【06】実行(2/4)
進は妙に落ち着いていた。学校にいるはずの娘がなここに?とも思ったが、痴漢の方が優先順位が高かった。
当然、自分の潔白を確信している。「触れた」可能性はあるが「触った」ことはない。娘らしき子がいたのはなんとなく気づいていたが、その子が娘だとは気づいていないし、こんなことになるような行為はしていない。
それでも進を見る周囲や駅員の目はとても冷ややかだ。
列車は美香と進、他の乗客を降ろすと、すぐに次の駅へと去って行った。それとともに駅員が二人を駅事務室に連れて行く。
進は空いている席に案内される。なにかまずい事態になったという現実感が頭に浮かぶ。冤罪なのはわかりきっているのに証拠もないから何も動けない。一種の絶望感からなにも言葉にできない。
美香はそんな進に目を向けた。すぐにでも笑い出しそうな気持ちを必死で抑え、すぐに目をそらす。まだ計画は終わっていない。私が釈放されないといけない。加害者を近づけない配慮だろう、女性駅員が個室へと促す。
「さて、少しは落ち着いた?」
「は、はい」
美香が差し出されたお茶をすするまで五分ほど経った。
「あ、あの、騒がしくしてしまってすみません。つい声が出ちゃって……」
「いいのよ。私だって、父親が自分に痴漢しに来たと思ったらぞっとするもの」
「お、おとうさんは?」
「ああ、外で警察が来るのを待っているわ」
「え? もう警察?」
「あたりまえでしょう。しっかり処罰してもらわないと」
美香の顔に緊張が走る。まずくないか。警察に連れて行かれたら前科は免れないという。犯罪者の娘なんて冗談じゃない。
「あ、あの!」
「なに?」
「お、お父さんを許してもらえませんか!」
「え、あのエロ……いや、お父さんを? あなたを痴漢しようとしたのよ?」
「はい。でも、たまたま魔がさしただけかもしれませんし。家では家事もしてくれる優しいお父さんなんです。お願いです。何もなかったことにしていただけませんか?」
「そうは言ってもねえ……。会社に報告はいくよ?」
「それは仕方ないと思います。でも犯罪とかは……。私も、犯罪者の娘はイヤなので」
「うーん……」
「お願いします! どうかお父さんを、父を許してください!」
自然と涙が流れ、頭が下がる。
自分の地位を落とさないために必死で頼んだ。
話を分けるのがわりと大変です。自分で書いたくせに。。
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