魔物が出た
演習の班のメンバーは、ミーシャ、シオン、ティナ、そして教皇の息子のアズレンの四人だ。
「なんで僕だけ、違う班なんだ……」
アズレンがブツブツと不満気に言っている。
ちなみに、リセラの班は、ダミアン王子、宰相子息のミゼル、騎士団長子息のオルガの四人だ。四人一組にて、アズレンが外されたのだろう。
王都のやや外れに位置する森に到着し、教師の指導のもと、それぞれ班に分かれて森を探索した。
森の中には、スライムや、一角兎などの小物の魔物がほとんどだ。たまに出る毒バチや毒グモには要注意である。
「出でよ! ファイアボール!」
「貫け、アイスランス」
「切り裂け! ウインドカッター」
火魔法はアズレン、氷魔法はシオン、風魔法がティナ。
それぞれ得意魔法で見つけた魔物を倒していく。
「ミーシャには、物足りないんじゃない?」
小さい時から領地で魔物討伐に参加していた事を知っているティナが、揶揄いながら話しかけてきた。
無詠唱で倒していくミーシャを見て、アズレンは絶句している。
「格の違いを見せつけられたね」
と、シオンも苦笑していた。
順調に進めていき、演習も後半になった頃、突然後方より、大地に響きわたる笛のような大きな咆哮と共に逃げ惑う人たちの声が聞こえた。
「キャー! ダミアン様!」
リセラの叫び声を確認したアズレンが
「リセラ⁉︎」
と、声のした方に駆け出す。ミーシャ達も後を追うと、今にも人を襲おうとする凶悪な魔物が目に入った。
「マンティコアだと⁉︎ 」
その魔物を見たシオンが焦った表情で叫んだ。
マンティコアは、ヒト形の頭部にライオンの胴体、毒を持つサソリの尾があり、気性が荒く、頑丈な皮膚を持つ。
その見た目と反して声は笛のような音色を放ち、人を惑わせて襲い喰らう。
強さはS級やA級モンスターほどではないが、それなりの強さを持ち、数がそれほど多くない希少性を持った魔物だ。
その場にいたのは、リセラやダミアンの班のメンバーで、何とか攻撃魔法を放ちながら応戦し場を凌いでいたが、恐怖で腰の抜けたリセラとミゼルを庇いながらでは無理があったのだろう。
ダミアンとオルガは体力が消耗し、魔法を放つ気力も尽きかけた頃、マンティコアが再度咆哮を上げると共に、今にも飛びかかろうとしている。
すぐにミーシャはマンティコアに向かって雷魔法を放ち、身体強化して剣で斬りかかった。
シオンやアズレンも、マンティコアに攻撃魔法を放ち、その隙にティナはリセラ達を安全な場所まで誘導しに行く。
ミーシャ達によってマンティコアが討伐された頃に、知らせを受けた教師やユージュ、念のために控えていた騎士たちが駆け付けてきた。
その間、リセラは全く聖なる力に目覚める事はなかった。
野外演習は中止となり、すぐさま状況調査が行われた。第一発見者はリセラの班のメンバー4名で、近くにも違う班の者が数名いたらしい。
リセラの班のメンバー以外は、すぐにその場より逃げ出して、教師に知らせに行ったが、ダミアン王子やオルガは、無謀にもマンティコアに挑んでいったとのこと。
しかし、全く歯が立たす、追い詰められたところにミーシャ達が駆けつけたというわけだ。
マンティコアはリセラ達の前に突然現れたらしいが、それ以前の痕跡はなく、何処から来たのか、いつからいたのかは全く不明のまま、調査は難航した。
そして、数日後より変な噂が流れ始めた。
「ユーリ・ミホーク公爵令嬢! お前がリセラを狙って、あの魔物をあの森に放ったらしいな! 今日という今日は許せん! これは立派な殺人未遂だ! しかも、あんな魔物を連れ込んで王都を恐怖に晒すとは一体どういうつもりだ!」
ダミアン王子が3学年のユーリのいる教室に乗り込んで、ユーリを罵倒した。
「まさか。何故わたくしがそのような事を? 聞けば現れた魔物は凶悪なマンティコアだとか。
そのような魔物をわたくしが操れるとでも?」
冷静に返答したユーリを見て、憎々しげに
「ふん、知ってるんだぞ! 貴様はミーシャ・ラバンティ辺境伯令嬢と懇意にしてるだろ! お前はあの者にリセラを狙うよう指示したのだ! あの者の力があれば、あのような魔物など簡単に捕獲して、あの場に連れて来ることなど可能だ!
そしてバレるのを恐れて証拠隠滅のために、あいつはマンティコアをすぐに討伐したのだ!」
と、大声で叫んだ。
ダミアン王子の元に、リセラや、オルガ、ミゼルも駆けつけ、今にも泣き出しそうなリセラを守るようにしながらユーリを睨みつけている。
「衛兵! ユーリ・ミホークを捕まえろ!
2学年のミーシャ・ラバンティも同様に捕まえて城に連れてこい!」
そして、ユーリを捕縛後、衛兵たちは2学年の教室に向かい、帰宅準備をしているミーシャに、第二王子の命令であると告げ有無を言わさずにミーシャを捕縛した。
そしてそのままお城の貴族牢に閉じ込められた。




