噂
ミーシャは貴族牢の中で寛いでいた。
牢といっても、貴族牢はこぢんまりとした質素な部屋で、ベッドや机、椅子があり、トイレやシャワー付きの化粧室がある。本も読めるように、小さな本棚とランプまで置いてあるのだ。ただドアのところの壁一面が鉄の格子になっているだけで。
そこに、実家より快適に過ごせるように着替えや生活必需品、紅茶やお菓子などの差し入れがたくさんあり、今回の件は我らがしっかりと解決するから、しばらく寛いで待ってなさいとの伝言もあった。
事情聴取も、辺境伯家の力を恐れているのか、とても丁寧に行われ、見張りは一応いるが、女性という配慮もあり、生活の隅々まで監視されるわけでもない。
なので、ミーシャは思いの外、快適に過ごしていた。
(だからって、いきなり納得のいかない理由で、有無をいわせず連れて来られたのは腹立たしいけれどね。
ユーリ様は、証拠不十分ですぐに釈放になったそうだけど、私はまだ解放されそうにない。
シオン様が面会に来てくれた時に、こっそりと王家の思惑を教えてくれたけど、やっぱりそれが一番の理由なんだろうな。
決定的な証拠がない限り、限りなく黒に近いと判断されて、辺境伯家への責任追求で、爵位降格と財産の没収、あとは私の聖属性魔法の強制使役が狙いだろうか)
シオンと家族が、あの魔物に関する情報を集めてくれているが、時間はかかるだろう。
王家や、辺境伯家をよく思わない他の貴族たちの思惑で、早々に罰せられる可能性がある今、ミーシャも本気で真相を調べなければと考えた。
ミーシャは、コッソリと力を使い、いろんな影の中に自分の使い魔を潜ませて、王都中の情報集めを行なった。
王城は無断で魔法が使えないように、魔法無効の遮断魔法が張られていたが、自分より低いレベルの場合、その限りではない。魔法師団の最高峰がその都度掛け直していると聞いて、やや不安であったミーシャだが、問題なく魔法が使用出来たことに安心した。
この影を使う魔法は、闇属性魔法だ。ミーシャが全属性魔法が使える事は、誰も知らない。今後も不測の事態がない限り、隠し続けるつもりだ。
(本当にチートよね。同じ転生者でも、能力の違いに差があるのは何故かしら?
結局ヒロインは、あの時聖なる力に目覚めていない様子だったし……)
ミーシャは紅茶を飲みながら、使い魔が戻ってくるまで、そんな事を考えていた。
学園内では、演習でリセラや王子に危険を及ぼした犯人の計画犯はユーリ、実行犯はミーシャとして噂が広まっていた。
魔物が都内に入り込んでいたことは、王都中の人々をパニックさせる恐れがあるため、箝口令が敷かれていたが、城下でも少しずつ噂が広まりつつあり、バレるのは時間の問題だろう。
今まで遠巻きにされていたリセラであったが、直接狙われたリセラに同情が集まり、学園内はリセラに味方する者がほとんどとなった。
一旦は捕縛されたユーリだが、すぐに釈放となったとはいえ、事件の真相が分かるまで自宅待機となり学園に通えておらず、ミーシャはいまだに釈放されていないのだ。
誰もが犯人だと確信し、二人を蔑み誹謗中傷した。
「くそっ! 噂が広まるのが早すぎる!」
シオンは未だに手がかりが掴めていないことに焦り、何の証拠もないのにミーシャが悪く言われ、罪を着せられそうになっている現状に歯噛みした。
辺境伯家にも何か掴めたか確認したが、今のところ有力な情報は集まっていないらしい。
ただ、王国内には珍しい魔物を密かに捕まえて、飼っている収集家が何人かいるらしいことが分かった。
裏取引も密かに行われているらしく、その中には稀に神獣の類のものもいるらしいとの情報だ。
魔物の力、魔素を抑え込む特別製の檻に、同様の働きをする道具を魔物の身体に装着することで、ある程度の魔物を大人しくさせることが出来るそうだ。
ただし、確実な安全性が確認されていないため、製造中止となっているはずなのだが、密かにまだ作られていたのだろう。
もし、その中にマンティコアほどの魔物を捕獲し密かに飼っていた者がいたとしたら。
魔素がかなり抑え込まれていたのなら、結界を潜り抜けるのも可能かも知れない。
しかし、もしそのような者がいたとしても、あの時、あの場所にマンティコアを放つ必要性があるだろうか。
手詰まりとなったシオンは、とりあえずその情報だけでもミーシャに伝えようと、ミーシャの元へ訪れた。




