シオン視点
私は焦っていた。
あの魔物に関して根も葉もない噂がチラホラ上がっていたが、出所も分からず、あまりに滑稽な噂だったので、すぐに消えるだろうと悠長に構えていた。
まさか、義弟のダミアンがあの噂を鵜呑みにし、何の証拠もなしに力ずくでミーシャ達を捕えるとは思わなかったのだ。
城に着くと、すぐに異母弟のダミアンの部屋に向かった。
「ダミアン、どういう事だ! 何故あの二人を拘束した! あんな噂、信じるほうがおかしいだろう! 何か証拠でもあるのか⁉︎ 」
「何を言っているのですか、兄上。もちろん証拠はありますよ。夜中に飛竜に乗って、何か大きな檻のような物を運んでいたという目撃証言があったのです。飛竜に乗れるのはラバンティ家のものだけ。だから、あの女が実行犯であるのは間違いないのです」
問い詰めるも平然とした様子のダミアンは、勝ち誇ったように口元を歪ませながら告げた。
「それに、ユーリは日頃より私と懇意にしているリセラ嬢に対して、悪質な嫌がらせを行なっていると聞いている。今回のことも、ユーリが計画し、あの女にやらせたに決まってるんだ。まだ口を割っていないが、どうせすぐに白状しますよ」
「ユーリ嬢はお前の婚約者だろう! なのに他の令嬢と懇意にしているなどと軽々しく口にするなんて!
陛下に許可は取ったのか? 確実な証拠もなしに公爵令嬢や辺境伯令嬢を捕えれば、タダでは済まないのだぞ⁉︎ 」
私は、異母弟と話していても仕方ないと判断し、すぐに父である陛下の元へ謁見出来るよう依頼した。
陛下への謁見はすぐに行われた。
「どうした、シオンよ。余り王城には姿を見せないのに、何か火急の用件でもあるのか?」
陛下は謁見の間にて私に尋ねた。謁見の間には宰相のみが控えていた。
「陛下、ご存知でごさいましょうか? 今、この城の貴族牢にミホーク公爵令嬢と、ラバンティ辺境伯令嬢が捕らえられております。罪状は先日の学園の野外演習に出現したマンティコアが、あの二人の計略であったという根も葉もない噂があったためにございます」
陛下は渋い顔で話を聴き、溜息をこぼした。
「聞いておる。ダミアンが先走ってあの者たちを拘束してきたと。すでにミホーク公爵家とラバンティ辺境伯家より苦言の申し立てが入っておる。
しかしな、ダミアンのいう事にも一理あるのだ。ミホーク公爵令嬢の件は推測に過ぎないが、ラバンティ辺境伯令嬢には、確かにあの魔物を捕獲することも、飛竜を使って連れてくることも可能。聖属性魔法で結界を緩めれば、あの魔物は王都に入ってこれよう。
だから、ラバンティ辺境伯令嬢に対しては、簡単に放免にすることは出来ないのだ」
私は、これを機に偏っている辺境伯家の力を削ぐつもりなのではないかと考えた。
もともと、辺境伯の力を国に取り込むつもりで取り決めた中央貴族との縁談も、その子息のやらかしによって破談となり、魔石鉱山や多額の慰謝料、迷惑料を貰い受け、ますます財力を豊かにした辺境伯家。また武力、魔力、知力ともに秀でているため、王家にとっては脅威な存在。
そして、そこの令嬢が聖属性魔法も使えるとなると、王家としては頭が上がらない。
今回の騒動は、辺境伯家を平伏させる絶好の機会。
宰相がそこに控えているという事は、宰相の入れ知恵でもあるだろう。
王家は頼れないと悟った私は、辺境伯家の協力を願う事にした。
助けられてばかりで、情け無い男だと思われているだろうが、今ここでミーシャ嬢を支えなければ男じゃない!
ミーシャ嬢、待っててくれ。今度は私が君を助け出してみせる!




