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いたずら  作者: あるとII
8/24

【08】実行(4/4)

実行編、最後です。

 美香のいる部屋がノックされ、男性駅員が入る。

「聞いてたか? 被害はなしだ」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」

「いやまあ……本当に良かったのか?」

「ええ。これでいいんです。」

 美香は笑顔をこぼしながら残る涙を拭った。

 心底嬉しくなった。これで解放されるからだ。

「それじゃ、あなたもお帰りなさい。その前にメイク直しましょうか。顔酷くなってるわ」

「え、あ、じゃあ……」

「ほら、出て行って、女の子がメイクするんだから」

「あ、ああ。じゃあ、オヤジから先に帰すぞ」

「わかりました」

 そう言われて、男性駅員は部屋から出た。


 進は警察や部屋の中にいる美香とのやりとりを見守ることしかできていない。

「あんた、そういうわけだ、釈放だ」

「え?」

「結局、娘さんの意見を受け入れることにした。被害届が出ない以上、こちらも警察にぶち込むわけにいかないからな」

「そ、そうですか」

 痴漢にされたこと以上に頭が追いつかない。結局なんだったのだ。

「だが、会社にはすでに報告しておいたからな。出社したら人事部に顔出せってよ。帰ったら娘さんに感謝しろよ」

 進の表情が少し緩む。会社に連絡されるのはできれば勘弁してほしいが、警察よりましだ

「そ、それで娘は」

「相当泣きじゃくっていたから、いまは部屋でメイクを直してる。あんたが帰ってから帰すことにする。痴漢野郎と一緒には帰せないからな」

「だからちが……」

「あーもういいから。こっちも割り切るから。この話はこれで終わりだ。帰っていいよ。命拾いしたな」

 駅員は、反論しようとする進を、しっしっと手振りする。

「お手数かけました。それじゃ」

「あ、ちょっと待て。電車に乗るまで見送る。あの子に近づけさせないためにな」

 そういって、進を囲んでいた男性駅員の一人が先導して、進は事務室を出ていった。

 進は会社へ向かう列車に乗るところまで監視され、駅を離れた。

 美香はその三十分後、女性駅員に連れられて自宅への路線に乗せてもらい帰っていった。

 

 会社に向かうと、指示通り、その足で人事部に出向く。 

 人事部長で同期の山本が血相を変えてやってきて、すぐに会議室まで連行された。

 一通りの説教を終え、進が詫びとして頭を下げる。

「いったい何があったんだ? お前がそんなことするとは思えない」

「俺もだ。なぜ娘がいたのかもわからない。何もできずに冤罪をかけられて釈放された。だが、誓って痴漢行為は働いていない。それは信じてほしい」

「そこはわかってるよ。お前がそんなつまらないことをするとは思えん。それができる度胸があるならとっくに……いや、すまん」

「出世してる、か。まあ、そのとおりだ。気にするな」

 山本の表情が少し緩む。

「勝川部長は何か知ってるのか」

 勝川は進の直接の上司だ。年下でやり手だ。お決まりのように、年上の進を見下している。

「上司だし言わないわけにいかないだろう。冤罪であることは強調しておいたがな」

 駅から会社へは人事部に連絡がいったらしく、勝川には人事部経由で話が通ったらしい。少しまずかったかなと思ったものの、今より嫌われても実害はさほどない。

「とにかくだ。勝川部長には形だけ謝っておけよ。あの人は仕事はできるがねちっこいから」

「わかった。その筋は通しておく。迷惑をかけた」

 進は立ち上がって、あらためて一礼してオフィスに向かった。

 案の定、勝川からは他部署でも聞こえるような声で叱責を受けた。『これだからいつまでもヒラなんだ』『告発されるのは神経がたるんでいるからだ』『山本さんがなんと言ったか知らないが俺には通用しない』などと罵詈雑言を並べ立てられた。

 オフィス内の視線も冷ややかだった。普段慕ってくれる社員たちからも距離を置かれた。きっと痴漢したという事実だけ公表したのだろう。

 その日は深く追求することなく自分の仕事に集中した。仕事で誰かに声かけするときは驚かせないように配慮もした。

 仕事は十九時頃に終わり、まっすぐ家路についた。


旦那さん、大変な一日でした。

次回、美香の視点です。

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