ラバンテイ辺境伯ユクラディアス視点
俺は辺境伯の領地にて、いつも通り魔の森近くの警戒と、書類仕事に追われていたある日、王都に送ってある密偵より急ぎの伝令が届いた。
「はぁ⁉︎ ミーシャが身柄を拘束されただと⁉︎」
急ぎ妻のレイラと、息子のダンテを呼び寄せた。
「ミーシャが謂れのない罪を着せられて王宮騎士団に拘束されたとの知らせがたった今入った! 至急情報収集すると共に、王都に出向く準備をするぞ!」
俺は届いた一報をレイラとダンテに見せながら叫んだ。
「どういう事ですの⁉︎ ミーシャがお友達と共謀して誰かを襲うだなんて、しかも魔物を使うだなんて、するわけないじゃないの! わたくしも王都にいきますからね!」
レイラが叫び、ダンテが、
「ちょっと待ってください! この前は俺はミーシャの危機に駆けつけられなかったんだ! 今回は俺も行きたい!」
と、叫んだ。
「駄目だ。お前まで行けば、辺境伯騎士団の指示系統が乱れる。お前はこのラバンティ辺境伯家の次期当主。この領地に留まってここを守ってもらいたい」
俺の言葉に「また、それかよ!」と言いながらも、渋々納得してくれた。
俺たちはすぐに王都に向かい、まずタウンハウスにて今回の騒動の流れを確認する事にした。
家令ショーンの話では、学園で行われた野外演習にて、突如マンティコアが出現し、第二王子のいるグループが襲われたらしい。
すぐにミーシャ達のグループが駆けつけ、魔物を仕留めたらしいが、何故かその魔物を連れてきたのがミーシャだとされたらしい。
「なんでうちのミーシャがそんな事をすると思われたんだ!」
俺の質問に、
「最近親しくさせて頂いております、ミホーク公爵令嬢に頼まれたと考えられているようです」
と、ショーンが返答した。
すぐにミホーク公爵家に連絡を入れ、妻レイラにはタウンハウスで待機してもらい、ミホーク公爵と共に王宮に出向いて、陛下に進言した。
「陛下! 我が娘を何の証拠もなしに身柄を拘束するとはどういう事ですかな! これは由々しき問題ですぞ!」
先ずはミホーク公爵が陛下に告げ、すぐ後に俺も陛下に告げた。
「陛下、私も同じ意見ですぞ。何故我が娘ミーシャが魔物を王都内に入れ、演習中に魔物を放つ必要性があるのですか。
我が家は代々王家に忠誠を捧げ、この王国を守る盾となり、日々魔物討伐に明け暮れる毎日。娘は幼き頃より、その事を充分に理解し、一緒になって魔物討伐をしてきた身。魔物の脅威は充分知っており、間違っても人にその脅威を向けるなど致しません!」
「陛下の御前ですぞ! お控え下さい!」
と、そばに居る宰相が叫んでいるが知ったことか!
陛下は苦々しげな表情をしながら、
「よい。確かに証拠はまだないからな。しかしミホーク公爵令嬢は、常日頃からダミアンと、ある令嬢との間を勘繰っており、常日頃よりその令嬢を虐げていたと聞く。そして、今回襲われそうになったその令嬢と共に、我が息子のダミアンも近くにいたのだ。
王族を危険に晒す行為は如何なる場合であっても許されることではない。なので、まだ何も証拠は掴めてはいないが、疑わしき者はすぐに拘束したのだ。
だが、ダミアンの証言だけでミホーク公爵令嬢を拘束し続けるには無理がある事も確かである。よって、ミホーク公爵令嬢に関しては、一旦放免とする。
だが。ラバンティ辺境伯令嬢においては、すぐに放免とするわけには行かない」
と、説明後、一旦間をおいて陛下は俺を見た。
「それは何故か説明して頂けますかな。我が娘も、証拠や動機はないはずですが?」
俺は必死で怒りを抑えながら、冷静を装い質問した。
「確かに証拠もなく、ダミアンが言うミホーク公爵令嬢に頼まれたからという動機も推測にすぎない。
しかし、あの者には力がある。魔物を捕獲する事も、王都に連れて来る事もあの者なら可能だ。力だけで言えば、他の者にも当てはまる者はいるが、あの時、あの場所にその力を持つ者はラバンティ辺境伯令嬢のみ。
それに、飛竜に乗って何か大きな箱を運んでいたとの目撃証言もある。飛竜はラバンティ辺境伯家の十八番だ。状況証拠であるならば、あの者が一番怪しい事になるからな」
と、陛下が返答した。
対抗出来る情報や証拠も今のところ掴めていない現状では、一旦引き下がるしかない。
しかしミーシャが手荒く扱われることのないよう、最大限の手は打っておかなければ。
「分かりました。しかし我が家は娘ミーシャを信じております。後日、これが冤罪での拘束と判明した時は、しっかりと補償して頂く事になりますぞ。
もちろんミーシャを陥れた者にも、不要に粗末に扱った者にも決して容赦は致しません。その事を肝に銘じて頂こう」
怒りの覇気を纏いながら、王宮を辞した。
このままあいつらに任せておけるか! 辺境伯家の力を総動員して、事件の究明をし、何としてもミーシャを助ける!
ミーシャ、しばらく我慢してくれ! 必ず濡れ衣を晴らして、汚名をそそいでやるからな!




