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モブなのに最強?  作者: らんか
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婚約破棄

「ミーシャ、見て。また第二王子と側近達があの男爵令嬢にデレデレと群がってるわ。公衆の面前でのあの距離感! あの方達ってみんな婚約者がいるのでしょう? 何を考えてらっしゃるのかしら。

 ほら、あなたの婚約者のダラオ・マルホン伯爵令息様もいるわよ。あなたとのお茶会も最近ずっと来ないのでしょう? ほっといていいの?」


 親友である伯爵令嬢のティナが顔を顰めながら話しかけてきた。ちょうど授業が終わり、昼休憩に入る時間。入学当初は婚約者のダラオと昼食を共にしていたが徐々に来なくなり、ここ半年は全く音沙汰なしだ。どうせ今日もあの男爵令嬢を中心に第二王子達と食堂に行くのだろう。

 

「いつもの事でしょ。ティナ、私達も昼食を食べに行きましょう。うちの料理長が今日はティナの好きなレモンゼリーをデザートに持たせてくれたのよ」


「まぁ! それはぜひ頂きたいわ! 私達もいつものガゼボに行きましょう」

 ティナは目を輝かせ、すでにあの集団は眼中に無い様子だ。私は苦笑しながらも、ティナと共にガゼボに向かった。


 この国では貴族は15歳になると三年間、王都にある貴族学園に通うことが義務付けられている。

 辺境伯令嬢であるミーシャと、中央貴族である婚約者のダラオ・マルホン伯爵令息は政略結婚であり、学園の卒業と同時に結婚することが決められていた。

 ミーシャはダラオに恋愛感情はなくても、将来の夫として良好な関係を築こうとしていた。勝ち気で男勝りな性格だが、見目は美しく白銀の長いストレートヘアをポニーテールにし、琥珀色からアメジスト色のグラデーションが珍しいやや吊り目の大きな瞳。貴族令嬢でありながら、幼い頃から父や兄と共に領地近くに出没する魔物討伐に明け暮れても、そうは思わせない色白のほっそりとした体型。強く美しいミーシャは男女共に憧れの的だが、どちらかというと女子からの羨望の眼差しが多かった。

 しかしダラオは、幼い頃より辺境地で父や兄に鍛えられ、乗馬や武芸はもちろんの事、勉強においても自分の先を行くミーシャに劣等感を感じていた。そして何より女であるミーシャが自分より魔法に特化している事が気に食わなかった。

 

 そんな気持ちを抱えながら学園に入学し、同じ年に入学してきた第二王子の側近に選ばれた事で自尊心が満たされたようだ。

 そして徐々にダラオが第二王子と他の側近と共に、ある女性に熱をあげているという噂がミーシャの耳にも入ってきた。

 その頃には学園に入学したら交流の一貫として昼食を共にする事や、月に一度のお茶会もすっぽかされる事が続き、どういうつもりだとは思うものの、政略結婚である以上は、卒業するまでの遊びに過ぎないと割り切って傍観していた。





「ミーシャ・ラバンティ辺境伯令嬢! お前との婚約は破棄とする! お前のようなオトコ女とは結婚出来ない!」


 婚約者のダラオが、か弱そうな例の男爵令嬢を左腕で抱き寄せ、慈しむように彼女を見つめた。


「リセラ、怯えなくていい。私が君を守るからね」


そう言ってミーシャを睨みながら、学園の大勢の生徒が休憩している中央テラスの中で叫んだ。


 お互い進級して2年生となり、交流が途絶えてから更に半年経った夏のある日。久しぶりに顔を合わせた婚約者の暴挙に、思わず 「はぁ……」

と、ため息交じりの令嬢らしからぬ返事をしてしまったが、同時に、

〈あ、これオープニングだ〉

と頭にその言葉が浮かんだ。

 

 そのまま流れるように、前世の自分は日本という国で生まれて、学校卒業後は会社に勤め、ワーカーホリックで過労死した事を思い出した。

 しかもここは、私を心配した妹に、気分転換に勧められて始めた乙女ゲームの世界だ。自分はオープニングにだけに登場するモブ令嬢だと気付いた。


(急に思い出したのに、こんなに落ち着いてる自分にびっくりだわ。しかもこの状況でも、あんまりショックじゃない。私、この人の事をあまり好きじゃなかったのね。

まぁ、いっか。前世でも結婚願望なかったし、もともと両親も、この婚約には乗り気じゃなかったから、ラッキーじゃない。

領地に戻ったらお父様に泣きついて、独身のまま領地の隅にでも住まわせてもらおう。魔物討伐に人手がいるから、手伝いながらひっそりと暮らしていけるよね。

 そうだ! あのヒロインはリセラって名前だったわ。

あら? この半年後にメインの第二王子に、婚約者の公爵令嬢も婚約破棄の断罪をされるんじゃなかったっけ?

私はこの後、出番ないから卒業まで傍観してていいのよね? 間近で乙女ゲームを見て楽しめるのって、得した気分?)


 そんな事を考えていると、何を勘違いしたのか得意気な顔で、

「ショックで返事も出来ないのか? でも、これは決定事項だからな!」

と、ダラオは、ニヤニヤした表情で告げた。

 

「いえ、そのお申し出、私個人としては謹んでお受け致します。ですが、これは国が決めた政略結婚ですので、そちらのご両親と、うちの両親にもちゃんと話を通して下さいませね」


 にっこりと微笑みながら返答すると、ダラオは顔を真っ赤にして怒りながら、

「言われなくともそのつもりだ! そういう可愛げのないところが前から嫌だったのだ! リセラのような、慎ましやかな可憐な女性とは比べものにもならない!」

と、捨て台詞を吐きながら、リセラと共にテラスを後にした。




「ミーシャ! 大丈夫? ホントにあの男は見る目がないわよ! あの男にミーシャは勿体ないわ!」

と、ティナが駆け付けて慰めてくれた。


「大丈夫よ。でも、この事を早く両親に伝えたいから、今日はもう帰るわね」

 

 ミーシャは学園に早退することを申し入れ、迎えの馬車を呼び、王都にあるタウンハウスに早々に帰った。



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