家に忠誠を捧げておりますが、今後の王家の考え方次第では、袂を分つ覚悟もあります。
殿下は王家の方だ。我が家と懇意にするのは、いささかまずいのではないでしょうか」
ユクラディアスの言葉にシオンは真剣な表情になり、
「今回の王家の対応は、失態であったと理解しているつもりです。私も陛下たちの考えには同調出来ません。
陛下や官僚たちは、始めからミーシャ嬢は冤罪であること、魔物を扱う闇ギルドが関係している事を、薄々気づいていながらも、捜査の手を緩めていたのでしょう。
ですので、私はこれから、陛下や陛下に連なる方々の概念を変えていこうと考えています。時間はかかるかと思いますが、まずは王太子となる事を視野に入れて動きたいと思います。その為にも、ユクラディアス殿には、ぜひお力をお貸し願いたい。必ず、ユクラディアス殿を失望させるような事は行わないと誓いましょう」
と、告げた。
シオンは今まで魔力過多症を患っていた為、第一王子ではあるが、長生きは出来ないであろうと王太子に任命されることはなかった。
だが、病気であることを差し引いても、第二王子のダミアンより優秀であること、シオンの生母である前王妃は、他国の姫であった事から、他国への配慮として、第二王子を王太子に任命せず、空席のまま様子を見ていた。
しかし、ここにきてシオンの病が治り、健康になった為に、王太子にしてはどうかという意見と、現王妃の実家の侯爵家や、それに連なる者たちの、第二王子を押す意見とで分かれているのである。
今回の件で第二王子の評判は下がっており、ミホーク公爵家は第二王子との婚約破棄を視野に入れているとの情報も入っている。
もし婚約破棄が成立すれば、ミホーク公爵家は第一王子派になってくれる可能性が高いだろう。
頭の固い、保守的で自分の利益を一番に考える官僚たち。
シオンはそれらの一掃を視野に入れて、国の改革を行おうと考えていた。
「シオンライト殿下の意思は、しかと受け取りました。
前向きに考えさせていただきます」
静かにユクラディアスは返答し、レイラとミーシャも、それに同調した。




